3…体、心の傷(1)

大学から帰り、楼の部屋を通り掛かると


「鷹」


小さく、ハッキリと呼ばれる


「…すぐに」


蓮が少しだけ険しい表情に

 

部屋に入り、鷹の装束を纏う

蓮は険しい表情のまま

だから、微笑んで


「行ってきます」

「…ああ」


仕事とかで蓮と離れる時は必ず、挨拶をする

日常生活で当たり前の行為だけど

言葉に出す事で、相手に…自分自身に必ず帰ってくると誓う

《行ってきます》と言ったなら《ただいま》と言う為に帰ってこないといけない

何よりも…《おかえり》と言った時の、貴方の笑顔が見たいから

 

 

仕事を終え、部屋の明かりが付いてるのを視認する

襖を開ければ駆け寄ってきて


「怪我してねぇだろうな?」

「大丈夫」


そして


「おかえり」

「ただいま」

 

この当たり前の挨拶が、幸せを感じる大切なモノ

 


蓮side

栞が仕事から帰ってきて


「おかえり」

「ただいま」


この当たり前の挨拶で、栞が帰ってきたと実感する

でも、俺の中には不安な気持ちがどうしても残る

いつかとんでもない怪我をするんじゃねぇかって、何か抱え込んでねぇかって…

ソレを掻き消したい、栞が無事に俺の側に帰ってきたって…もっと実感してぇ


言葉だけじゃ、全然足りねぇんだ

 

「栞」

「ん?」


栞が見上げると同時に唇を塞ぎ、舌を入れる


「ん…、んぅ…」


熱のある息遣いと声、それだけで理性は無くなってく

暫くして唇を離すと、銀色の糸がプツ…と切れる


「はぁ…はぁ…」

「栞」


栞は息切れしながらフワッと微笑む

…ヤベェ

気づけば、栞の首元に唇を寄せていた


「いっ…」


顔を上げれば、そこには赤い華が

栞は肌が白いから、かなり目立つ


「…」


ふと…栞の頰に手を添え、前に大怪我したとこをなぞる

傷は消えてるが、きっと…心には残ってる


大学に入る時、親父の選んだ奴を付き人にすると言われた

でも、栞とは離れたくねぇ

栞を1人にして、もう…あんな目には合わせたくねぇんだ