悪魔(3)

城を出ると、街の皆が集まって武器を持ってる


「…え」

「お、…おい」

「み…んな?」


皆はキッと俺達を睨みつけ


「話し掛けるなっ!人殺しがっ!!」

「「「!?」」」


ビクッ!と栞が怯える


「よくも国王様を…っ!クロト様を酷い目に合わせたなっ!?」

「アンタなんか…っ、シオリ様じゃないっ!

 家族を殺す奴がシオリ様なもんかぁっ!!」

「殺してやるっ!お前等なんか殺してやるっ!!」


ジリ…ジリ…と殺気の篭る目で近づいて来る


「な…っ、何で?…っ、…どうして!?」

「どうしちまったんだよっ!?」

「お、お願い…っ、皆…っ、話を…っ」

「黙れ人殺し!!誰もお前の言う事なんか信じねぇよっ!!!

 シオリ様のフリなんかしやがってっ!」

「魔物だわっ!魔物がシオリ様のフリをしてるんだわっ!!」

「そうだ!俺達を騙しやがってっ!!さっさと死ねっこのバケモンがぁっ!!!」

「!?」


栞が顔を蒼白にしてガタガタッと震える

俺は栞をギュッと抱き締め、皆から隠す


「はっ…はっ…はっ…!」

「大丈夫だ…っ!俺達が側にいるっ!」


紫音は怒りの目で


「姉さんに死ねなんて…、バケモノだって?」


ユラ…と紫音が皆に向かって歩く


「!? 紫音!止めろぉっ!!」

「居たぞぉっ!」


さっきの兵士がっ…!

くそっ、どうするっ!?


〔もう我慢出来ぬっ!!〕


ゼルファ…っ!?

バキッバキッバキッ!と何かが壊れる音が聞こえ、栞が白く光る


「…ぅ…っ」


栞は胸を抑えて苦しそうにしてる


「栞!?」

「姉さんっ!?」


紫音が駆け寄ると、白い影が頭上に広がっていく

影が次第にドラゴンの形になっていき

ゼルファが本来の大きさで現れた


〔グルルッ…!!!〕


唸り声を上げ、皆を威嚇する


「ド…ッ!?ドラゴン!?」

「こんなのを宿してるなんてっ…、やっぱりバケモノだっ!!!」


栞がビクッ!と肩を震わせ、涙を流して俺にしがみつく


〔貴様等…っ!我が家族を愚弄する事は許さんっ!!〕


ゼルファが口を開け、力を込める


「うわぁっ!?逃げろぉ!」


皆が慌てて逃げていく


〔逃すかっ!〕

「だっ、駄目っ!止め…てっ!」


栞が震えながらゼルファを止める


〔止めるなっ!〕

「お願…いっ!皆を、傷付け…ない、で…っ!」

〔だが此奴等はお主をっ!〕

「お願いっ!!」

〔…っ、分かった。ならばこの国を出るぞ!」


周りが白く光り、目を瞑る

 

 

目を開けば

そこはゼルファと出会った森


〔ここならば大丈夫であろう〕

「…、助かった…」


紫音の言葉で、体の力が抜ける

ドサッ…と座り込み、腕の中で震える栞を見る


「…、栞」


栞は涙を流しながら、怯えの表情で


「…っ、れ…蓮っ…!」


俺にギュッとしがみ付き、紫音の腕を掴み


「お…ねがっ…!お願いっ…!離れて、かない、で…っ!!

 ひと…りに…っ、しないでっ…!!」

「大丈夫だよ、姉さん」

「何があっても、側にいるから」

「…っ、…っぅ…」


すると

精霊が出てくる


〔やっと、出てこれました…〕


ラルフが栞の涙をペロッと舐め取る


〔先程、我が無理矢理出てきた故にシオリに負担を掛けてしまった

 すまなかった…〕

「…ううん。ゼルファが出てきてくれたから、私達は助かった

 ありがとう」


…、さっきの音と栞が苦しんでたのは、そういう事か


〔私達があの部屋に入っていたら、悪魔に魂を取り込まれていたでしょう

 こうしてお側にいられるのは

 私達が生きているのは、シオリ様のお陰です〕

〔我等も〕

〔感謝致します〕


レノ、フェニア、ジルも

もしあの場で精霊が殺されてたら、俺達も死んでた


「栞」

「…ん?」

「俺達を護ってくれて、ありがとな」

「…うん」


栞は疲れて寝ちまった

大きくなったラルフのお腹に、栞を休ませる


「…お父…様…、兄…さ…ま…」

「…」


寝ながらも涙を流してる

そっと指で涙を拭う

レノが栞に寄り添い、頭に手を翳す


〔せめて寝ている時は、安らかに〕

「…そうだな、」


ゼルファが人型になり、フェニアが煙が出ない火を起こしてくれた

ゼルファが俺を見て


〔これからどうする?〕

「とりあえず今日はもう休もう。考えるのは明日だ」

〔うむ では夕食を摂らねばな〕

「…」


そういやぁ、夕飯がまだだった

気付いちまえば、腹が減ってくる


〔よし、我が果実を用意しよう〕

「「え?」」


ゼルファが目を瞑り、数分経つと

ガサッと草むらから音が


「「!」」

〔案ずるな〕


ピョコッと動物が出てきた

口に果物を咥えて近づいて来る


(どうぞ)

「!」


言葉が…

受け取って頭を撫でると、嬉しそうに目を瞑り去っていった


〔ここの動物達に果実を取ってくるよう頼んだ〕

「…そんな事も出来んだな…」

〔うむ〕


腹が膨れた頃

ラルフが俺達も寝せてくれるらしく、俺達が余裕で体を預けれるサイズになってくれた


「…、もし追手が来たら…」

〔大丈夫です

 私達精霊に眠りは必要ありません、安心してお休み下さい〕

「そっか。なら、頼む」


俺達は栞を挟んでラルフに体を預けた

あったかい尻尾が毛布代わりになって、すぐに眠りに落ちた

 

 

紫音side

翌日

皆、少しは気持ちを落ち着かせれたみたいだ


「とりあえず、ここから出ないと

 いつまでも休んではいられない」


姉さんはラルフを抱えて話してる


「まず服を変えよ

 アイツ…サタンの力がどこまで広がってるか分からないけど

 少なくとも私は、見た目を隠さないと」

「《ヒュプノ》を使えば済むんじゃねぇか?」

「…それなんだけど、気になってる事があって…」

「? 何?」

「昨日、アイツは言ってた

 『お前色んな力持ってんだな』って

 その後に黒い光を翳された…」


姉さんは俺と蓮を見ると、左目にペンタクルが

…でも


「姉さん、何に変わってる?」

「…顔を変えてる」

「…、駄目だ」


姉さんは困惑の表情で


「…じゃあ」


姉さんの視線が地面にある石に

すると

フワッと浮かび上がる


「《サイコキネシス》は使えるのか…」

「《テレポート》は?」


姉さんは目を伏せて集中するが


「…出来ない」

〔彼奴がシオリの力を封じたのなら

 使えぬのは恐らく、その2つだけであろう〕

「何で?」

〔使えぬのは、敵から己を偽る能力と…敵前から一瞬で消える能力

 我等の動向を探る際に、その力は邪魔であろう?

 そして言っておったな、シオリの闇の魔力を覚えたと〕


ゼルファが姉さんを見る


〔シオリ、お主が持つ闇で彼奴に居場所が知られるだろう

 闇というのは…一度生まれたら容易には無くせぬ

 そして、どれだけ己を制し上手く隠そうとも

 悪魔…それも頂点に位置する彼奴にとっては、見つけるのは容易い〕

「…」

「どうしろってんだよ」


ゼルファがレノに目配せすると

レノは白い狼の仮面を持って、姉さんに見せる

姉さんは手に持ち


「…コレは?」

〔レノとラルフに頼んでおいた、闇を隠す力を持つ…隠闇(かくぐら)の仮面だ

 お主等は最上位の契り…魂の献上をシオリにしておるのだろう?〕

「「!?」」


魂の、…献上?


〔それだけ深く繋がっておる精霊と神獣、…しかも光属性が作りし物ならば

 身に潜む闇を完全に抑え込めるであろう〕

「…分かった」

〔だが、仮面があると言っても

 お主自身も怒りや憎しみ…負の感情を易々と出さぬ様に心掛けるのだ〕


姉さんがラルフをギュッと抱き締め、レノを見る


「ありがとう」


姉さんが仮面を着けてみると

仮面は上半分だけで、鼻と口は隠れない


「ソレ着けてても見えるの?」

「うん。顔は隠せたし、色々と調達しに行こうか」

「「…うん(おう)」」


森を歩く中、蓮にコッソリ話し掛ける


「蓮…、蓮にも見えてる?」

「…、紫音にも見えてるんだな?」

「うん…、何でだろうね…」

「分からねぇが、好都合だな」

「そうだね」


俺達は森を出て、未知の国に入った