10…治療

蓮side

栞の部屋に入ると

栞は上半身だけ起き上がり、苦痛の表情で紫音に凭れてる

幻覚と幻聴が無いだけで、まだ傷は癒えてないし痛みもある筈だ

その証拠に、栞の体にはパリッと赤い電流が不規則に走る

俺は栞の手をそっと握り、側に寄り添う


俺と紫音が血塗れの服を替えて部屋に戻った時、既に兄貴が居た

栞も一時的に目覚め、これから話すとこだった


『栞、分かってると思うが…

 アイツに打たれた薬の所為で脳に異常が起こって、力が暴走してる』

『…うん』

『薬は新薬で、作った奴は既にこの世にいねぇ

 しかもお前に打って、生成したのは無くなったらしい

 アイツ等の所持品、家も含めて探したが、それらしい物は見つからなかった

 だから、お前が分析して治療するしかねぇんだ』

『…ん、分かった』


それから栞は痛みに耐えながら考えてる

どうか、治療法が見つかってくれと祈るばかりだ

すると


「紫音、蓮」


栞はゆっくりと目を開け


「思いついた」


栞は僅かに微笑んでるが、目には悲しみの色がある


「これ以外、考えつかない」


どんな方法でも、それで助かるならと頷く

だけど、その答えは

俺達にとって、あまりにも残酷だった

 

 

酒向side

翌日、収集を掛けられた

向かったのは昨日と同じ栞さんの部屋

栞さんは紫音君に支えられて、上半身だけ起き上がってる

未だに辛い表情で、目を瞑って苦痛に耐えてる

蓮様は紫音君の反対側に座り

全員が集まったのを栞さんに伝えると

栞さんは目を瞑りながらもコク…と頷く


「栞は喋るのも難しい、だから俺が代わりに話す

 結論から言えば、治療法が思い付いたそうだ」


一同がワッと喜びを露わにする

俺も膝の上で拳をギュッと握り、自然と笑みが溢れる

でも、改めて栞さんや蓮様、紫音君の表情を見ると浮かない表情だ

…どういう事だ?


「それで、どう治療するんだ?」


若が聞けば、一同が一気に静まり返る


「…、栞によれば、これ以上の治療法が思いつかないそうだ

 今から言うのが、一番良い方法だ」


まるで

どんな方法だとしても、それで納得しろと言われている様だ


「薬の影響でいつ、力がどんな暴走をするか分からない

 かつ、薬の分析もある

 暴走を抑えるのと薬の分析

 それを確実にやる為に、それ以外の体の機能を最低限に抑える

 つまり当分は寝たきり、…悪く言えば昏睡状態になる」

「「「…」」」


誰もが言葉を発せれない状況の中


「分かった」


最初に頷いたのは頭


「栞の好きなのを沢山作って待ってるわね」


ニコッと笑顔の姐さん


「組の仕事は俺に任せろ」


頼もしい表情の若


「ちょっ、ちょっと待って下さい!?」


組員の1人が慌てる


「何で誰も止めねぇんですか!?

 どうしてそんな簡単に納得してんですか!?

 酒向も!!何で何も言わねぇ!?」

「…」


栞さんは苦痛に耐えながら、生きようと踠いてる


「言われたろ、一番良い方法だと

 栞さんがそう言うんなら、それ以上の方法は無い

 確かに待ってる側にとっては辛いが、目覚めないとは言ってない

 栞さんは俺等を悲しませる事は決してしない

 必ず、完治して戻ってくる

 それを分かってるから、皆…納得してるんだ」


どれだけ待つか分からないが、栞さんは絶対に目覚める

信じてるから、不安は無い


「ちゃんと治して戻ってきてもらえれば、何も言いません」


栞さんが明日、喋れる様にまで回復して皆に挨拶したいとの事で、今日は解散

俺はその夜、若を訪ねた


「若、ご相談したい事が」

「何だ」

「鷹の事で、考えていたんですが…」

 

 

紫音side

翌日

また全員が姉さんの部屋に集まる

姉さんは目を開けて、皆の顔を一通り見渡し

力無く微笑み


「皆、またね」


全員が頷き返すのを見て、姉さんを寝かせる

姉さんが目を瞑ると、体を淡い赤い光が包み込む


治療が始まった

 

 

酒向side

栞さんが眠りについてから数日

毎日と言ってもいい位に、皆が様子を見に行ってる

俺も組の仕事が終わったら、話をしに行ってる


今日は、若や頭に相談して決定した事を伝えに来た


「栞さん、詳しい事は目覚めてから言いますが

 もう、桜井組に鷹は必要ありません

 決まってる事なんで、文句は聞きませんからね」


立ち上がり、襖を開けて廊下に出れば


「酒向」


横に向けば、柱に凭れてる蓮様と並んで立ってる紫音君


「蓮様…」

「今のは、本当に決まってる事なのか?」

「はい」

「なら紫音も、…蒼鷹は必要無ぇのか?」

「はい、勿論です」


紫音君に目を合わせ


「蒼鷹」

「はい」

「今夜にでも若に呼ばれるだろう」

「…はい」


その夜、正式に紫音君…蒼鷹が組から抜けた