警備隊(2)

エストを終えてギルドで寛いでると

扉が開き、入ってきたのは厳つい顔つきの…2足歩行の犬


この世界に存在する様々な獣人

猫や鳥、色んな動物が人と同じ様に暮らしていて

シヤン族と呼ばれてるのが、犬の獣人だ


「警備隊 副長のラウロだ

 ラーガから話は伝わっている筈だ

 先日、人身売買の組織を壊滅させた3名は前に」

《…》


俺達は目を合わせ、おずおずと前に出る

ラウロさんは俺達を見定める様にジッと見て


「君達が…。後ろに隠れてるその魚人族の子供は?」

「組織に捕えられていた子です」

「そうか…。では、その子にも話を聞きたい、一緒に来てくれ」

「おい、ちょっと待て」

「何だラーガ」

「俺はお偉いさんがコイツ等に会いに来るって聞いてんだが?

 何でそっちに行かなきゃならねぇ?」

「…事情が変わったんだ」

「……アイツ等か?」

「…ああ」

「はぁ〜…ったく、お前等もご苦労なこったな」


ラウロさんは肩を竦める


「お前等、行ってやれ。あ、ガキは帰らせろ」

「…どういう事ですか?」

「警備所には今、好奇心旺盛で厄介な依頼人が来てる」

《…》


なるほど

カイは好奇心の恰好の獲物にされるって訳だ


「なら、カイを家に送ってから行きますので

 先に戻ってて下さい」

「分かった 出来るだけ早く頼む」


ラウロさんが去っていき、俺達も一旦家に戻る

 

 

「ゼルファ」

〔うむ 留守は任せておけ〕

「なあ?何で俺は警備所に行かない方がいんだ?」

「行けば、カイは今まで何をしてきたのかを喋らないといけなくなる」

「!?」

「カイには、もう嫌な思いをしてほしくないから

 ゼルファと留守番してて?」

「…分かった」


姉さんはカイの頭を撫でる

カイも気持ち良さそうに撫でられてる


「一応、ラルフも家に居る?」

〔いえ!いつ何時もお側におります!

 姿を見られるのが不味いのであれば、小さくなります!」


ラルフはポンッとチビになって、姉さんの肩に乗る

姉さんの中に入るって選択肢は無いんだな…


「じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい!」


カイとゼルファに見送られ

警備所まで急足で行く

 

 

警備所が見えてくると、入口にラウロさんが


「すみません、お待たせしました」

「おう」


ラウロさんに案内され、応接室のソファに座ってると


「まあ!私達よりも大事な客人がおりますの!?」


急に聞こえてきた甲高い声

ドアはちゃんと閉まってるのに、ここまでハッキリ聞こえるなんて…


「私達がこんなに必死に頼んでいるのに聞き入れてくれない上に

 今度は別の客人を優先させるとは!?」


男性の声も聞こえる

すると

ドアが開き、ラウロさんが呆れた様子で


「すまない もう少しだけ待っててもらえr「今まではちゃんとやってくれてたじゃない!

 なのにどうして出来ないのよ!?」」

「ですから先程から申し上げている通り、現在の我々では手が回らないのです

 つい最近、ここ等一帯の人身売買の組織が壊滅したのはご存知でしょう?

 この国や我々にとって大変喜ばしい事です」

「それ位は知っている!だったら何故私達の依頼が聞けないんだ!?」

「人身売買の組織が壊滅しても、捜索願いが出ている被害者を捜索しなくてはいけません

 それは人身売買以外にも該当する事です」

「お父様聞きました!?

 どこにいるのかも、生きてるのかも分からない者の捜索ですって!

 人身売買の被害者なんて、見つかる筈が無いじゃない!?

 そんな永遠と終わらず、お金にならない地味な仕事よりも

 私達を護る方がよっぽど警備隊の利益になりましてよ?

「ああ!その通りだ!

 見つかるかも分からない売られてったマヌケな下等生物を探すよりも

 私達を護る方が儲かるぞ!?」

《…》


聞いてるだけで虫唾が走る

ラウロさんを見れば

ギュッ…!と手を握り、怒りを堪えてる


「…っ、すみません、ご依頼は引き受けかねます

 今日のところはお引き取り下さい」

「…っ!くそっ!この役立たず共がぁっ!!!」


ガシャンッ!と食器の割れた様な音

咄嗟にラウロさんがドアを閉めるとドカッドカッと乱暴な足音と

バタンッ!と大きく扉の閉まる音が聞こえ、シーン…と静まり返る

そして、こっちに向かってくる足音が

ラウロさんが心配そうにドアを開ければ

ラウロさんと同じシヤン族の方が、チラッと見える


「隊長…っ」

「大丈夫だ」

「ですがっ…目が…っ」

「問題無い だが客人には会わない方がいいな

 申し訳ないが、今日は帰ってもらってくれ」

「…っ、はい…」

 

 

蓮side

隊長さんが奥へと歩き出すと


「待って下さい」


栞が声を掛けた

隊長さんが足を止める


「…すまない、見苦しい所を見せた

 申し訳ないが、今日は帰ってもらえるか?」


また歩き始める


「待って下さい!怪我、治します」

「…」


隊長さんはゆっくりと部屋に入って、俺達の向かいのソファに


「「「!?」」」


片目を手で隠してるが、指の隙間から血が垂れてる

歩いてきた床には血が

ラウロさんは座らず、ソファの横に

栞は立ち上がり、隊長さんの前に

隊長さんが手を退けると、瞼ら辺がパックリと切れてる

目まで傷付いてないか心配な位だ…

栞は傷口に手を翳す


「? 精霊を喚ばないのか?」

「…あ」


ラウロさんの言葉で思い出す

そういえば

《ヒール》は使う時には必ず光属性の精霊を喚ぶんだった…っ

不味いっ!

だが、既に栞は《ヒール》を発動して

精霊を喚ばずに傷は瞬く間に治った


「!?」


ラウロさんが目を見開く

 

「目、開けていいですよ」


隊長さんが目を開く


「視界はどうですか?違和感は?」

「…見えてる、違和感も無い…」


ラウロさんが傷があった所を触る


「傷痕も…、ありません…」


ラウロさんは栞を凝視し


「精霊を喚ばなかった…のに、傷痕を残さずに…、完璧に治癒出来たのか…?」

「!? 精霊を喚んでいない!?」


隊長さんがラウロさんを見て、バッ!と栞に目を向ける


「「…」」


思わず紫音とチラッと目を合わせ、内心ハラハラする

不味い…

精霊を喚ばずに完璧に治癒出来るのは、ジュノ国のシオリだけ

面で顔を隠してるが、今までに1人しか出来なかったのを目の前で見せられたら…っ

栞は俺の横に戻る


「…確か、ジュノ国の姫様が唯一

 精霊を喚ばずに完璧な治癒が出来ると噂を聞いた事がある」

「「!」」

「ジュノの姫様は遥か昔に亡くなられてます

 ここ最近、姫様を偽った魔物が現れて大変な事になっている様ですが…」

「そうだったな…」


隊長さんは姿勢を正し


「治療してくれて感謝する」

「俺からも、感謝する」


2人が頭を下げる


「いえ、どういたしまして」


隊長さんは顔を上げ、初めて笑顔を見せた


「名乗るのが遅れてしまったな。俺は警備隊 隊長のボクスだ」

「シオリです」

「レンです」

「シオンです」

「…、シオリ?

 …確か、ジュノ国の姫様も、シオリという名だったな」

「! ああ、そういえばそうですね

 同じ名前で、同じ治癒力を持つとは…、偶然とはあるものですねぇ」

「…はい、偶然に…です」

「「(…はぁ〜…)」」


紫音と内心で溜息を吐いた


「それにしても…、君達だけでこの国で問題視されていた人身売買の組織を壊滅させたのか

 たった3人だけで…大したもんだ」


あ、やっと本題が


「あの、その事で提案があるんですが…」

「何だ?」

「さっき、被害者を捜索するって言ってましたよね?」

「ああ、そうだが…」

「…」


栞が俺達に視線を向ける

俺達は口角を上げて頷く

大丈夫、お前のしたい事は分かってる

栞は安心した表情でボクスさん達に向き


「もし良ければ、捜索の手伝いをさせて下さい」

「? どういう事だ?」

「私には記憶等をよむ能力があります

 捕まえた奴等から情報を引き出せれば、行方が少しでも分かるかもしれません」

「!? 本当かっ!?」

「ただ…、今日は家に待ってる家族がいるので

 明日以降になりますが…」

「いいとも!ぜひ君の力を貸してくれ!」


そして、人身売買壊滅の詳細を話し始め


「…あの…、」

「? 何だね?」

「組織に捕まっていた子供と、家族になったんです」

「!?」

「もしかして、ギルドで一緒にいた魚人族の子か?」

「はい

 警備隊としては、話を聞きたい所だと思うんですが

 …あの子には、もう嫌な事を思い出してほしくないんです

 私が明日記憶をよめば、奴等の悪事は分かります

 あの子は明日、きっと…絶対に一緒に来ます

 でも、何も聞かないでほしいんです」

「「…」」


ホントは連れてきたくないが…、多分留守番を嫌がる

エストを一緒に行ったからには、絶対に行くって言いそうだしな


《お願いします》


栞が頭を下げ、俺達も下げる


「…分かった。約束しよう」

《ありがとうございます》

「では明日、宜しく頼む」


こうして俺達は警備所を後にし

ギルドで明日の事を説明した後、カイとゼルファが待つ家に帰った

警備隊

カイside

今日は今までと違って、シオリ達の服装が違う

仕事をしに行く日だからだ

前からこの日はゼルファと留守番って言われてるけど…

やっぱり…、俺だって魔法の練習を頑張ってきたんだ!


「シオリ!」

「ん?」

「やっぱり俺も行く!」

「…」

「カイ、ゼルファと留守番するって約束だろ?

 お前は子供だし、魔法も練習中なんだ」

「やだ!子供だから何だってんだ!魔法は沢山練習してきたんだ!

 寧ろ一緒に行って、実践すればもっと上手くなるだろ!?」

「確かに沢山練習してきたけど

 俺達が行く仕事は、とっても危険なんだ

 カイは大切な家族だから、危険な目に合わせたくないんだよ

 な?ゼルファと待ってて?」

「〜っ、ゼルファッ!!」

〔ん〜…、ここで魔法の練習をしてても良いかと思っておるが

 シオリ達の戦い方を見させるのも良いと思っておる〕

「戦い方?」

〔うむ 実際にシオリ達の行く仕事は人間、ましてや並の魔導士が出来る仕事ではない

 実践には参加せずとも戦い方を見るだけでも、学びになろう〕

「シオリ!ゼルファがこう言ってるんだから!」

「…」

〔まあ、シオリが駄目だと言うのであれば我はソレに従おう〕

「!? …、シオリ〜…?」

「…」


シオリは考え込んでる

頼む!連れてってくれっ!


「…はぁ、分かった。一緒に行こ」

「! やっ「但し」」

「ギルドにはいいけど、仕事に連れてくかは別」

「え!?」

「仕事に連れてっていいか聞くから、許可が出たら行こ

 ダメだったら、ゼルファと家に戻って」

「! じゃあさっさと聞きに行こうぜ!」


狼の仮面を着けたシオリの手を握り、森を抜けて街中を歩く

ふと、シオリを見上げると


「…あれ?」

「? どうしたの?」


仮面を着けてるけど、シオリの表情が

俺を見て、不思議そうにしてるのが見える


「もしかして、カイにも見えてんのか?」

「え、見えるの?」

〔カイはシオリから作った魔水を飲み、かつ…シオリの力が篭ってる物を身に着けている

 レンとシオンと同様に見えるのは不思議な事ではない〕

「そっかぁ、俺にも

 仮面を着けててもシオリがどんな表情してるのか見えるのか!

 それに…」


ジッと見れば、あの綺麗な目で俺を見てる


「これからいつでもシオリの綺麗な目が見れるんだな!」

「「!」」

「綺麗な目…。ありがとね、カイ」

「おう!」

 

 

紫音side

ギルドに着くと

皆が俺達を見てザワザワしてる

? どうしたんだ?

とりあえずカイと一緒にミルデさんの所に


「おはよ、ミルデ」

「はよ」

「おはよ、ミルデさん」

「おはよう。…って、挨拶してる場合じゃなさそうよ?」

「何が?」

「何がって…、

 貴方達、凄い事やらかしちゃったそうじゃない」

「? 凄い事?」

「何の事ですか?」

「ここら辺の人身売買の組織を壊滅させたんでしょ?」

「「「…、あ〜」」」


なるほど

最近ギルドに入ったばかりの新人がデカい組織を壊滅させた事が話題になってるのか


「警備隊に突き出した時、誰も名乗らなかったんでしょ?

 そこ等辺のチンピラなら問題無かっただろうけど

 突き出されたのはこの国で問題になってた奴等!

 そんな奴等を誰が倒したんだって、警備隊のお偉いさんも流石に動いたのよ

 …で、目撃情報に狼の面を着けた女の子ってのがあって

 そんなのはもうシオリしかいないでしょ?

 ここ等辺の住人はシオリを知ってるから

 聞き込みをすれば一発で、このギルドに所属してるって分かったらしいわ

 さっきまで来てたんだけど、貴方達は居なかったから

 代わりにラーガが警備所に行ってるわ」

「なあなあ、アンタに許可取ればクエスト行っていいのか?」

「ん?誰が喋ったの?」


あ、カウンター内に居るとギリギリカイが見えないか

ミルデが少し身を乗り出して、やっと2人の目が合う


「あら、君は?」

「俺はカイだ!」

「カイ君ね、その耳は…魚人族

 シオリ、この子はどうしたの?」

「その壊滅させた組織に捕まってた」

「…それを助けて」

「家族になった」

「へぇ、そうなの。私はここの受付をやってるミルデよ、ヨロシクね」

「おう!ヨロシク!」

「…で、相談があるんだけど…」

「?」

「カイを仕事に連れてっていい?」

「!?」


ミルデさんは目を見開いて、カイを見る


「…、カイを連れてくの?」

「おう!俺も行って、シオリ達の戦い方を見るんだ!」

「…」


ミルデさんは姉さんに視線を向け


「「…」」


少しの沈黙後


「…はぁ、つまり

 カイが行きたいって言うのを、私の判断に任せるって事?」

「そう」

「…、許可出来ないわ」

「え!?何でだよ!?」

「いくらシオリ達が強いとはいえ、子供を討伐クエストに連れてくなんて…」

「子供扱いすんなっ!俺だって強くなってるんだぞ!」

「おいおい、いつからここは託児所になったんだぁ?」


入口を見れば、ロギアとルト、キエラが

3人は近付いてきて


「おいチビ、ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ

 ガキ連れてとっとと帰れ」

「…」


姉さんは3人を無視して


「さっきの話に出てきたラーガに聞いて、それで駄目だったら大人しく家で待っててね?」

「!? そんなぁ…」

「おい!聞いてんのかよテメェッ!」


ロギアが姉さんに掴み掛かろうとするが


「止めろロギア」


蓮が立ち塞がる


「この前の事、忘れたか?もうこれ以上、栞に突っ掛かるな」

「蓮、テメェこそ…、いつもいつもコイツを庇いやがって…っ」

「そりゃ庇うさ、栞は俺の嫁

 夫である俺が庇って何か文句あるか?」


周りが騒つく

蓮は皆に聞こえる様に


「この際だから全員聞いとけ!

 栞は俺の嫁

 今後栞に手を出せば、俺が容赦無くぶっ潰すからな!」

「弟である俺も、容赦しないからね?」

「俺だって!シオリを傷付けたら許さねぇぞ!!」


ギルドがシーン…と静まり返る

そこに


「おいお前等、今度は何を騒いでる」


入口にはラーガが

ラーガはカイを見て


「…そのガキは何だ?」

「私達の家族、クエストに連れてっていいか聞きに来た」

「…、そのガキをか?」


カイは姉さんとラーガを見合わせ


「このオッサンがいいって言えば良いんだな!?」

「…そうだね」

「おいオッサン!俺をクエストに連れてっていいって言ってくれ!」

「…」


ラーガは姉さんに視線を合わせ


「…ガキの子守をしながらクエスト出来るのか?」

「ガキじゃねぇ!」

「ガキをガキと言って何が悪い

 おいチビ、お前等が行くのはSSクエストだ

 そんな所にこんなガキを連れてくってのか?」

「…ホントなら留守番しててもらう筈だったんですけどね」

「……、クエスト出来んのか」

「問題無く。でも流石に上の人に話を通しといた方がいいと思って」

「…………、はぁ…。まぁ、テメェ等なら大丈夫か」

「ラーガ!?まさか許可するつもりですか!?」

「いつまでも付き纏われそうだからな

 …戦わせる訳じゃねぇんだろ?」

「勿論…、実践を見せた方が良い経験になるって言われたので」

「…ふん、確かにな。よし、許可してやる」

「! よっしゃあぁっ!」


両手を突き上げて喜んでるカイを横目に、ロギア達は舌打ちして出て行った


「だったら早くクエストに行こうぜ!」


エストボードを見に行こうとカイが走り出す


「ちょっと待て」

「何だよオッサン!!」

「オッサンって言うな!俺はラーガだ!」

「なら俺もガキじゃねぇ!カイだ!」

「…、…ッチ。おいチビ」

「…、私もチビは止めてほしいんですけど」

「あ!?…〜っ!クソッ!知るかっ!!

 お前等、クエストが終わったら警備隊が来るまでここに居ろ!

 ミルデから話は聞いてんだろ

 俺だって知らなかった事だから、うちのギルドのモンだってしか言わなかった

 お前等、人身売買の組織…壊滅させたそうじゃねぇか

 警備隊のお偉いさんが直々にお前等に会ってみたいとの事だ

 多分昼には来るだろ」

「昼って…っ、クエスト行かせてくれるんじゃねぇのかよ!?」

「大丈夫だ コイツ等なら大抵のクエストはすぐに終わらせてくる

 …ぜってぇに帰るんじゃねぇぞ?」


ラーガは奥へと消えていく

姉さんを見れば、面倒臭いって表情だ


「…とりあえず、クエスト行こうぜ」

「……うん」

「…だね」


そうして

カイを連れて討伐クエストに行き

俺達が魔物と戦ってる間、ゼルファがカイの側にいて

色々と解説?的な事をしたらしい

魔物を倒し終わった時には


「スゲェッ!」


目をキラキラ輝かせて、もの凄く興奮してた

穏やかな時間(2)

蓮side

ある日の昼中


「ラルフと少し行ってくる」

「? どこに行くんだ?」

「前に失敗した《メタモルフォシス(動物への変身)》を使い慣らしてくる」

〔ほう!今回は上手くいくのか!?〕

「めたもる…?」


人型のゼルファが興味津々だ

カイは頭に?が浮かんでる


「上手くいかせるよ」


栞はお風呂に向かった

カイが紫音を見上げ


「シオン!シオリは何するんだ?」


紫音は腰を下ろし


「姉さんは、動物に姿を変える能力を持ってるんだ」

「!? 動物!?」

「そう 

 今まであんまり使う機会が無かったけど、これからの事を考えて

 ちゃんと変身出来る様にするんだと思う」

「じゃあシオリは、何に変わるんだ?」

「ラルフと行くんなら…、狼だね」


タイミング良く、風呂場から中型サイズの狼姿の栞が出てきた


〔おお!上手くいったな!!〕

「スゲェッ!シオリ!ホントに動物に変身出来るんだな!」


ゼルファとカイが栞に近寄り、頭を撫でる


〔…ふむ 流石に匂いまでは変えられぬか〕

〔あくまで姿だけを変えられるのですね〕


ラルフが嬉しそうに鼻先を栞に擦り付ける

カイは耳や頰をずっと撫でてる


「わぁ…モフモフだぁ」


栞はカイの頰をペロッと舐める


「ワハハッ!擽ったい!」


紫音は腰を屈め、サラ…と背中を撫でる


「わぁ…、気持ち良いね

 姉さん、ラルフとどこまで行ってくるの?」


栞は紫音を見上げ


“そんな遠くまでは行かないよ、少し森を散策してくるだけ”


口は動かず《テレパシー》で栞の声が聞こえる


俺は何も言わずに、ただ栞の狼姿を見てる

いや…、違うな、見惚れてる

前はラルフをモデルにしたから白い耳と尻尾だった

だが今は、全身が黒で所々に金色が混ざってる

要は髪色がそのまま体の色になってる

そして目の色は変わらず、左目が赤い

ラルフが白だから、対を成してる様で…神秘的だ


俺が物思いに耽ってると


〔折角だ!我も行こう!〕


ゼルファが白く光り、小竜の姿に


「あっズリィッ!俺も行きてぇ!!」

「もうこの際、皆で行く?」

「栞、いいか?」

“うん、皆で行こっか“


折角だからと

キノコや山菜をゼルファと、栞がラルフに教えてもらいながら匂いで探し

獣の跡があれば、練習にと栞が臭いを辿ったりした


少し空けたとこに出ると


“ゴメン ここで少し休憩するね”


久し振りの能力を使ったからか、栞は腰を下ろす


〔そうか!ゆっくり休め!我はもっと山菜を探し出してくる!〕

「俺も行く!もっと沢山採りてぇ!」


ゼルファとカイが勢い良く森に消えてく


〔ゼルファ!カイ!山菜を根こそぎ採るつもりか!〕


ラルフが顰めっ面で後を追う


「俺も付いていくから、心配無いからね」


結果…、ここに残ったのは俺と栞だけだ

近くの木に凭れて座ると、栞が横に座り俺の足に頭を乗せる

栞の頭や背中を撫でながら軽く見上げれば

森を吹き抜ける柔らかい風が頰を掠め

風で揺れる木の葉の音、鳥の囀りが聞こえ

自然と目を閉じ、ゆったりとした穏やかな時をのんびりと過ごす


どれ位経ったか…

近付いてくる賑やかな声に目を開く


「(戻ってきたか…)」


栞を見れば、寝息が聞こえる

俺達家族の前では

気配が近付こうが声が聞こえようが、あんまりすぐには起きなくなった

しかもここは森の中

今ここに、栞を危険に晒すモノは何も無い…

改めてここが栞にとって、本当に気を休められる場所なんだと実感し

嬉しくて栞の頭にキスを落とす

栞は耳をピクッと反応させ、ゆっくり起き上がり俺を見る

狼姿でも穏やかな表情をしてるのは分かる

俺は栞を優しくギューと抱き締め、モフモフを堪能


「あ〜、これは気持ち良いなぁ…」


紫音達が来て、声を掛けられるまで

モフモフを味わっていた


その夜

皆で採ったキノコや山菜を鍋にぶっ込み、謂わば…しゃぶしゃぶにして食べた

穏やかな時間

蓮side

翌日

栞がカイに俺達が着けてるのと同じのを作るっつったから

それまでカイと遊んでる


「なぁ」

「何だ?」

「どうしたの?」

「皆が戦ってるとこは見てたけど、実際どんな魔法が使えるんだ?」

「「…」」


俺はフェニアを呼び出し


「俺は火属性の魔法が使える、コイツは俺に宿ってる精霊のフェニアだ」

「俺は風属性だよ、ジル」


紫音の隣にジルが出てくる


「レンは火、シオンは風…、じゃあシオリは?」

「栞は全部の属性が使える」

「!? …ぜ、…んぶ…っ!?」

「それと、無属性魔法も使えるよ」

「無属性魔法…。そんなの、聞いた事無ぇよ…」


その時だ


「出来たよ〜」


作業を終えた栞が手招きしてる


「? 出来たって?」

「いいから、行こうぜ」


栞の元に行けば、出来上がった物がカイの手に


「? 白い…、何だ?コレ…?」


俺と紫音も覗く


「素材は貝殻っぽいけど、形はドラゴンの牙みたいだね」

「っつうか、何で貝殻で?」

〔うむ カイが身に付ける物ならば、どうせなら海に連なるモノが良いからな〕

〔ですが、ゼルファが帰ってきた時点で形がソレに変わってましたね〕

〔まさか最初からそんな形があるとは考えにくいしな〕


レノとラルフが、何か呆れてる…


〔ハハハッ!我が家族になるのだからレン達と同様の物が良かろう?

 帰ってくる間に加工してやったのだ!〕

〔そして私の加護の力と、シオリ様の力を組み込ませてあります〕

「かご?」

〔悪い魔法から護る力の事です〕

「シオリの力ってのは?」

「私のは、攻撃されても跳ね返す力」

「昨日、アイツ等からの魔法を止めてたヤツか!?」

「そんな感じだね」

「スゲェッ!ありがと!!でもコレどうやって着けるんだ?」

〔首に近付けてみろ〕

「?」


カイが不思議そうに首に近付ければ、貝殻から銀の糸が出てきてネックレスに


「!? 何で?勝手に首に掛かった!?」

〔ハハハハッ!良い反応だ!

 それには我の力もあるからのぅ!

 身に着けておれば、動物の言葉が分かる様になるぞ!〕

「スッゲェッ!

 …あれ?さっき、レン達と同じ物って言ったよな?シオリ達も持ってるのか!?」

「蓮と紫音が持ってるよ、紫音は形が違うけど」

「? シオリは持ってないのか?」

「私は物じゃなくて、体にあるの」

「?」


栞がカイにドラゴンの鱗がある手首を見せる


「!? 全然気付かなかった…」


カイはジーッと鱗を見て


「触ってみてもいいか?」

「いいよ」


カイはそっと鱗を触る

鱗は日の光を反射して光ってる


「スベスベしてる、…綺麗だな」


カイは栞と俺と紫音の手首を見比べ


「何でシオリだけなんだ?」

「…、それはね…、」

「「…」」


あの事を話すべきか…

言い淀んでると、ラルフが栞の手をペロ…と舐める

栞は微笑んでラルフを撫でる


〔話しても良かろう〕

「ゼルファ…」


栞は不安な表情だ


〔カイは我が家族となったのだ

 これから共にいるのなら、隠し事となる前に話しておいた方がお互いの為になろうて〕


ゼルファはカイに、真剣な眼差しで


〔カイ、シオリ達は今…強大な敵がおる〕

「強大な、敵?」

〔うむ …悪魔だ〕

「!? あ…っ、悪魔!?」

〔うむ シオリ達と共にいるという事は、時に危険が迫る事がある

 無論、カイはシオリや我等が護る〕

「…」

〔我はの、その悪魔と契約しておる者に命を狙われておった

 それを助けてくれたのが、シオリ達なのだ

 シオリが疲弊した我を身に宿してくれたお陰で、我は生きておる

 我を宿したから、体に鱗があるのだ〕

「そうなのか…」

〔その後、悪魔と契約者はシオリ達の家族を殺め

 それをシオリの仕業にさせ、国から追い出したのだ〕

「!?」

〔故に、素性がバレぬ様に外では仮面を着けておるのだ〕

「…そう、だったのか」

〔カイ、お主は我が家族

 1人だけ何も知らぬのは辛く、寂しい事だ

 故に話した

 まだ理解が追い付かぬだろうが、知っておいた方が良いであろう?〕

「ああ、まだ頭がゴチャゴチャしてるけど…

 要は俺達には敵がいて、それが悪魔って事だろ?」

〔うむ〕

「俺でも、悪魔ってのが強いって位は分かってる

 だから俺、強くなる!

 今よりももっと強くなって、シオリ達と一緒に戦う!

 いや、俺がシオリを護るんだっ!」

「「…」」


思わず呆気にとられる

栞はカイにニコッと笑顔を向け


「カイ、ありがとう」

「シオリは俺を助けてくれた、だから今度は俺がシオリを助けるんだ!

 だから…」


カイはゼルファに目を合わせ


「ゼルファ!俺を強くしてくれっ!」

 


ゼルファはニヤ…と口角を上げ


〔良かろう。お主は若い、いくらでも力は伸びる

 我が直々に鍛えてやろうぞ!〕


そうしてカイはゼルファに色んな事を教えてもらう様になった

 


カイが新しい環境に慣れてきた頃

市場に一緒に来てる


「シオリ、今日は何するんだ?」

「カイの服を買うの」


ここへ来た時、ただで服を貰った店に行く

今では常連だ


「こんにちは、ケルトさん」

「!どうも!いらっしゃいませ!」

「あの、この子に合う服が欲しいんですけど」


ケルトさんはカイの目線に腰を下ろし


「こんにちは!私はこの店のオーナー、ケルトだ!」

「…こ、こん…にちは」

「お名前は?」

「…カイ」

「カイ君だね!何か好きな色はあるかな?」

「え…、っと…」


ケルトさんがカイの好みを聞いた後、子供コーナーに


「カイ君、コレはどうかな?」

「コレなんかどうだい?」

「コレも似合いそうだねぇ」


アレやコレと次々と服が増えていき

店を出る頃には蓮と紫音の手には買い物袋だらけ


「…一旦帰ろっか」

「「…おう(うん)」」


買い物が午前中に終わったから、昼からはカイの魔法の練習

それ以外にも武術、体術等

蓮と紫音が言う…チートなゼルファのお陰で

カイは子供ながらに色んな事を学んでる

そして、やっぱりというか…、カイは水魔法が得意だ

それに海の生き物と会話が出来る

海に入れば、水の抵抗なんか無視のスピードで泳ぐ

流石は魚人族…

あと必要なのは、持続とコントロールだけ

練習を見てる中で驚いたのは、魔力の保有量が凄い

ゼルファは恐らく血筋だと言ってた

前に、人身売買の奴が言ってた『魚人の王族』

きっとソレが関係してるって

まあ…、それはどうでもいんだけど

だから、今からでも少しずつ大魔法を教えてもいいだろうってゼルファが面白がってる


そんなこんなで、カイとの楽しい暮らしを満喫した

新たな家族(4)

栞は仮面を着けてるが、今でも僅かに黒い…闇の魔力が溢れてる

レノとラルフがアイツに見つからねぇ様にしてくれてる

んでゼルファが暴れたいっつって人型に


本拠地の近くで、栞が中を探る


「…今現在で捕まってる人はいない」

「つまり、全員潰しちまっていんだな?」

「うん、…あ」

「どうしたの?」

「地下に動物が沢山いる

 鎖に繋がれて檻に…、ゼルファに頼んでいい?」

〔うむ 任せておけ〕


カイは辛そうにラルフの背中でグッタリしてる

栞はカイの頭をそっと撫でる


「ゴメンね、もう少しだけ待ってて

 ラルフ、カイをお願い」

〔承知〕


扉をぶっ壊そうとすると


〔我がやろう!〕


ゼルファが腕を竜化させ、思いっきり叩き付ける

ドガァンッ!

見事にぶっ壊れた


「何だぁ!?」

「どうしたっ!?」


中で騒ぎ出す声が


「お前等をぶっ潰しに来たんだよ」


戦闘開始だ

 

 

地下はゼルファに任せ、私達は他を全部潰す

ドグの記憶をよんでボス…シュドは分かってるから、それ以外は容赦無く


そして、ウザい位の人数を潰して

漸くシュドの所に


「おいおい、何好き勝手してんだよ?」


…流石、人身売買なんかしてる奴等のトップ

こんだけ暴れても平然としてる


「アンタがドグって奴の金庫から持ってった、魔水を貰いに来た」

「魔水?…それは」


シュドが懐を探り


「コレの事か?」


透明な小瓶の中に、キラキラと輝く水が


「もしかして、その犬の上で寝てるガキがソレか?」


シュドがニヤッと嫌な笑みで近付いてくる


「それ以上、この子に近付くな」

「お前等、そのガキがどんだけ儲かるか知ってるか?」

「…は?」


蓮の呆れる声


「ソイツはな?魚人の王族の血を受け継いでんだよ!

 魔力が他のヤツとは違ぇんだ!

 元々魚人族の魔水は闇市で高値で取引されるが

 コイツや親のは桁違いだ!

 だからソイツが赤ん坊の時に盗んで

 返してほしいんなら魔力を寄越せと、親から魔力を奪い続けたんだ!

 ラッキーだったぜ?

 なんせ俺も…」


シュドが帽子を取ると、カイと同じ…


「ソイツと同じ、魚人族だからなぁっ!」


シュドが手を広げた瞬間、部屋全体に水が流れ込む


「「「!?」」」


咄嗟に自分達を《サイコキネシス》で囲うが、激しい水流に飲み込まれ

色んなとこにぶつかって位置感覚が分からなくなる


「ギャハハハッ!何にも出来ねぇだろっ!?

 さっさと降参してガキだけ置いて帰りなぁっ!!」

「…っ」


この水を何とかしないと、アイツに近付く事すら出来ない

…やってみるか

蓮達を引き寄せ、私だけシールドを解く

水圧が体に一気に掛かって苦しい…っ

蓮と紫音がドンッドンッとシールドを叩いてるのがチラッと見える

早くっ、息が続く内にっ…!

右手は氷、左手には火の魔力を

威力も調整して…


インフェルノ(氷炎地獄)》!

 

 

紫音side

姉さんのお陰で、部屋中が水で溢れても平気だ

でも、アイツを倒すにはどうしたら…

俺の魔法でも、これだけの水圧じゃ途中で消える

すると、グン…と引っ張られ、気付けば全員が姉さんの側に

姉さんは1人だけシールドを解き、強い水圧に苦しんでる


「!? 姉さん何をっ!?」


姉さんが苦しい表情の中、左手から見えたのは火属性の…

瞬間

俺達側は水が蒸発し、シュド側はピキン…と凍り付く

シールドが解け、着地すると

姉さんが座り込む


「ぐ…っ、ゲホッ!ゲホ!」

「「栞(姉さん)!」」


何度か咳き込んで、飲んだ水を吐き出す


「フェニア!」


蓮とフェニアの火が姉さんを包み込んで水気を飛ばす


「ゴホッ…、はぁ…。ありがと」

「栞、何やったんだ?」

「氷と火の魔力で《インフェルノ》って魔法を使ったの」

インフェルノ…」

「1つのエリアで氷と火を同時に発生させる魔法だよ」


姉さんは火の魔力を纏い、氷を溶かしながらシュドの元へ

あと1m位のとこで止まり、手だけを伸ばし、さっきの小瓶を取り出す

姉さんは戻ってくると、ラルフからカイを下ろすが


「…」

「? どうした?」

「今、アイツの記憶をよんだら…、カイの両親はもう…」

「そう…なんだ…」

「もしかしたら、コレが最後のかもしれない

 今全部飲んだら…」


姉さんはカイを優しく揺する


「カイ、…カイ…」


カイがゆっくりと目を開ける


「カイ、きっとコレが今ある最後の魔水

 飲めば今は楽になるけど、また苦しくなる

 それでね?カイ…

 私達と一緒に来ない?」

「…え…」

「私が少しだけコレを飲んで、私が作れる様にする

 私達と家族になってくれれば、もう…、苦しい思いをしずに済む

 それに、カイと一緒にいたい

 だから…、家族に、ならない?」

「か…ぞ…、く…?」

「そう」


カイはフニャ…と力無く微笑み


「うん …なる。シオリと…皆と、…家族に…なり…たい」

「ありがとう」


カイは目を瞑り、息も絶え絶えだ

姉さんは小瓶を開け、少しだけ飲む

目を瞑り、体内で魔力を調べる

そこに…


〔おい、こっちは終わったぞ〕


ゼルファが来る


〔む?何をしておる?〕


かくかくしかじかで…


〔ふむ 状況は分かったが、恐らく足りん〕

「「え?」」

〔魚人族特有の魔水だ、そう容易には出来ぬ

 だが、魔力よりも有力なモノを取り込めば、カイに適したモノが作れるだろう〕

「それは?」

〔うむ ズバリ、血だ

 血は何者にとっても一番の源、カイの血を少しでも取り込めば

 シオリが作る魔水で生きられる筈だ〕

「…ホントか?」

〔む? 何千年何万年と生きておる我の言葉を疑うとは

 シオリ、やってみよ〕

「…カイ、ちょっとゴメンね」


姉さんはカイの指先を少しだけ切り、血を舐める

改めて生成すると

数秒後には片手にキラキラと光る水球


〔成功だな〕


ゼルファがドヤ顔だ

ソレを少しカイの口に入れれば、弾けて液体に


「! ゲホッ!ゴホッ!」


上手く飲み込めず、咽せてしまった

姉さんはすぐに魔水を飲むと、カイに口移しで飲ませる


「「!」」


コク…と飲み込めた

その後もカイが落ち着くまで、姉さんは口移しで飲ませた

全部飲み終わり


「カイ…」


姉さんが呼べば、ゆっくりと目を開ける


「もう、大丈夫」


姉さんは慈愛に満ちた笑みだ

カイは涙を流し


「…お…母…さん」


姉さんにギュッと抱き付く

姉さんは優しく抱き締め、カイの背中をポン…ポン…と叩く


「さて、帰ろっか」

「「おう」」


シュドや潰した奴等はまとめて警備隊に突き出しておいた

 

 

蓮side

その夜

カイは栞の(いつもは俺と栞が寝てる)ベッドにラルフと寝て、紫音は風呂に

俺は栞とベランダでゆっくりしてる


「今日は色んな事があったな」

「ね、大変だったね」

「…なぁ」

「ん?」

「カイ、お前の事、お母さんって呼んだだろ?」

「…うん、呼んだね」

「……実は、前から、考えてたんだけどよ

 俺達も…、子供…つくって、みねぇか?」

「…」

「…」

「…、蓮」

「お、…おう」

「…私も、何度かは、…考えたの…」


栞は段々と俯く


「…蓮との子供は、欲しいって…何度も、思った…、けど…」

「……、けど…?」


俺を見上げる栞の目には、迷いが


「私は、蓮も知ってる通り…まともな環境で育ってない

 それに…、この世界を知るまでは、私の力は、異能だった…

 もしこの力が、自分の子供にまであると思ったら…、怖かった…

 この世界があるから、怖くなくなったけど

 それよりも…、私がちゃんと子供を愛せるかが分からない…っ」

「…っ」

「蓮と…皆と再会してからっ、やっと愛し、愛される事を知った

 それまで私は、愛が無い…いや、それ以前に感情を必要としない環境で育ってきた…っ

 そんな私が、ちゃんと育てられるのかな…っ?」


思わず栞をギュッ!と抱き締める


「ドグって奴に何をしたか…見えてなくても分かってたでしょ?

 あんなの…、カイがいる前でやるべきじゃなかった…っ!

 私には闇がある…

 忘れたくても忘れられない過去、闇が…っ

 皆が、…蓮が側にいてくれるから、私は闇に堕ちない

 でも、そんな私が子供をつくっても…、いいのかな?」


俺の胸に頭を付けて、震えながら…、今まで溜め込んでたであろう不安を漏らす


「…栞、俺の目を見ろ」


栞はゆっくりと顔を上げる

泣いて、目が赤い


「栞、…ありがとな」

「…?」

「お前も…俺との子供が欲しいって…、思ってくれてるんだな」

「…うん」

「栞の不安は、多分…もう解消されてると思うぞ?」

「…、え?」

「カイが水が飲めない時に、お前は迷わず口移しで飲ませた

 んで、カイが目を開けた時…

 お前は、スッゲェ優しい顔をしてたんだ

 それを見て、カイは母さんって呼んだ

 きっとお前は、愛情を沢山あげられる…優しい母親になれる

 そんで俺も、栞以上に愛情を沢山あげる父親になる」

「…蓮」

「今すぐにじゃなくていい

 ただ、栞も俺も…お互いに同じ事を望んでるって分かってくれてればいい

 この世界に来て、精霊も宿して寿命が長くなったんだ

 考える時間はいくらでもある

 お前自身が納得出来るまで、待ってるから…」

「…っ、蓮」


栞がまた涙を流す

そして


「ありがとう」

 

月明かりに照らされるその笑顔は、最っ高に綺麗で…見惚れちまう

カイが近くで寝てるのにも関係無くキスし…時に深く

ギュッと抱き締め合った

新たな家族(3)

紫音side

姉さんがアイツから読み取った、2つの拠点の1つ…ドグって奴がいる方へと向かう

カイは少し辛そうだからラルフに乗って


「なぁ、シオリ」

「ん?」

「どうやって背中の消したんだ?」

「それはね、レノに調べてもらって出来たの」

「…レノ?」


姉さんの隣にレノが出てくる


「!?」

〔初めまして、カイ。私は光の精霊…レノです〕

「…光の、精霊…」

「カイの背中にあった魔法陣は、呪術っていう…悪い魔法だった

 そういうのはレノが一番適してるの」

「そう…なのか、ありがとう」

〔いえ これからもお願いしますね〕

「…おう」

〔我も挨拶しておこうか〕


ゼルファが子竜で出てきた


「!? ドッ…ドラゴンッ!?」

〔人の姿にも変わるぞ?〕


ゼルファが姿を変えると、カイはまたポカン…としてる


〔我はゼルファだ!宜しくな!カイ!〕

「お…、おう。…よろしく」

「「「…っ…」」」


これから敵陣に行くってのに、思わず笑みが溢れる


暫く進むと


「あ…、あそこだ」


カイがある建物を指差す

俺達は物陰に隠れて、様子を伺う


「カイ、これから潰してくるけど

 ここで待ってる?」

「嫌だ!

 シオリ達が俺の為に動いてくれるのに、じっとなんてしてられるか!」


姉さんはクス…と微笑み


「じゃあ、1つ約束してくれる?」

「何だ?」

「私から絶対に離れないで」

「分かった!」

「よし、じゃあ私とラルフで正面から行く

 蓮と紫音は裏口から攻めて」

「「了解」」

 

 

カイside

レンとシオンは裏口に行った

俺とシオリ、ラルフは正面から

ゼルファは


「我が出るまでもないな」


そう言って、シオリの中に入った


「そういえば、私は舐められやすいんだっけ…。ラルフ」

〔はい〕

「下手に動かれない様に威嚇を」

〔承知しました。カイ〕

「何?」

〔我が大きくなっても驚くなよ?〕

「わ、分かった」


シオリに続いて入ると


「何の用だぁ?嬢ちゃん?」


ドグと他の奴等が武器を持って警戒する


「あ?犬に乗ってんのはクソガキじゃねぇか?

 おいっ!そこで何やってんだっ!?」


怖くなってラルフの毛をギュッと持つと

グググ…とラルフがどんどん大きくなる


「…っな…!?デカくなりやがった!?」


ドグ達はラルフに怯えて下がっていく

すると


「ギャアッ!」

「何だテメェ等っ!?」


奥から叫び声が

ドグが俺達と後ろを交互に見て


「なっ!?お前等…っ何しやがった!?」

「ここと、お前等の根城を潰しにと、お前の持ってる魔水を貰いに来た」

「潰すだとぉっ!?何ふざけた事言ってやがるっ!?」

「私に言わせれば、お前等の方がよっぽどふざけてるけどな」


シオリが一歩前に出ればラルフも一歩進み

ドグ達はジリジリと後ろへ


「奥は片付いたぞ〜」

「後はここだけだよ、それと…」


レンとシオンの声

シオンはヒラヒラと何かを見せてくる


「多分コレ、取引関係の書類じゃないかな?

 これで証拠はバッチリだね」

「!? テメェ等…っ俺の部屋に勝手に入ったのか!?」

「入ってないよ 

 何人か倒したら、たまたまアンタの部屋っぽいとこも壊れちゃって

 風に乗って紙がヒラヒラしてたから、ソレを取っただけだよ」

「壊しただぁ!?テメェ等…っ俺達に喧嘩売ってただじゃおかねぇぞっ!!」

「ただじゃ済まさねぇのは俺達だ」


レンの拳には、火が


「子供を、逃げられねぇ様に酷ぇ傷を付けて

 モノ取りが上手くいかないと殺すとか…」


火がゴウッ!と激しく燃え、レンの目には…怒りが


「よくもまぁ、そんな下衆な事が出来るもんだ」

「…っ、フン、自分の物に印を付けておくのは当たり前だろうが

 それにな?あのガキは俺がわざわざ貰ってやったんだ

 俺様の命令に従うのは当たり前の事だろうが!

 簡単な事もロクに出来ねぇ奴なんか、殺すしかねぇだろうがよっ!?」


瞬間

ゾクッ…!と体が何かに怯える

他の奴等も同じみたいだ

レンとシオンだけがシオリを見て、…焦ってる?

恐る恐るシオリを見ると


「…っ!」


髪や服が、風じゃない何かで揺らいでる

 

 

蓮side

ドグって奴が、栞にとって…恐らく、一番タブーな事を言いやがった

栞は感情を抑えようとしてるが、魔力が反応して周りに圧を掛けてる

ビリッビリッと体が感じるコレは…、殺気


「な…っ、何だよ…っお前…っ…」

「それ以上…」

「あ?」

「それ以上…、喋るな」

「はぁ?何言ってんだテメェ?」

「…レノ、ラルフ」

〔〔はい〕〕

「面が壊れない様にと、強力なモノを建物全体に」

〔〔承知しました〕〕

「蓮、紫音…、私の後ろに

 巻き込んじゃうかもしれない」


俺達は壁を足場に、避難してるラルフとカイの側に行く


「レン!シオリは何するんだ!?」

「…アイツが、栞がキレる言葉を散々言っちまった

 死にはしねぇが…、アイツは覚悟しねぇとな…」

「!?…な、シオリがキレるって…っ、何でだよ?」

「カイ、姉さんは昔…、カイと同じ様な環境で酷い事をさせられてたんだ」

「!?」

「だから、さっきのアイツの言葉が…、君に対しての言葉が、相当頭にきてるんだよ」


俺と紫音は仮面越しでも表情が見えてる

だから

栞がどれだけの怒りを必死で抑え込んでるのかが、分かってんだ

 

 

傍観者side

栞に薄らと黒い魔力が纏わり付き、ブワッ!と衝撃波が放たれる


「な…、何なんだ…っ、お前…っ」

「…」

「クソッ…!お前等行けっ!!」


数人が栞に襲い掛かるが

ダァンッ!と横の壁に吹っ飛ばされる


「!? な…何、したんだよ…っ!?」

「…」

「…クソッ!」


ドグは魔法を放つが、栞に当たる寸前で弾け消える


「クソッ!クソッ!クソがぁっ!!!」


何発撃とうが、無意味


「クソッ!テメェに当たんねぇならっ!!」


ドグが蓮達に手を向けると


「おい」


栞がドグの前に一瞬で跳躍し、手を捻り上げる


「うっ!?ぐぁ…っ!」

「今、誰に攻撃しようとした?」


ミシッミシッと骨の軋む音が


「ぐ…っ、テメッ…離せ…!」

「これ以上…、俺を怒らせるな」


ドグの横腹に蹴りが入り、ドゴッ!と壁に激突する


「ぐ…っ、ゲホッ!…ゴホッ!」


ドグが顔を上げれば、殺気を向けてくる栞が

ガタガタガタッとドグが震える

栞はドグの胸に足を乗せ、グッと力を込める


「…っぐ…!止め…、ろ…っ…!」

「だったら、魔水を寄越せ」

「…っ、無ぇよ、んなモン」

「…」


サイコキネシス》を足に纏い、更に押さえつける

ミシッ…ミシッ…バキッバキッ!


「! あぁあああああああっ…!?」

「さっさと答えねぇからだ

 早く言わねぇと…、肋全部折るぞ」

「…っ、クソ…ッタレがぁっ!!」

「…へぇ」


栞がドグの右肩に指をトン…と付けると

ズバッ!

ゴトンッ…とドグの右腕が床に落ちる


「!? うぁああああああああああっ!?!?!?」


ドグは悶え、体を動かそうとするが

栞が動きを封じてる所為でロクに動けない


ちなみに、蓮達には死角になってる為

腕が落ちたのは見えていない


ドグはあまりの激痛に意識が飛びそうになるが

栞が《テロメア》を使って強制的に意識を保たせている


「これでも、まだ無いって言うか?」

「…あぅ…、ぐ…、もう…」

「あ?」

「も…う、止め…て、く…れ…」

「止めてほしかったら、さっさと出せ」

「…お…れの…、部屋…、金…庫…」


栞は蓮達に向き

 

「コイツの部屋の金庫、お願い」

「俺が取ってくる」


紫音が奥へと消えるのを見届けて


「カイの背中にあった魔法陣は消した

 もうあの子を、お前の好き勝手にはさせない」

「…はっ…、それ…で?ガキを…どう、しよって……だ」

「それは私達が決める事じゃない」


栞はカイを見る


「どうしたいかは、カイ自身が決める」


ドグに向き


「他人がどうこうしていいもんじゃねぇんだよ」


紫音が慌てて戻ってくる


「無い!」

「!? おい、この状況で嘘吐いてんじゃねぇよ」


ミシッ…ミシッ…バキッバキッバキッ!


「…っ!」


ドグが言葉にならない悲鳴を上げる


「さっさと言え、本当はどこにある」

「…っ、違…っ、ボス…が、持…て、たん…だ…っ」

「ボス?」

「ほ…とに、1…個、あっ…た……」


ドグがチラッとカイを見る


「俺…は、ボ、か…ら、貰って…、が…

 あの…ガキの…親…か…ら、奪…てた…モン…だ…って…」

《!?》

「ボ…ス…が、親か…ら、ガキ…を、盗…ん、だ…」

「…その親は?」

「…っ、ゲホッ!」

「答えろっ!!」


ドグはヒューッ…ヒューッ…と息も絶え絶えになっている


「栞、これ以上は無理だ…」

「…っ」


栞はドグの頭に手を置き、記憶を探る

 

 

蓮side

どれ位経ったか…

栞はドグから手を離すと、ドカッ!と思いっきり殴る

ドグは気絶したみてぇだ

栞はこっちに戻ってくるが、怒りは収まってない

…寧ろ、殺気立ってる


「本拠地に行く、頭をぶっ潰す」

新たな家族(2)

「お前、魚人か?」


俺達はジュノで学んだ

この世界に、どんな種族がいるのかを

魚人族は基本、海の中で生活してる

地上でも生きれるけど、それには必要不可欠なモノがある

水に自分の魔力を注いで出来る、魔水(ますい)だ

他人が作ったモノでもいいらしいけど、効果は半減するらしい…

だから、本当ならソレを自力で作れる様にしてから地上に出てくる筈

なのに、子供が地上にいるなんて

見た目は10歳位か

さっきの言葉と、身なりを考えると…


「人身売買…」


姉さんがボソッと呟く

蓮が振り向き


「どうする?」

「…」


姉さんは少し考えてから子供に近寄る

子供は姉さんを睨み付けるが姉さんは構わず腰を下ろして、目線を合わせる


「私はシオリ、君の名前は?」

「な、まえ…?」

「うん 名前、教えてくれる?」


子供は目を伏せる


「何で、そんな事聞くんだよ…」

「君の事が知りたいから」


子供がゆっくりと顔を上げる


「知りたい?」

「うん」

「俺の事を?」

「そう」

「…、」


子供は口をキュッと結び


「…カイ」

「カイ、よろしくね」

「…うん」

「俺は蓮だ」

「俺は紫音だよ」

「…レン、…シオン」

〔我はラルフだ〕


姉さんの横にラルフが


「犬?…可愛い」


カイがラルフに手を伸ばす


〔違うぞ〕

「え…っ」


ビクッとカイが驚いて手を引っ込める


〔我は狼神族…神獣だ〕

「ろう、じん…ぞく?…神獣!?」

「違うのは犬じゃなくて、狼って事」

「狼…、神獣なんて、初めて見た…」

〔ほれ、フサフサだぞ?〕


ラルフが尻尾をフリフリとカイの頬に摩る


「フフッ、擽ったい」

「やっと笑ったな、お前」

「え…?」

「カイ、私達にはもっと家族がいるの

 紹介したいけど、今は時間が無いみたい」

「家族? …時間、…っ、そうだ!俺には時間が無ぇんだよ!」

「そうだよ、このクソガキがぁっ!!」

「!?」

 

 

カイside

シオリ達と話してたら

いつの間にかドグの仲間…ダーガ達に囲まれてる…っ


「全然戻ってこねぇと思ったら、何楽しそうにしてんだよ?

 ドグが待ち侘びてんぞぉ!?」


怒声で体が震える


「あ…っ、ごめん…なさ…」

「今更謝ったって意味無ぇよぉ!?

 俺達はお前を始末しに来たんだからなぁ!!」

「!? し、始末って…っ」

「決まってんだろぉ!?お前を「それ以上」」

「あ?」


シオリが俺を背に庇う

ラルフが横にいてくれて、レンとシオンも俺を囲う様に動く


「それ以上、この子に向かって喋るな」

「あ?テメェは何なんだよ!?関係無ぇ奴は引っ込んでろぉ!!」


ダーガ達が一斉に魔法を放つ


「!?」

「大丈夫」


見上げればシオリは振り向いてて

ドンッ!と魔法が俺達に当たる直前に弾けて消えた


「…え」


今、一体何が…


「テメッ!何しやがった!?」


シオリはダーガに顔を向け


「防御したから弾いて消えただけだ、そんなのも分かんないのか」

「っんだとこのヤロォッ!!」

「蓮、紫音、他は任せてもいい?」

「おう」

「勿論」


レンとシオンが凄い早さで周りの奴等を倒してく


「テメェ等ぁっ!」


ダーガがシオリに襲い掛かるが、ピタ…と動きが止まる


「…なっ、テメェッ何しやがった…っ!?」

「動きを止めただけだ、いちいち聞くな」

「んのヤロォ…ッ、おいオメェ等!やれぇ!!」


また茂みから沢山出てきて、一斉に襲ってくる

ラルフにギュッ!としがみつくと

ポン…と優しくて、暖かいモノで頭を撫でられる

顔を上げると

シオリはこんな状況なのに腰を下ろして、俺と目線を合わせ

俺だけに見える様に仮面を外し、ニコッと微笑む

その優しく微笑む表情…綺麗な目から、目が離せない


「…シオリ」

「大丈夫 カイは、私達が護るから」


シオリはダーガに向き直り


「さて、アンタ等の根城を教えてもらおうか」

「誰が言うかよ!」

「ああ、大丈夫。別に言わなくても」

「あ!?」

「もう分かったから」

「なん…っ、だと!?」

「こっちは片付いたぞ」


振り返れば、レンとシオンが傷一つ無く全員倒してる


「コイツ等、警備隊に突き出しとく?」

「そうしよっか」

「ふん…っ!俺達が何したってんだっ!?何の証拠も無ぇんだからなっ!!」

「証拠なら、アンタ等が持ってる」

「あ!?」


すると、ダーガの目から光が無くなる

暴れてる手足がダラン…と力を無くす


「!? シオリ…、何したんだ?」

「《テロメア(生体コントロール)》で、脳の酸素を少なくしたの」

「てろめあ?脳…の、酸素?」


言ってる事はよく分かんねぇけど


「お前等、スゲェんだな…。それに、強い…」

「さてと…」


シオリは俺に目線を向ける


「カイ、私達はこれからコイツ等の根城を潰してくる」

「!? ホントに分かったのかよっ!?」

「うん 私には色んな力があるの」

「色んな…」

「そう でも今は、カイの事ね」

「? 俺の事?」

「私達と出会ってから、ずっと苦しそうにしてるけど

 それは、魔水を飲めてないから…だよね?」

「!? 何で…それを…」

「詳しい話は後で

 今は、カイを治すのが先

 あんな奴等でも今まで一緒にいたって事は、その水を貰ってたからだよね?」

「…ああ」

「カイは、自分で作り出せる方法は知ってる?」

「…知らない

 俺は、物心付いた頃には奴…ドグといて

 知ってんのは自分が魚人族って事と

 魔水が無いと水が無い場所では生きれないって事だけだ

 だから奴等に何されたって逃げれねぇ…

 奴等がいねぇと、俺は生きていけねぇんだ」

「海には逃げれねぇのか?」

 

 

蓮side

カイは俺達に背を向けて服を捲る


「「「!?」」」


黒い魔法陣が、背中に


「コレがある限り、海には入れねぇんだ

 …一回逃げようとした時、死ぬんじゃねぇかって位、痛かった

 だから…」


カイが服を下ろそうとした時


「カイ、背中…、触ってもいい?」

「別に、いいけど…」

「ありがとう」


シオリの左目にはペンタクルが

すると

バチッバチッ!と魔法陣から黒い電気みたいなのが出て、栞の手を傷付ける


「おい!?何やってんだよ!?」


カイが離れようとするが


「動かないで」


栞の表情に力が入る

そして…、

少しずつ魔法陣が消えていった

ついでに体中の傷も


「はい、もういいよ。ありがと」


カイが慌てて服を整えて振り返る


「何したんだ!?」

「魔法陣を消した」

「…え?」

「これでどこへでも行けるよ」

「…っ、ウソ、だろ?」


栞はニコッと微笑む


「ホント」


カイはポカン…と茫然とする


「でもコレだけじゃダメ、魔水を手に入れないと」

「…アレは、ドグから命令されて成功した時しか貰えないんだ」

「なら、早速行こうか」


栞が立ち上がる


「そのドグって奴のとこに」