ギルド(1)

森を出て近くのサノ国

入ってすぐに市場が広がってる

門番に止められないか不安だったけど、そもそも門番が居なかった

市場を歩いてると、果物や肉や魚…色んなモノを売ってる

歩いてる人達もそれなりに多い


「魚まで売られてるって事は…、海に面してるのかな」

「しかもこの人通りだから、きっと検問も時間掛かり過ぎて

 城の周りだけに兵が居るかもしれねぇな」


紫音と蓮の会話を聞きつつ、中心にある城を眺める

城の周りには塀がある

周りに兵士らしき姿は無いから、きっと2人の言う通りだろう


念の為、サノ国に入る前に精霊は体の中に入ってもらった

ちなみにゼルファは自分から入った

元々人間嫌いだけど、昨日の事で更に悪化…

私達家族以外の人間を毛嫌いする様になっちゃった

ラルフも入ってほしかったけど


〔どうか主のお側に!〕


って事で

子犬サイズで肩に乗り、体を髪で隠して顔だけを覗かせてる


服店を探しに歩いてると


「ねえ聞いた!?ジュノの国王が殺されたんですって!」

「聞いた聞いた!なんでも何処からか帰ってきた国王の娘が殺したんでしょ!?」

「それがねぇ!?その娘、偽者だったらしいわよ!?」

「ええ!?」

「国民を騙す為に本当は娘のフリをしたバケモノって話よ!?」

「バケモノッ!?やだ怖い!しかも国王の息子まで酷い目にあったんでしょ!?」

「そうよ!国民が必死になって国から追い出したらしいけど

 今ではその息子が何とか国を納めてるって話!」

「え〜!立派ねぇ〜!」


思わず立ち聞きしてしまった


〔グルルル…ッ〕

「落ち着いてラルフ」


コレが…、サタンが仕組んだシナリオ


私が、お父様を殺し…お兄様を…、

皆を騙した…、バケモノ…


グイッと不意に蓮に肩を抱き寄せられ、路地裏に

紫音が表通りから見えない様に立ち塞がってる


「蓮、紫音も…、大丈夫だよ…」

「何が大丈夫だよ。…レノ」

〔はい〕

「面を外してもいいようにしてくれ」

〔…はい〕

 

 

蓮side

隠闇の面をゆっくりと外すと、栞は俺を見上げる


「? どうしたの?」

「分かってねぇのか?お前は今、泣いてんだぞ?」

「え…」


栞が瞬きする度に溢れていく涙

栞は目元に指を持っていく

指に付いた涙を茫然と見る栞をグッと抱き締める


「蓮、何で…」

「紫音も同じなんだけどな

 面を着けてても

 お前の顔は見えてんだよ、不思議とな」

「…」

「我慢しなくていい、泣きたい時は泣け

 面を着けてても見えてるし

 どんだけ表情や気持ちを隠してても…、俺達には分かるんだから」

「姉さん」


紫音が栞の頭を優しく撫でる


「我慢、しないで?」

「…っ、」


栞が俺の胸に頭を押し付け、震える


「…っう、うぁああああああああああ…っ!」


そういえば、栞がこんなに泣くのを見るのは初めてだ

ふと周りを見ると、風が壁みたいに動いてるのが分かる

紫音を見れば、ニコッと笑顔で


「防音を加えた《ウィンウォール(風壁)》だよ」


いつの間に…

 

 

気持ちが落ち着いた後、改めて服屋を探す

私達が着てるのは、位の高い人が着てる服だから、もっと庶民的な服を

それに、身軽に動けるのがいい

…でも1つ問題が


「そういえば、お金持ってないよね…」

「「あ」」


そう

急にこんな事になったから、普段持ち歩いてるバッグは手元に無い

どうしよう…

すると

少し先の服屋の店頭に、無料って札と大量の服が


「すみません」

「はい!何でしょう?」

「この服は、タダなんですか?」

「はい!売れ残りの在庫処分をしております!

 ウチは色んな衣類関係を扱ってるんで大量に余ってまして!

 いくらでも持ってって下さい!」


これはラッキー

見てみると、確かにバッグや靴…衣類関係が揃ってる

売れ残りだから新品ばかりだし

蓮と紫音は動き易さ重視の服を

私はフード付きのを選んだ


市場を歩いてる中

出回ってる話は、私に関する事だけ

身元を隠すのは私だけで良さそうだ


「栞、ひとまず整理するか?」

「…、そうだね」


近くの食事処に入り、隅のテーブルに


「さてと、まず…私達の敵は悪魔ってとこだね」

「しかもサタンって名乗ってたな…」

「サタン、悪魔の頂点にいる…悪の根源とされる悪魔」

「前に読んだ本には

 《悪魔は天使に強く、天使は精霊に強く、精霊は悪魔に強い》ってあった

 この三竦みの関係で考えれば、数で言えば圧倒的だけど…」

〔確かに、それで考えれば私達に勝機があります〕


レノの声だけ聞こえる


〔ですがサタンとなると…、相手が悪過ぎます〕

「私達がもっと魔力を上手く使いこなす

 かつ…皆の力があれば、どう?」

〔…分かりません。相手がサタンだけだったら話は別ですが

 一緒にいた…アル

 あの者の負の感情は絶大です

 ソレを糧にしている今、勝てるかどうか…〕

「…サタンは、精霊と同じ様にこの世界にいんのか?」


視線が蓮に集まる


「精霊や神獣は主、…つまり、契約者の魔力を糧にしてこの世界にいるんだろ?

 だったら悪魔だって同じじゃねぇか?

 アルから離せれば、糧が無くなればサタンはこの世界から消える

 アルさえ何とかすれば勝てるんじゃねぇか?」

《!》

「その為にはまず、アイツの事を知らないとだけどな

 どんな魔法を使うのか…」


…それだったら


「ゼルファ、何か知らない?」

〔…すまぬ

 長年に渡り、彼奴が我を殺めようとしていたが

 その全てが呪術なのだ

 故にどんな属性魔法を使うのか、何も知らぬ

 だが、前に言った通り…彼奴は不死の呪いがある

 人間と精霊を引き離すには、人間が死に絶えるのが一番早いが

 サタンと不死の男…、まさしく最悪の組み合わせよのぅ〕

「…呪いを解く方法は無いの?」

〔…、解けるかどうかは分からぬが

 神は彼奴に罪という言葉を使っておった

 罪は、いずれ許されるモノ…

 もしかしたら…神なら解けるかもしれぬ〕

「「「…」」」


神…、ゼルファの記憶をよむ内に確かに声だけいたけど…、


「神なんて、どうやって会うんだ?」

「「…」」

〔主〕

「? 何?」

〔我に思い当たる事が…〕

「?」

〔我は神獣…狼神族の末裔です

 神と関わり合った事は無いのですが、狼神族に伝わっていた事があります〕

 

《狼神族は神よりも人間に近い場所に存在する

 故に人間の願いを聞き、神に届けるのが役目

 届ける場所は、人間世界の最も神や我等に近い場所

 それは…、神が最初で最後に作りし神竜が降り立った地》

「…しん、りゅう…、神の竜?」


竜…ドラゴン…、…ゼルファ?


「もしかして、ゼルファが…、神竜…か?」

〔…、我の居た地が、その場所だと?〕

「ゼルファは、その場所に居る前の記憶は無い?」

〔…、分からぬ。気付けばあの地に居た〕

「…とりあえず、手掛かりが手に入った

 ズメイ国があった場所の近くの森が、きっとその場所だ」

「…けど、そもそもズメイ国がどこにあったのか」


確かに…、

ズメイ国はドラゴンによって滅んだ国と歴史書に載ってるだけで地図からは無くなってた


「…そこまで行くのに沢山の魔物がいるだろうし

 それに、きっと国も跨ぐ

 色んな国に入る為に今の俺達には、身分を証明するモノが無い」


…身分を証明するモノ、か


「あのさ、ギルドに登録するってのはどうだ?」

「「ギルド?」」

「登録すれば、色んな国に入れる

 確かSSランクになれば危険エリアも

 名前と実力があれば誰でも登録出来た筈だ

 情報も集めやすいだろうし、体や魔法を鍛えるのにも手っ取り早い

 どうだ?」

「…良いかも」

「蓮、ナイス!」