精霊(2)

ソルと一緒に2人が部屋に戻っていくのを見届け

シオリとワシの部屋へ行く

ソファに座るシオリには、やはり疲労はみられない


「シオリ」

「はい」

「精霊は呼び出した者に繋ぎを求められ、それを受け入れたと言っていた…

 レンとシオンに宿った精霊はお前と魂を繋いだのか?」

「精霊は、神獣と同様に魔力を糧とするんでしょう?

 2人は魔力が生み出せる様になりましたが、糧となる元の魔力がありません

 2人は常に私の魔力が篭ってる物を着けています

 その魔力を糧としてもらいます」

「だから一度、シオリの体を介して2人に宿ったのか」

「はい、私の魔力を覚えてもらう為に」

「…つまり、2人の精霊の主はシオリなのか?」

「いえ、私はあくまで糧となる魔力を2人に注ぐだけです

 精霊の主は蓮と紫音です」

「誠に精霊はそれで納得しておるのか?」

「精霊には…、私に何があっても蓮と紫音を一番にと願いました

 精霊も、聞き届けてくれました」

「…それで、お前の身は保つのか?」

「問題ありません」

「そうか。…シオリ、お前にも精霊がおったのは思い出したか?」

「はい。思い出したのは名前と顔だけですが、色々とラルフが教えてくれました」

「ふむ

 しかし、お前が一度死んでしまい、糧となる魔力が無くなり精霊界へ帰った

 …ラルフの様にはいかなんだ、神獣と精霊は少し違う様だ

 まだ余力があるのならもう一度、繋いではどうだ?

「…そうですね、今の私と繋いでくれるかは分かりませんが」

 

 

その夜

蓮と紫音が疲れて眠ってるのを確認して、ラルフと一緒にまたあの部屋に

中心に立って天井を見上げる


《精霊召喚》


昼間と同じ様に、紋様が崩れて光る

紋様から出てきた黄色の球

私の目の前まで降りてくると


〔…シオリ、様?〕


光の球が形を変え、人型になっていく


「貴方が…」


以前の私に宿ってた、光の精霊…レノは驚きの表情をしながらもお辞儀する


〔お久し振りです、シオリ様〕

「来て、くれた…」

〔私も驚いております

 シオリ様は最後の瞬間、皆と再会出来るのを願っておりましたが

 まさか本当に…、実現するとは…」

「えと、実は…、貴方の事は名前と顔を思い出しただけで

 ラルフから聞いただけなんだけど…、あの、光の精霊…で合ってる?」

〔はい〕


ニコッと微笑むレノをジーッと見る

ラルフが言ってた、エルフっていう…人に似た姿をした精霊


〔では、繋ぎましょう〕

「…えっ…」

〔? どうしたんですか?〕

「あ、あの…、私は、以前の…貴方と繋いでいた人の生まれ変わりで

 魂は同じだって言われたけど…」


チラッとラルフを見る


「私は、こことは違う世界で、普通とは違う生き方をしてきた

 2人が知ってるシオリとは、考え方や周りの人に対する接し方

 貴方達との接し方がだいぶ違うと思う

 魂を繋いでると言っても…

 それでも…、こんな私でもいいの?

 一緒に、いてくれるの?」


レノは慈愛に満ちた表情で、ラルフは私に擦り寄り


〔そうですね

 こうして対峙してる間だけでも、以前とは雰囲気や喋り方が違います

 ラルフに少しだけ記憶を共有させてもらいましたが

 魔物…敵対する者にとっての態度・対応が変わりましたね〕

「…」

〔ですが、民を護る為には当然の行動です

 貴女様は、私が認めた…ただ1人の主

 それは何があろうと変わりません」

〔そうです、我が主

 ザキロ殿は生まれ変わっても魂が繋がれているから我が動いたと言っていましたが

 それだけではありません

 まだ数日も経っていませんが

 我は…、我等は、今…ここにいるシオリ様を我が主にと望んでいるのです〕

「…」


目頭が熱くなる

私は、必要とされてこの世界に来た

でも…、あくまでソレは私が、この世界にいたシオリの生まれ変わりだから

そんな考えが、ずっと頭の片隅にあって

普通とは違う生き方をしてきた私が

再会を喜んでくれるラルフや皆と、本当に一緒にいていいのか悩んでた

でも、お父様や国の人達に私自身を受け入れてもらって

今の私を、主として望んでると…、言ってくれた2人を前に

感情を抑えれない…っ


「…っ、ありがとう」

 

 

〔…シオリ様、1つお願いがあります〕

「お願い?」


レノがラルフに目を合わせる


〔精霊、神獣は真に主と認めた者とのみ魂を繋ぎますが…〕


ラルフがレノの隣に並ぶ


〔〔我等は、それ以上の繋ぎ…魂の献上を望みます〕〕

「…魂の…献上?」

〔私達の魂をシオリ様の身に宿すのです〕

「!?」

〔この繋ぎは、我等と我が主の…全ての感覚を共有する繋ぎです

 記憶や感情、そして…痛みも〕

「!? 駄目!そんな事…っ」

〔シオリ様、私は貴女様が死に向かう時、どれ程辛かったか

 どんな思いで精霊界に戻ったか、想像出来ますか?〕

〔我も同じです 我が主が死に至った時、我も後を追う筈だった

 ですが、我が死なぬ様にと…あの箱をお作りになった

 残された者のお気持ちを想像してみて下さい〕

「…っ」

〔過去の記憶が無いのは存じています

 ですが、それでも私達はあんな思いはしたくないのです!

 今ここで再び、シオリ様とお話出来ている事が、どれだけ喜ばしい事か…っ〕

〔我が主っ!どうか我等の魂をお受け取り下さいっ!〕

「…っ…」

〔シオリ様!〕

〔我が主!〕

「………、分かった」

〔〔! 我が主ぃ!(シオリ様ぁー!)〕〕


2人が勢いよく飛び込んで、尻餅をついた


「痛てて…」

〔〔ありがとうございます!〕〕

「うん それで、どうやるの?」


2人は私の上から退くと

レノは胸に手を当て、ラルフは目を瞑って俯く

すると…

それぞれの胸から白く光る球が

レノはソレを手に持ち、ラルフは鼻先で私の目の前へ


〔…、シオリ様、この繋ぎを行った者は今までに誰一人としておりません

 故に魂を身に宿した時、何が起こるか分かりません〕

〔ですが、それでも主に魂を宿して頂きたいのです〕


2人が不安そうにしてるけど


「私は大丈夫だよ 

 どっちかって言うと、体に魂が無くなる2人が心配なんだけど…」


ラルフとレノは顔を見合わせ、微笑む


〔優しいのは、変わってませんね〕

〔シオリ様は昔も今も、常に私達や周りを気にされてみえました〕

「…」


恥ずかしくて目を逸らすと、2人はクスクスと笑う


〔では、やりましょう〕


レノの言葉を合図に、2人の魂が私の胸に吸い込まれていく

完全に魂が入った瞬間

ドクンッ!

心臓が、…体が、

ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!


「…はっ…、はっ…」


息が、上手く…出来ない…

視界が、ボヤける…

ビクッ!ビクッ!と体が痙攣する

思わず前に倒れそうになると、フワ…と柔らかい感触に当たる


「…ラル…フ…」


後ろからもフワ…と温かい感覚に包まれる


「レ…ノ…」

〔我が主〕

〔私達は、いつもお側におります〕

「…」


目を瞑り、2つの魂を認識する

2人は全ての感覚を共有したいって言ってくれた

…でも、やっぱり痛みは駄目だ

全く共有しないのは怒られそうだから、知る事だけを…

これなら私が怪我をしたと認識するだけで痛みは無い

お願いを聞いたんだから、これ位は許してね

そして、2人の魂にはプロテクトを

そうしてる内に、痙攣は治まり呼吸も安定していく


「…もう、大丈夫」


ラルフが不安な表情で見上げ、レノが後ろから覗き込む

私は微笑み


「無事に終わったよ」


パアッ!と2人が笑顔になった


「2人共、これからもよろしくね」

〔〔はい!〕〕

 

 

蓮side

翌日

栞がザキロ王と話があるって、王の自室に


「シオリ、話とは何だ?」

「…私も、精霊を宿しました」

「「!?」」

「そうか 出来たのか…」


ザキロ王は慈愛の表情を栞に向ける


「ならば、姿を現してくれるかの?」

「レノ…」

〔はい〕


栞の後ろに現れたのは、エルフみたいな男の人


「…レノ、久し振りだの」

「レノ殿、お久し振りです」

「ザキロ王、ソル殿、お久し振りです」

「あ、あの…、この…人?は…?」


紫音がしどろもどろに聞く


「この者は、光の精霊…レノ。シオリに宿っていた精霊だ」


栞に宿ってた精霊…


〔初めてお目に掛かる方もいる様ですね〕


精霊は俺と紫音が見える様に移動して


〔私は光の精霊…レノと申します。気軽にレノとお呼び下さい〕


光の精霊…レノ

 

その後

俺と紫音は剣術を習う為にソルと稽古場へ

栞はザキロ王ともう少し話すらしい

 

 

ザキロ王side

レンとシオンがソルと稽古場へ行くのを見届けてた後

シオリを見る


「さて、本題はこれからなのだろう?」


シオリは苦笑し


「分かってましたか…」

「色々と見る事の出来るソルがおるからのぅ

 レノとラルフと、一体…、何をしたのだ?」


すると、レノが胸に手を当て


〔私達は、魂の献上を願い出たのです〕

「? 魂の…、献上?」


ワシも精霊を宿し、長年生きておるが

一度も聞いた事が無い


「一体、どんな…」

〔そのままです。私とラルフの魂を、シオリ様に宿して頂いたのです」

「!?」

〔魂を繋ぐよりも高位な、…いえ、精霊や神獣にとって主への最大の忠誠です

 それにより、私達はシオリ様と全ての感覚や感情を共有出来るのです〕

「全ての感覚と…、感情?」

〔はい 私達はもう…あんな思いはしたくありません

 シオリ様が死に至る時は、共に死にます

 精霊界に戻り、草木になる事も無く

 シオリ様と共に魂が消滅します〕


レノとラルフの目…表情には、覚悟がある

勿論、シオリにも…


「…分かった。では、これからも我が娘を頼む」


シオリも魔力を使いこなせる様にと、レン達の元へ行った


「…にしても、シオリの魔力は底無しだの…」


ラルフ、フェニア、ジル、レノ

普通呼び出せる精霊自体、下位のモノが殆どだというのに…

神獣と精霊には必ず主の魔力が必要となる

下位の精霊でも消費が多い故、魔力が多い者でも2体が限度だというのに…

シオリは四大精霊を2体と更に上位の光の精霊と神獣まで…


「これからが楽しみだのぅ」

 


それから数日

私は蓮や紫音と勉強をしてる

国の事とか、存在する魔物…、他の国の事も

この世界に関して、知らない事だらけだ

魔力や全ての属性を持ってると言っても、経験や知識が無いと…

今は書物庫と呼ばれてる謂わば図書室で3人で勉強中

この世界での文字が読めるか不安だったけど

精霊を宿して体がこの世界に馴染んだからか、自然と読める様になった

私の横にはラルフが寝てて、レノは私の中に

蓮と紫音も、精霊とはタメ口で会話出来るまでに仲良くなってる

剣術も、元々身体能力は高いから剣の扱いが慣れないだけで

接近戦は上手くいってる

魔力を纏っての戦い方はソルに教えられながら、私も混ざって訓練中


国に住む人達とも沢山話し、時々襲ってくる魔物も対処して

徐々にこの世界に慣れていった

 

ついでに…

お父様は蓮と紫音にも、父親として呼ばれたいと言い始めた

今を思えば、2人が《父さん》って呼ぶのが一番時間の掛かる事だった

敬語を止めるのだけが、3人共無理だった

 


日々の状況が安定して

最近は私達3人とお父様、ソルが控えての食事が当たり前になってる

勿論、ラルフも


私は記憶にある限りの人達と会って話してきたけど

あと1人、会えてない人がいる


「お父様、クロトって人を知ってますか?」

「知ってるも何も…、シオリ…、お前の兄だ」

「「「!?」」」

「私の…、兄?」

「お前は捨て子だったから、血は繋がっておらんが

 当時、クロトとは3つ離れておった

 今は見聞を広げる為に国を離れておる」


…ちょっと待って


「あの、兄は今いくつなんですか?」

「クロトは…、今年で50になるかの」

「「50!?」」

「あの、と…父さんは?」

「ワシか?ワシは80だ」

「「8…っ!?」」


…っ、見えない


「ハハハハッ!!そんなに驚く事なのか!!

 まあ、この世界で見た目で歳は測れん

 遥か昔から、魔力を持つ者は自然と長命なのだ

 故に、クロトも見た目はお主等と変わらぬぞ?」

「「「…」」」

「ハハハハッ!クロトが帰ってくるのがより待ち遠しくなったぞっ!!」


その後は街に出て、皆と話して過ごした

 

 

蓮side

その夜

自室で3人で過ごしてる時に、栞が席を外したのを見て


「紫音、ちょっと…」


手招きして紫音とベランダに


「何?」

「今日、栞に兄貴がいるって話があっただろ?」

「? うん」

「って事は、王座を継ぐのは兄貴だろ?

 つまり国王の娘に当たる栞、その夫の俺には面倒事は来ないって事だよな?」

「…、そうだね」

「何だよその目は、俺が国王なんて出来ると思うか?」

「……確かに」

「この世界でも、俺は栞と気ままに暮してぇよ」

「だね」


俺達は急な異世界の生活をのんびりと過ごしていた