警備隊(2)

エストを終えてギルドで寛いでると

扉が開き、入ってきたのは厳つい顔つきの…2足歩行の犬


この世界に存在する様々な獣人

猫や鳥、色んな動物が人と同じ様に暮らしていて

シヤン族と呼ばれてるのが、犬の獣人だ


「警備隊 副長のラウロだ

 ラーガから話は伝わっている筈だ

 先日、人身売買の組織を壊滅させた3名は前に」

《…》


俺達は目を合わせ、おずおずと前に出る

ラウロさんは俺達を見定める様にジッと見て


「君達が…。後ろに隠れてるその魚人族の子供は?」

「組織に捕えられていた子です」

「そうか…。では、その子にも話を聞きたい、一緒に来てくれ」

「おい、ちょっと待て」

「何だラーガ」

「俺はお偉いさんがコイツ等に会いに来るって聞いてんだが?

 何でそっちに行かなきゃならねぇ?」

「…事情が変わったんだ」

「……アイツ等か?」

「…ああ」

「はぁ〜…ったく、お前等もご苦労なこったな」


ラウロさんは肩を竦める


「お前等、行ってやれ。あ、ガキは帰らせろ」

「…どういう事ですか?」

「警備所には今、好奇心旺盛で厄介な依頼人が来てる」

《…》


なるほど

カイは好奇心の恰好の獲物にされるって訳だ


「なら、カイを家に送ってから行きますので

 先に戻ってて下さい」

「分かった 出来るだけ早く頼む」


ラウロさんが去っていき、俺達も一旦家に戻る

 

 

「ゼルファ」

〔うむ 留守は任せておけ〕

「なあ?何で俺は警備所に行かない方がいんだ?」

「行けば、カイは今まで何をしてきたのかを喋らないといけなくなる」

「!?」

「カイには、もう嫌な思いをしてほしくないから

 ゼルファと留守番してて?」

「…分かった」


姉さんはカイの頭を撫でる

カイも気持ち良さそうに撫でられてる


「一応、ラルフも家に居る?」

〔いえ!いつ何時もお側におります!

 姿を見られるのが不味いのであれば、小さくなります!」


ラルフはポンッとチビになって、姉さんの肩に乗る

姉さんの中に入るって選択肢は無いんだな…


「じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい!」


カイとゼルファに見送られ

警備所まで急足で行く

 

 

警備所が見えてくると、入口にラウロさんが


「すみません、お待たせしました」

「おう」


ラウロさんに案内され、応接室のソファに座ってると


「まあ!私達よりも大事な客人がおりますの!?」


急に聞こえてきた甲高い声

ドアはちゃんと閉まってるのに、ここまでハッキリ聞こえるなんて…


「私達がこんなに必死に頼んでいるのに聞き入れてくれない上に

 今度は別の客人を優先させるとは!?」


男性の声も聞こえる

すると

ドアが開き、ラウロさんが呆れた様子で


「すまない もう少しだけ待っててもらえr「今まではちゃんとやってくれてたじゃない!

 なのにどうして出来ないのよ!?」」

「ですから先程から申し上げている通り、現在の我々では手が回らないのです

 つい最近、ここ等一帯の人身売買の組織が壊滅したのはご存知でしょう?

 この国や我々にとって大変喜ばしい事です」

「それ位は知っている!だったら何故私達の依頼が聞けないんだ!?」

「人身売買の組織が壊滅しても、捜索願いが出ている被害者を捜索しなくてはいけません

 それは人身売買以外にも該当する事です」

「お父様聞きました!?

 どこにいるのかも、生きてるのかも分からない者の捜索ですって!

 人身売買の被害者なんて、見つかる筈が無いじゃない!?

 そんな永遠と終わらず、お金にならない地味な仕事よりも

 私達を護る方がよっぽど警備隊の利益になりましてよ?

「ああ!その通りだ!

 見つかるかも分からない売られてったマヌケな下等生物を探すよりも

 私達を護る方が儲かるぞ!?」

《…》


聞いてるだけで虫唾が走る

ラウロさんを見れば

ギュッ…!と手を握り、怒りを堪えてる


「…っ、すみません、ご依頼は引き受けかねます

 今日のところはお引き取り下さい」

「…っ!くそっ!この役立たず共がぁっ!!!」


ガシャンッ!と食器の割れた様な音

咄嗟にラウロさんがドアを閉めるとドカッドカッと乱暴な足音と

バタンッ!と大きく扉の閉まる音が聞こえ、シーン…と静まり返る

そして、こっちに向かってくる足音が

ラウロさんが心配そうにドアを開ければ

ラウロさんと同じシヤン族の方が、チラッと見える


「隊長…っ」

「大丈夫だ」

「ですがっ…目が…っ」

「問題無い だが客人には会わない方がいいな

 申し訳ないが、今日は帰ってもらってくれ」

「…っ、はい…」

 

 

蓮side

隊長さんが奥へと歩き出すと


「待って下さい」


栞が声を掛けた

隊長さんが足を止める


「…すまない、見苦しい所を見せた

 申し訳ないが、今日は帰ってもらえるか?」


また歩き始める


「待って下さい!怪我、治します」

「…」


隊長さんはゆっくりと部屋に入って、俺達の向かいのソファに


「「「!?」」」


片目を手で隠してるが、指の隙間から血が垂れてる

歩いてきた床には血が

ラウロさんは座らず、ソファの横に

栞は立ち上がり、隊長さんの前に

隊長さんが手を退けると、瞼ら辺がパックリと切れてる

目まで傷付いてないか心配な位だ…

栞は傷口に手を翳す


「? 精霊を喚ばないのか?」

「…あ」


ラウロさんの言葉で思い出す

そういえば

《ヒール》は使う時には必ず光属性の精霊を喚ぶんだった…っ

不味いっ!

だが、既に栞は《ヒール》を発動して

精霊を喚ばずに傷は瞬く間に治った


「!?」


ラウロさんが目を見開く

 

「目、開けていいですよ」


隊長さんが目を開く


「視界はどうですか?違和感は?」

「…見えてる、違和感も無い…」


ラウロさんが傷があった所を触る


「傷痕も…、ありません…」


ラウロさんは栞を凝視し


「精霊を喚ばなかった…のに、傷痕を残さずに…、完璧に治癒出来たのか…?」

「!? 精霊を喚んでいない!?」


隊長さんがラウロさんを見て、バッ!と栞に目を向ける


「「…」」


思わず紫音とチラッと目を合わせ、内心ハラハラする

不味い…

精霊を喚ばずに完璧に治癒出来るのは、ジュノ国のシオリだけ

面で顔を隠してるが、今までに1人しか出来なかったのを目の前で見せられたら…っ

栞は俺の横に戻る


「…確か、ジュノ国の姫様が唯一

 精霊を喚ばずに完璧な治癒が出来ると噂を聞いた事がある」

「「!」」

「ジュノの姫様は遥か昔に亡くなられてます

 ここ最近、姫様を偽った魔物が現れて大変な事になっている様ですが…」

「そうだったな…」


隊長さんは姿勢を正し


「治療してくれて感謝する」

「俺からも、感謝する」


2人が頭を下げる


「いえ、どういたしまして」


隊長さんは顔を上げ、初めて笑顔を見せた


「名乗るのが遅れてしまったな。俺は警備隊 隊長のボクスだ」

「シオリです」

「レンです」

「シオンです」

「…、シオリ?

 …確か、ジュノ国の姫様も、シオリという名だったな」

「! ああ、そういえばそうですね

 同じ名前で、同じ治癒力を持つとは…、偶然とはあるものですねぇ」

「…はい、偶然に…です」

「「(…はぁ〜…)」」


紫音と内心で溜息を吐いた


「それにしても…、君達だけでこの国で問題視されていた人身売買の組織を壊滅させたのか

 たった3人だけで…大したもんだ」


あ、やっと本題が


「あの、その事で提案があるんですが…」

「何だ?」

「さっき、被害者を捜索するって言ってましたよね?」

「ああ、そうだが…」

「…」


栞が俺達に視線を向ける

俺達は口角を上げて頷く

大丈夫、お前のしたい事は分かってる

栞は安心した表情でボクスさん達に向き


「もし良ければ、捜索の手伝いをさせて下さい」

「? どういう事だ?」

「私には記憶等をよむ能力があります

 捕まえた奴等から情報を引き出せれば、行方が少しでも分かるかもしれません」

「!? 本当かっ!?」

「ただ…、今日は家に待ってる家族がいるので

 明日以降になりますが…」

「いいとも!ぜひ君の力を貸してくれ!」


そして、人身売買壊滅の詳細を話し始め


「…あの…、」

「? 何だね?」

「組織に捕まっていた子供と、家族になったんです」

「!?」

「もしかして、ギルドで一緒にいた魚人族の子か?」

「はい

 警備隊としては、話を聞きたい所だと思うんですが

 …あの子には、もう嫌な事を思い出してほしくないんです

 私が明日記憶をよめば、奴等の悪事は分かります

 あの子は明日、きっと…絶対に一緒に来ます

 でも、何も聞かないでほしいんです」

「「…」」


ホントは連れてきたくないが…、多分留守番を嫌がる

エストを一緒に行ったからには、絶対に行くって言いそうだしな


《お願いします》


栞が頭を下げ、俺達も下げる


「…分かった。約束しよう」

《ありがとうございます》

「では明日、宜しく頼む」


こうして俺達は警備所を後にし

ギルドで明日の事を説明した後、カイとゼルファが待つ家に帰った