ドラゴン(7)

翌日

アルさんを含めた私達は、お父様やソルに見守られながら

ドラゴンが居る場所へと移動した


目を開くと、見渡す限り森だ…

アルさんに触れて《テレポート》したけど


「アルさん、ここで合ってますか?」

「はい、大丈夫ですよ。では…、行きましょうか」


アルさんを先頭に森を進んでいくと、少しずつ白い霧で視界が悪くなっていく

今のところ魔物が出てくる気配は無いけど、油断は出来ない

すると


「…ッチ、忌々しい」


アルさんがボソ…と呟く


「? 何か言いましたか?」

「いえ、何も

 僕は、以前に見つけたドラゴンの居た場所に行ってみます

 皆さんは少し辺りを見てもらえますか?」


返事を返す前に、あっという間にアルさんは見えなくなった


〔我が主〕


ラルフが出てくる


〔あの者が向かった方向とは別の方に、気配を感じます〕

「魔物?」

〔いえ、…これは恐らく…〕

「…蓮、紫音、付いてきて」


霧で逸れない様に慎重に進んでいく


〔ここです〕


立ち止まって《サイコメトリー》で周囲を探ると、森の中で少し広い空間だと分かる

そして…


「…何か、ある」


大きな、何かが中心にある

手を伸ばしてソレに触れる

瞬間

霧が一気に晴れ、目の前に現れたのは


《!?》


白い檻の中で眠る…、白いドラゴン

思わず唖然としてると

ドラゴンが目を開けて、私達を見る


〔貴様等、見ぬ顔だな〕


キッと睨みつけられる

するとラルフが元のサイズに


〔…神獣を連れておるのか。上位精霊も宿しておるな〕

〔我は狼神族だ〕

〔ほう〕

〔このお方が、我の主だ〕


ドラゴンが見定める様に私を見つめる

青色の目と、白く輝く鱗

…綺麗


〔神獣を連れてる娘、名は?〕

「栞…です」

〔シオリ …今、何を考えておる〕

「貴方の目と鱗、綺麗だなって…」

〔…綺麗?〕

「あの…、触ってみても、いいですか?」

〔それは出来ん。我はこの檻から指一本も出せぬのだ〕

「なら、私が手を入れてみてもいいですか?」

〔…〕


無言を肯定と受け取り、そっと腕を触る

ヒンヤリしてて、滑らかで…気持ち良い


「あの…、」

「俺達も、触ってもいいですか?」

〔…貴様等の名は?〕

「蓮」

「紫音」

〔レン、シオン…。良かろう〕


蓮と紫音も檻の隙間から手を入れて触る


「お〜」

「綺麗な鱗ですね…」


…そういえば


「ラルフ、何で自分から名乗ったの」

〔このドラゴンは我と同様、神と並ぶモノだからです〕

「「「…」」」


神と並ぶモノ…そんなドラゴンが


「どうして、檻の中に…」


私達はズメイ国を滅ぼしたドラゴンを討伐しにここに来た


「貴方が、昔…、ズメイ国を滅ぼしたドラゴン?」


ドラゴンは目を細め


〔違う

 遥か昔、我を殺めた者の血筋が、再び我を殺めようと呪術で己の国を贄にしたのだ

 我がこうなっているのは

 その呪術を何故止めなかったと神に咎められたからだ〕

「…実際、やろうと思えば止められた?」

〔…、呪術の気配に気付き国に行った時には、彼奴が呪い返しを受けた後だった

 だが、そうでなくとも…、我を殺めた者の血筋である者共など助けるつもりも無かった〕

「…」


もし、今まで自分を殺そうとしてた人に関係する人が死にそうだったとしても

私は…、助けた?


「…、貴方のその気持ちは、少し…、分かる」


ドラゴンと目を合わせる


「私も、今まで何度も殺され掛けた

 だから、貴方の気持ちは…分かるつもり…」

〔…口ではどうとでも言える〕

「なら、私の記憶をよんでみて。貴方なら出来るでしょ?」

 

 

紫音side

姉さんはドラゴンの腕に触れたまま目を瞑る

ドラゴンも、姉さんに意識を集中し始めた


少しの静寂な時間が経った後

姉さんが目を開け、ドラゴンの目を見る


〔貴様等、異界の者か…

 まあそれはよい、…貴様の言葉が真(まこと)だと信じよう〕

「ありがとう」

〔だが貴様等は、何の目的でこの地に…我の前におる〕

「…、ある人から貴方を一緒に討伐する様に頼まれたから」

〔…彼奴、異界から来た貴様等に助力を求めたのか〕

「? 誰か分かるんですか?」

〔我がここに居ると知っておるのは1人しかおらぬ〕

「あの人は、何度もここに?」

〔左様〕


それでも、ここをすぐに見つけれなかったのは


「今私達しか貴方に会ってないのは

 貴方があの人を迷わせて、簡単には来れない様にしてる?」

〔そうだ 檻の中でも多少は力が使えるからのぅ

 だが彼奴ではこの檻は壊せん

 …例え、貴様等でもな〕

「…、あの、貴方の記憶を、見せてもらえない?」

〔…〕

「貴方を、…本当の事を知りたい」


俺達も姉さんに近寄り、肩に触る


「俺達にも教えてくれ」

「お願いします」

〔…、良かろう〕


姉さんがまた目を瞑って《サイコメトリー》を使う

俺達も同様に目を瞑れば、ドラゴンの記憶が流れて込んでくる

 

 

目を開けて、自然と蓮と目が合う

蓮は、戸惑いの表情だ

…きっと、俺もそうなってる

ズメイ国を滅ぼしたのは…、アルさん自身


姉さんがドラゴンと目を合わせる


「貴方をここから出す為には、どうしたらいい?」

〔…〕

「お願い、貴方を助けたい」

〔…、コレは力尽くでは破壊出来ん

 1人でも人間を信じた時、この檻は消えると…神は言っておった

 その時というのは、その者に我の名を告げた時だ〕

「「「…」」」

〔其方達が真を言っておるのは信じるが

 彼奴と繋がりがある以上…、其方等を信じる事は出来ぬ

 直に彼奴がここへ来る

 我の名を知りたくば、其方等が信頼出来る者だと証明してみせよ〕


それは、つまり…


「やっと見つけたぞ!!」


横の森から、アルさんが憎しみの篭る表情で出てきた

檻の側に居る俺達を見ると


「ああ!皆さんも居ましたか!

 さあ!早く殺しましょう!」


アルさんが一歩踏み出すのと同時に

俺達はドラゴンの前に立ち塞がる


「? 何をしてるんですか?

 もしかして、貴方方だけでソイツを殺すと?」

「違う」


姉さんが小さく…でもハッキリと言った

姉さんは一番前に出る


「アルさん、私達はドラゴンの記憶を見ました」

「ソイツの…、記憶を?」

「アルさんの国を滅ぼしたのは彼じゃない、アルさん自身だ」

「…、何だと?」


アルさんの雰囲気が変わる


「国の人々を犠牲にして貴方は彼を殺そうとした

 でも、彼にはそんなのは効かなかった

 貴方が彼を…、神と同等であるドラゴンの事を少しでも知れば

 人間の呪いなんて効かないって分かったかもしれない

 沢山の人々が死ぬ事はなかった

 仮にもし、彼に非があっても…、もう十分償ってる

 途方もない時を、この檻の中で生き続けてるんだから…

 力を奪われ続けたから、彼は弱ってる

 お願い、これ以上…命を奪わないで」


姉さんが必死に訴える

アルさんは首を傾げ


「何言ってんだ?」


一歩一歩、ゆっくりと近付いてくる


「僕がソイツの事を知る? もう十分知ってるよ

 ソイツは、欲をかいたなんて理由で沢山の人を殺したんだ

 僕の友達もね?

 目の前で…、惨い死に方だったよ

 生き残った僕にも不死の呪いを掛けた上に

 僕が発動させた呪術で苦しんでれば…」


アルさんが、纏ってるローブを外すと


「こんな体にっ!こんなに痛くて苦しい思いをしなずに済んだんだっ!!!」

《!?》


皮と骨だけの痩せ細った体…っ

今にでも倒れそうな位だ


〔彼奴は、ある事で不死の呪いを受けた

 そしてもう1つ…

 我に掛けようとした呪術が、自分に返ったのだ

 彼奴は…、生きながらに朽ちる呪いに掛かっておる

 どれだけ死ぬ程の苦痛があろうとも…決して死なん

 …永遠と解放される事の無い、最悪の呪いだ〕

「ああ…でも、唯一お前に感謝する事があったな」


アルさんから黒い霧みたいなのが出てくる


「お前のお陰で、新しい力を手に入れたんだ!」


黒い霧がドンッ!と天にまで伸びる


〔…まずい、逃げろ〕

「どういう事だよ」

〔あれは闇の魔力、…しかもアレは!?〕


すると、黒い霧が俺達の周りを覆い始める


「今まで何度もお前を殺そうとして駄目だったが

 この力さえあれば!

 僕を裏切った君達も一緒に闇に葬ってあげるよっ!!」


上も塞がれた…っ


〔すまぬな…。其方達を巻き込んだ〕

「なっ…、どうにかならねぇのか!?」

「…ねぇ」


姉さんがドラゴンに顔を向ける


「名前を知りたかったら、証明しろって言ったよね?

 今の状況が、証明にならない?」

〔…この状況で、その話をする余裕があるか?〕

「…なら、時間を止める」


姉さんが檻に触れ


「蓮、紫音」


俺達が姉さんの肩に触れると

一瞬で空間が変わる


〔…ここは〕

「私が作った異空間

 ここに居る間、現実世界では時間が進まないの」

〔左様か…〕

「…それで

 貴方の名前は、教えてくれるの?」

〔……、良かろう〕


ドラゴンが少しだけ、笑ってる気がする


〔其方等に、我の名を教えよう〕


すると

檻が光の粒となって消えていく

全部が消えると

ドラゴンはゆっくりと首を上げ、体を起こし始める

徐々に目の前で大きくなっていく体

思ってたよりも遥かに大きい…っ

ドラゴンは完全に起き上がると、翼をバサッ!と大きく広げる

目の前の、存在するだけで圧倒される感覚…っ

羽ばたきと同時に、ドラゴンが白い光で覆われる


〔名を教えるのはいいが…、今の我にはアレを退ける程の力が無い

 この状況をどうする?〕

「それは私が何とかする

 それと…、貴方は自由になった今、帰る所はあるの?」

〔無い 元より、帰る場所など持っておらぬ〕

「そっか…

 あの…、良かったら、私達と来ない?」

〔《!?》〕

「私には治癒能力があるの

 貴方がラルフ達の様に私の中に入れれば、回復が早いと思う」

〔我を、その身に宿すと?〕

「うん」

〔体がどうなるか分からんぞ…〕

「きっと大丈夫。それに…」


姉さんはドラゴンに微笑み


「一緒に来てくれれば、もう…ひとりじゃないよ」

〔…〕

「周りには、こんなにも家族がいるから」


レノ達…精霊も出てくる


〔かぞく?〕

「そう、家族。いつでも…、いつまでも一緒にいる人達の事」


ドラゴンは目を細め


〔…良かろう。行こう、其方達と共に


 我の名は…〕