4…仮組員

楼side

0時を過ぎる頃、書類仕事をしてると


「兄貴」


襖越しに蓮の声が


「何だ、こんな時間に」

「話がある」

「…」


何か苛立ってんな

こりゃ話聞くまで絶対に退かねぇな…


「入れ」


少し乱暴に襖が開き、蓮がズカズカと来る

俺は書類に目を通しながら


「話って何だ?」

「…前に話してたヤツ」


蓮と目を合わせる


「明日からやりたい」

「…」


やるんだったら栞に付かせる

前にそう俺から言ったが…


「…、分かった。明日から酒向に付いて「あ?話が違ぇ」」

「やるんだったら栞に付くんだろ。何で酒向に変わってんだよ」

「状況が変わった

 栞は今、単独で仕事してる。栞だけって条件付きでだ

 そんなとこに実践経験も無い仮組員を付けれねぇだろ」

「…」

「分かったか」

依頼人が、俺がいてもいいっつったら、いいか?」

「…」


コイツ、何が何でも栞に付いていこうとしてんな

…まあ、依頼人もそんな堅い奴じゃない

いや、寧ろ面白がるかもしれねぇな…


「…はぁ、分かった。相手には俺から説明しとくが、ちゃんとしろよ」

「おう」

「それと…」


これだけは言っとかねぇと


「例え仮でも、お前は桜井組の組員になるんだ

 仕事先でどんなに不快に思う事でも、絶対に手を出すな」

「…」

「いいな?これを守らねぇと栞には付かせねぇ

 お前が下手に動けば、仕事に支障をきたすかもしれねぇんだ」

「…分かった」

「もう遅い、さっさと寝ろ」


蓮が部屋に戻ってくのを見て、盛大に溜息を吐く


「最悪のタイミングだな…」


何があったか知らねぇが、あの怒りと嫉妬しかない目と態度

アイツが仕事内容を知った時、どうなるか


「栞、すまん」

 

 

蓮side

部屋に戻ると、栞はもう寝るだけの状態に

不安な表情をしてる

栞の前に座り、目を合わせる


「栞、明日から…俺も一緒に行く」

「…、え?」

「兄貴から許可が出た、仮組員としてお前に付く。依頼人にも話を通すって」

「…」


栞は動揺し、目が泳いでる

数秒後には目を閉じ、溜息を吐いた


「分かった。楼が許可したんなら、何も言わない

 …でも、鷹として」


栞が目を開けると、そこには鷹としての顔が


「俺は決して私情は挟まない

 依頼人からの要望が、蓮が不快に思う事でも迷わずやる

 絶対に手出しするな」

「…」

「いいな?」

「分かった」

「…」


栞は目を伏せる


「…何で蓮まで、こっちの世界に来ようとしてるの」

「それは少し違うな」


栞を抱き締める


「極道の世界に入ろうとは考えてねぇ

 俺はただ…、お前が心配なだけだ

 そして、まだ俺が知らねぇお前の事が知りたい」

「…そんな事の為に?」


少し離れ、頰を両手で包む


「俺にとって、そんな事じゃねぇんだ

 今だから言うけどな

 お前等が仕事してる間、俺がどんだけ不安な気持ちでいると思ってんだ

 どっか怪我してねぇかって…、どんだけ心配してると思ってる

 いっその事、辞めさせてやりてぇ位だ」

「…」

「でもお前等が、それを望んでない以上、何も言わずにいようとしてた

 でもな?やっぱり心配なんだよ

 そんな時だ、兄貴から仮組員の話を出されたのは」


ニッと口角が上がる


「こんなチャンス、使わねぇ訳ねぇだろ」


栞はゆっくりと瞬きし


「…明日も朝早くに出る、正装の用意をして

 念の為、偽名も」

「おう」


早速用意しようと立ち上がろうとしたら

栞にギュッと抱き締められる


「栞?」


栞は耳元で


「蓮は、私が護る」

「…フッ、私情は挟まないんじゃないのか?」

「蓮の彼女として感情的に動くのは許されないけど…」


栞が少し離れ


「桜井組に属する鷹にとって組員を護るのは当然の事

 仮組員なら尚更、色んな危険から護るのは当たり前

 私情は挟んでないよ?」


首をコテン…と傾け、ニコッと微笑む

そんなのを見たら、抑えられる筈もなく…


気付いた時には朝を迎えてて、慌ててスーツを用意した