新たな家族(4)

栞は仮面を着けてるが、今でも僅かに黒い…闇の魔力が溢れてる

レノとラルフがアイツに見つからねぇ様にしてくれてる

んでゼルファが暴れたいっつって人型に


本拠地の近くで、栞が中を探る


「…今現在で捕まってる人はいない」

「つまり、全員潰しちまっていんだな?」

「うん、…あ」

「どうしたの?」

「地下に動物が沢山いる

 鎖に繋がれて檻に…、ゼルファに頼んでいい?」

〔うむ 任せておけ〕


カイは辛そうにラルフの背中でグッタリしてる

栞はカイの頭をそっと撫でる


「ゴメンね、もう少しだけ待ってて

 ラルフ、カイをお願い」

〔承知〕


扉をぶっ壊そうとすると


〔我がやろう!〕


ゼルファが腕を竜化させ、思いっきり叩き付ける

ドガァンッ!

見事にぶっ壊れた


「何だぁ!?」

「どうしたっ!?」


中で騒ぎ出す声が


「お前等をぶっ潰しに来たんだよ」


戦闘開始だ

 

 

地下はゼルファに任せ、私達は他を全部潰す

ドグの記憶をよんでボス…シュドは分かってるから、それ以外は容赦無く


そして、ウザい位の人数を潰して

漸くシュドの所に


「おいおい、何好き勝手してんだよ?」


…流石、人身売買なんかしてる奴等のトップ

こんだけ暴れても平然としてる


「アンタがドグって奴の金庫から持ってった、魔水を貰いに来た」

「魔水?…それは」


シュドが懐を探り


「コレの事か?」


透明な小瓶の中に、キラキラと輝く水が


「もしかして、その犬の上で寝てるガキがソレか?」


シュドがニヤッと嫌な笑みで近付いてくる


「それ以上、この子に近付くな」

「お前等、そのガキがどんだけ儲かるか知ってるか?」

「…は?」


蓮の呆れる声


「ソイツはな?魚人の王族の血を受け継いでんだよ!

 魔力が他のヤツとは違ぇんだ!

 元々魚人族の魔水は闇市で高値で取引されるが

 コイツや親のは桁違いだ!

 だからソイツが赤ん坊の時に盗んで

 返してほしいんなら魔力を寄越せと、親から魔力を奪い続けたんだ!

 ラッキーだったぜ?

 なんせ俺も…」


シュドが帽子を取ると、カイと同じ…


「ソイツと同じ、魚人族だからなぁっ!」


シュドが手を広げた瞬間、部屋全体に水が流れ込む


「「「!?」」」


咄嗟に自分達を《サイコキネシス》で囲うが、激しい水流に飲み込まれ

色んなとこにぶつかって位置感覚が分からなくなる


「ギャハハハッ!何にも出来ねぇだろっ!?

 さっさと降参してガキだけ置いて帰りなぁっ!!」

「…っ」


この水を何とかしないと、アイツに近付く事すら出来ない

…やってみるか

蓮達を引き寄せ、私だけシールドを解く

水圧が体に一気に掛かって苦しい…っ

蓮と紫音がドンッドンッとシールドを叩いてるのがチラッと見える

早くっ、息が続く内にっ…!

右手は氷、左手には火の魔力を

威力も調整して…


インフェルノ(氷炎地獄)》!

 

 

紫音side

姉さんのお陰で、部屋中が水で溢れても平気だ

でも、アイツを倒すにはどうしたら…

俺の魔法でも、これだけの水圧じゃ途中で消える

すると、グン…と引っ張られ、気付けば全員が姉さんの側に

姉さんは1人だけシールドを解き、強い水圧に苦しんでる


「!? 姉さん何をっ!?」


姉さんが苦しい表情の中、左手から見えたのは火属性の…

瞬間

俺達側は水が蒸発し、シュド側はピキン…と凍り付く

シールドが解け、着地すると

姉さんが座り込む


「ぐ…っ、ゲホッ!ゲホ!」

「「栞(姉さん)!」」


何度か咳き込んで、飲んだ水を吐き出す


「フェニア!」


蓮とフェニアの火が姉さんを包み込んで水気を飛ばす


「ゴホッ…、はぁ…。ありがと」

「栞、何やったんだ?」

「氷と火の魔力で《インフェルノ》って魔法を使ったの」

インフェルノ…」

「1つのエリアで氷と火を同時に発生させる魔法だよ」


姉さんは火の魔力を纏い、氷を溶かしながらシュドの元へ

あと1m位のとこで止まり、手だけを伸ばし、さっきの小瓶を取り出す

姉さんは戻ってくると、ラルフからカイを下ろすが


「…」

「? どうした?」

「今、アイツの記憶をよんだら…、カイの両親はもう…」

「そう…なんだ…」

「もしかしたら、コレが最後のかもしれない

 今全部飲んだら…」


姉さんはカイを優しく揺する


「カイ、…カイ…」


カイがゆっくりと目を開ける


「カイ、きっとコレが今ある最後の魔水

 飲めば今は楽になるけど、また苦しくなる

 それでね?カイ…

 私達と一緒に来ない?」

「…え…」

「私が少しだけコレを飲んで、私が作れる様にする

 私達と家族になってくれれば、もう…、苦しい思いをしずに済む

 それに、カイと一緒にいたい

 だから…、家族に、ならない?」

「か…ぞ…、く…?」

「そう」


カイはフニャ…と力無く微笑み


「うん …なる。シオリと…皆と、…家族に…なり…たい」

「ありがとう」


カイは目を瞑り、息も絶え絶えだ

姉さんは小瓶を開け、少しだけ飲む

目を瞑り、体内で魔力を調べる

そこに…


〔おい、こっちは終わったぞ〕


ゼルファが来る


〔む?何をしておる?〕


かくかくしかじかで…


〔ふむ 状況は分かったが、恐らく足りん〕

「「え?」」

〔魚人族特有の魔水だ、そう容易には出来ぬ

 だが、魔力よりも有力なモノを取り込めば、カイに適したモノが作れるだろう〕

「それは?」

〔うむ ズバリ、血だ

 血は何者にとっても一番の源、カイの血を少しでも取り込めば

 シオリが作る魔水で生きられる筈だ〕

「…ホントか?」

〔む? 何千年何万年と生きておる我の言葉を疑うとは

 シオリ、やってみよ〕

「…カイ、ちょっとゴメンね」


姉さんはカイの指先を少しだけ切り、血を舐める

改めて生成すると

数秒後には片手にキラキラと光る水球


〔成功だな〕


ゼルファがドヤ顔だ

ソレを少しカイの口に入れれば、弾けて液体に


「! ゲホッ!ゴホッ!」


上手く飲み込めず、咽せてしまった

姉さんはすぐに魔水を飲むと、カイに口移しで飲ませる


「「!」」


コク…と飲み込めた

その後もカイが落ち着くまで、姉さんは口移しで飲ませた

全部飲み終わり


「カイ…」


姉さんが呼べば、ゆっくりと目を開ける


「もう、大丈夫」


姉さんは慈愛に満ちた笑みだ

カイは涙を流し


「…お…母…さん」


姉さんにギュッと抱き付く

姉さんは優しく抱き締め、カイの背中をポン…ポン…と叩く


「さて、帰ろっか」

「「おう」」


シュドや潰した奴等はまとめて警備隊に突き出しておいた

 

 

蓮side

その夜

カイは栞の(いつもは俺と栞が寝てる)ベッドにラルフと寝て、紫音は風呂に

俺は栞とベランダでゆっくりしてる


「今日は色んな事があったな」

「ね、大変だったね」

「…なぁ」

「ん?」

「カイ、お前の事、お母さんって呼んだだろ?」

「…うん、呼んだね」

「……実は、前から、考えてたんだけどよ

 俺達も…、子供…つくって、みねぇか?」

「…」

「…」

「…、蓮」

「お、…おう」

「…私も、何度かは、…考えたの…」


栞は段々と俯く


「…蓮との子供は、欲しいって…何度も、思った…、けど…」

「……、けど…?」


俺を見上げる栞の目には、迷いが


「私は、蓮も知ってる通り…まともな環境で育ってない

 それに…、この世界を知るまでは、私の力は、異能だった…

 もしこの力が、自分の子供にまであると思ったら…、怖かった…

 この世界があるから、怖くなくなったけど

 それよりも…、私がちゃんと子供を愛せるかが分からない…っ」

「…っ」

「蓮と…皆と再会してからっ、やっと愛し、愛される事を知った

 それまで私は、愛が無い…いや、それ以前に感情を必要としない環境で育ってきた…っ

 そんな私が、ちゃんと育てられるのかな…っ?」


思わず栞をギュッ!と抱き締める


「ドグって奴に何をしたか…見えてなくても分かってたでしょ?

 あんなの…、カイがいる前でやるべきじゃなかった…っ!

 私には闇がある…

 忘れたくても忘れられない過去、闇が…っ

 皆が、…蓮が側にいてくれるから、私は闇に堕ちない

 でも、そんな私が子供をつくっても…、いいのかな?」


俺の胸に頭を付けて、震えながら…、今まで溜め込んでたであろう不安を漏らす


「…栞、俺の目を見ろ」


栞はゆっくりと顔を上げる

泣いて、目が赤い


「栞、…ありがとな」

「…?」

「お前も…俺との子供が欲しいって…、思ってくれてるんだな」

「…うん」

「栞の不安は、多分…もう解消されてると思うぞ?」

「…、え?」

「カイが水が飲めない時に、お前は迷わず口移しで飲ませた

 んで、カイが目を開けた時…

 お前は、スッゲェ優しい顔をしてたんだ

 それを見て、カイは母さんって呼んだ

 きっとお前は、愛情を沢山あげられる…優しい母親になれる

 そんで俺も、栞以上に愛情を沢山あげる父親になる」

「…蓮」

「今すぐにじゃなくていい

 ただ、栞も俺も…お互いに同じ事を望んでるって分かってくれてればいい

 この世界に来て、精霊も宿して寿命が長くなったんだ

 考える時間はいくらでもある

 お前自身が納得出来るまで、待ってるから…」

「…っ、蓮」


栞がまた涙を流す

そして


「ありがとう」

 

月明かりに照らされるその笑顔は、最っ高に綺麗で…見惚れちまう

カイが近くで寝てるのにも関係無くキスし…時に深く

ギュッと抱き締め合った