穏やかな時間(2)

蓮side

ある日の昼中


「ラルフと少し行ってくる」

「? どこに行くんだ?」

「前に失敗した《メタモルフォシス(動物への変身)》を使い慣らしてくる」

〔ほう!今回は上手くいくのか!?〕

「めたもる…?」


人型のゼルファが興味津々だ

カイは頭に?が浮かんでる


「上手くいかせるよ」


栞はお風呂に向かった

カイが紫音を見上げ


「シオン!シオリは何するんだ?」


紫音は腰を下ろし


「姉さんは、動物に姿を変える能力を持ってるんだ」

「!? 動物!?」

「そう 

 今まであんまり使う機会が無かったけど、これからの事を考えて

 ちゃんと変身出来る様にするんだと思う」

「じゃあシオリは、何に変わるんだ?」

「ラルフと行くんなら…、狼だね」


タイミング良く、風呂場から中型サイズの狼姿の栞が出てきた


〔おお!上手くいったな!!〕

「スゲェッ!シオリ!ホントに動物に変身出来るんだな!」


ゼルファとカイが栞に近寄り、頭を撫でる


〔…ふむ 流石に匂いまでは変えられぬか〕

〔あくまで姿だけを変えられるのですね〕


ラルフが嬉しそうに鼻先を栞に擦り付ける

カイは耳や頰をずっと撫でてる


「わぁ…モフモフだぁ」


栞はカイの頰をペロッと舐める


「ワハハッ!擽ったい!」


紫音は腰を屈め、サラ…と背中を撫でる


「わぁ…、気持ち良いね

 姉さん、ラルフとどこまで行ってくるの?」


栞は紫音を見上げ


“そんな遠くまでは行かないよ、少し森を散策してくるだけ”


口は動かず《テレパシー》で栞の声が聞こえる


俺は何も言わずに、ただ栞の狼姿を見てる

いや…、違うな、見惚れてる

前はラルフをモデルにしたから白い耳と尻尾だった

だが今は、全身が黒で所々に金色が混ざってる

要は髪色がそのまま体の色になってる

そして目の色は変わらず、左目が赤い

ラルフが白だから、対を成してる様で…神秘的だ


俺が物思いに耽ってると


〔折角だ!我も行こう!〕


ゼルファが白く光り、小竜の姿に


「あっズリィッ!俺も行きてぇ!!」

「もうこの際、皆で行く?」

「栞、いいか?」

“うん、皆で行こっか“


折角だからと

キノコや山菜をゼルファと、栞がラルフに教えてもらいながら匂いで探し

獣の跡があれば、練習にと栞が臭いを辿ったりした


少し空けたとこに出ると


“ゴメン ここで少し休憩するね”


久し振りの能力を使ったからか、栞は腰を下ろす


〔そうか!ゆっくり休め!我はもっと山菜を探し出してくる!〕

「俺も行く!もっと沢山採りてぇ!」


ゼルファとカイが勢い良く森に消えてく


〔ゼルファ!カイ!山菜を根こそぎ採るつもりか!〕


ラルフが顰めっ面で後を追う


「俺も付いていくから、心配無いからね」


結果…、ここに残ったのは俺と栞だけだ

近くの木に凭れて座ると、栞が横に座り俺の足に頭を乗せる

栞の頭や背中を撫でながら軽く見上げれば

森を吹き抜ける柔らかい風が頰を掠め

風で揺れる木の葉の音、鳥の囀りが聞こえ

自然と目を閉じ、ゆったりとした穏やかな時をのんびりと過ごす


どれ位経ったか…

近付いてくる賑やかな声に目を開く


「(戻ってきたか…)」


栞を見れば、寝息が聞こえる

俺達家族の前では

気配が近付こうが声が聞こえようが、あんまりすぐには起きなくなった

しかもここは森の中

今ここに、栞を危険に晒すモノは何も無い…

改めてここが栞にとって、本当に気を休められる場所なんだと実感し

嬉しくて栞の頭にキスを落とす

栞は耳をピクッと反応させ、ゆっくり起き上がり俺を見る

狼姿でも穏やかな表情をしてるのは分かる

俺は栞を優しくギューと抱き締め、モフモフを堪能


「あ〜、これは気持ち良いなぁ…」


紫音達が来て、声を掛けられるまで

モフモフを味わっていた


その夜

皆で採ったキノコや山菜を鍋にぶっ込み、謂わば…しゃぶしゃぶにして食べた