ドラゴン(8)

傍観者side

アルの作った黒い霧がパンッ!と弾ける


「…っ!?…なっ…!?」


そこには栞達の他に

檻から解放されたドラゴンの姿が


「檻が!? だが…っ好都合だっ!

 今度こそお前を殺してやるっ!!!」


アルが闇の魔力を栞達に放つ


「レノ」

〔はい〕

《ガーディルシールド(守護の盾)》


バチンッ!と魔法が弾ける


「…っ!?何だと!?」

〔貴方の負の感情は絶大ですが

 その闇の魔力では勝ち目はありません〕

「クソッ!クソッ!!…クソッ!!!

 折角のチャンスだったのにっ!

 それをお前がぶち壊したっ!

 …ぐっ!?」


アルが腕を抱え、苦しみ始める


「はぁっ…!はぁっ…!今日のところは見逃してやる…っ

 次会った時はっ…、ドラゴンの前にお前を殺してやるっ!!」


アルは蹌踉めきながら森の中へと姿を消した


〔奴の気配が消えた…〕


栞はドラゴンに体を向ける


〔改めて、感謝する。レン、シオン、そして…、シオリ〕

「おう」

「ああ」

「これからよろしくね  ゼルファ」

〔うむ 其方に、この身を託そう」


ゼルファが光り、小さくなって栞に吸い込まれていく

すると

ドクンッ!


「…っぅ!」


栞は胸を抑えて蹲る


「「栞(姉さん)!」」

〔〔我が主(シオリ様)!〕〕


蓮が栞の肩に触れると

ジュッ!


「熱っ!」

「蓮!?」

「何だ…!?この熱はっ…」

「はぁっ…はぁっ…、ぅあ…っ!」


栞はドサッ…と横たわり、荒い呼吸を繰り返す


「栞!」

「姉さんっ!」


蓮が熱さを無視して栞を抱き抱え

紫音が栞の手を握ると


「何…、これ…」


栞の手や腕にはドラゴンの鱗が


〔…、恐らく、竜化だ〕

「「竜化?」」

〔ゼルファ…、ドラゴンを受け入れようとされ、影響が出てきている

 本来ならばコレで全身を侵食され、生き長らえてもドラゴンの支配化であろう〕

「それって…、つまり…」


蓮が不安気にラルフに問う


〔案ずるな、本来ならばと言っている。我が主なら大丈夫だ〕

「…、ラルフは、何で知ってるの」

〔神獣がそうだからだ

 もし真の主とは違う者と契りを求められ、無理矢理でも体に入らされれば

 体内から食い殺してやる

 ゼルファは我が主に敵意は無い

 消えるまでにどれだけ掛かるかは分からぬが…〕

「どれだけって?」

〔我が主といえど、ドラゴンを身に宿されるのだ

 人間がドラゴンを宿す事事態が、過去に無い事…

 鱗が消えれば、受け入れられたとみてよいだろうが

 恐らくは数日、長くて数ヶ月は掛かるだろう」

「っつう事は…、この状態が、もしかしたら数ヶ月続くって事か?」

〔…〕


ラルフは顔を顰めて俯く

だが

スゥ…と鱗が体内に消えていく


「「〔!?〕」」


熱も下がり、呼吸も安定する


「…、受け入れれた?」

「もう、栞は…、大丈夫なのか?」

〔…、ああ…、問題無い様だ…〕


蓮と紫音は胸を撫で下ろすが、ラルフは驚愕していた


〔(おかしい…。我が主といえど…、この数分で受け入れられたのか…!?

  それに、共有される筈の熱や苦痛が全く来なかった…

  …レノ)〕

〔(…ああ。私にもシオリ様が苦痛に耐えている事は伝わってきたが

  感覚としては何も来なかった…)〕

〔(…では、我が主はやはり…)〕

〔(ああ。私達が苦痛等を受けぬ様に、魂に何か細工をされた様だ

  情報だけが、伝わる様に…)〕

〔(…、誠に、お優しいお方だ)〕

〔(そうだな。誠に…、私達が仕えるに相応しいお方だ)〕

 

 

蓮side

栞を抱き上げ


「栞が落ち着いたし、帰るか」

「そうだね。…、どうやって?」

「…あ」


栞が意識を失ってる今、ジュノまで帰る手段が無ぇ


「ラルフは《テレポート》使えないのか?」

〔無理だ〕


レノやフェニア、ジルもムリ


「栞が目ぇ覚めるまで待つか?」

「それしか無いよねぇ…」

〔お主等、自国まで帰る手段が無いのか?〕

「「!?」」


栞からゼルファの声が


「おま…っ、意識あんのかよ!?」

〔我は回復の眠りに就こうとしておったわ

 だがお主等が騒がしくて眠りに眠れん〕

「ご、…ゴメン」

〔それで?自国への帰る手段が無いと?〕

「ああ、ここには栞の《テレポート》で来たんだ

 だから…」

〔左様か。ならば、我が連れてってやろう〕

「「…、は?」」


いやいや待て


「お前、力が弱まってんだよな?」

〔確かに今の我は弱っておる

 だが、お主等と国に帰る位の力はある」


瞬間

俺達は白い光に包まれ

目を開ければ、見知った部屋が


こうして、皆無事にジュノ国へ帰ってきた

 

 

目を開ければ

視界には、見慣れた自室の天井が


「…、帰ってきてる?」

「栞」


声の方を向けば、蓮が


「姉さん」


反対側には紫音が

それぞれの肩にフェニアとジルが


〔お目覚めになりましたか!〕

〔我が主!〕


顔の横に子犬サイズのラルフ

紫音の隣にレノが

皆がいる


「…何日、経った?」

「ゼルファと会ったのが昨日、今は夜だ」

「…、どうやって帰ってこれたの?」

〔我だ〕


蓮の後ろからもう1人

そこには…


「……、え」


白色の髪に青色の目、頭に2本のツノが


「…、まさか、ゼルファ?」


ゼルファがニッと口角を上げれば牙が


〔左様だ〕

「…」


まだ1日しか経ってないのに


「…、もう回復したの?」

〔うむ〕


蓮が溜息を吐き


「あの後、少しだけ力があったゼルファがここまで皆を《テレポート》したんだ

 数時間後には回復して、お前の中から出てこようとしたけど

 ここであの姿はマズイって事で人型になってもらったんだ」

〔ほれ、尻尾もあるぞ?〕


ゼルファの後ろで尻尾がフリフリと動いてる


〔出し入れ可能だ、翼もな〕

「そうなんだ…」


…っていうか


「回復するの、早くない?」

〔それは我も想定外だ〕


ゼルファが真面目な表情に


〔人間がドラゴンを宿すなど、過去にも無い事

 故にお主の身に何が起こるか、我も分からなかった…

 だが、お主は一時的な痛みと意識を失っただけで済み

 我もこんなに早くに回復した〕

「…」

〔シオリ、今はどこにも痛みは無いのか?〕

「何も…」

〔そうか…

 まあ我も回復し、お主も無事に目覚めた

 今はソレを喜ぼうぞ〕

「…うん」

「問題は、アイツだね」


紫音が顔を顰める


「アル、アイツはゼルファを殺そうとしてるけど

 最後に言ってた…

 ゼルファの前に姉さんを殺すって」


紫音と目が合う


「姉さんが狙われてる」

「大丈夫」

「え?」

「私には皆がいるから」


レノがニコッと微笑む


〔そうですね

 我々のお互いを信じる気持ち、何があろうと諦めない気持ちがあれば

 光は消えません

 皆がいるからこそ、闇に打ち勝てるのです〕


その時

バンッ!と扉が開き


「シオリ!目覚めたか!」

「シオリ様!」

「お父様、ソル…」

「目覚めて良かった!おかえり、シオリ」

「おかえりなさい、シオリ様」

「ただいま」

「さて!皆が無事に戻った!新しい家族も増えた!

 祝おう!」


お父様とソルがご機嫌に部屋を出て行く


〔シオリ〕

「ん?」

〔我を受け入れた事により、お主に少しだけドラゴンの鱗がある〕

「え、…どこに?」

〔手首だ〕


見ると片方の手首に白い鱗が1周回ってる

月の光で綺麗に光ってる

ジ〜ッと眺めてると


〔…、すまぬ…。女(おなご)には酷なモノであったか…〕

「ううん、綺麗だなぁって」

〔…そうか〕


ゼルファはホッと安心した表情を見せ


〔それと、2人にも〕


ゼルファの手には、ドラゴンの牙が


「俺達にも?」

「いいのか?」

〔うむ 家族になった証だ

 身に付け方は好きにせよ

 それに応じて、コレも変化する〕


蓮が胸に近づけると、牙から銀色の糸が出て首に掛かる

紫音が指に近付けると、牙の形が崩れて指輪に


「「ありがとう」」


ゼルファはニカッと微笑む


〔うむ! そしてな、ソレを身に付けておれば大抵の動物の心が分かる!〕

「?」

「心って…?」

〔つまり、動物の思いが分かるのだ!言葉が理解出来ると言っても良い!〕

「!?マジか!?」

〔…まじか、とは?」

「本当に?って聞いてるんだよ」

〔ほう!では!…、マジだ!〕


…ゼルファと蓮達のやりとりを見てる間、ずっと気になってる事が


「…っていうか、ゼルファ…。何でそんなにテンション高いの…」

〔む!?てんしょんとは何だ!?」

「…、何でそんなに気分が高揚してるのって事」

「栞、気分じゃねぇんだ。これがコイツの元々の素らしい」


蓮によると

檻に閉じ込められるまでは、動物が側にいるだけでマトモな話し相手がおらず

人間なんかに砕けた口調も使う筈も無く…

私達は家族になったから、今まで我慢してた素の自分を解放しようって事らしい


〔ああ!ついでに言っておくと、シオリは我の力が使える様になっておる!〕

《…え?》

〔我を体に受け入れたのだ!それ位の恩恵はあるぞ!〕

《………》

〔よし!祝いの席へ招かれるとしよう!〕


こうして、ドラゴンのゼルファが新たな家族になった