41…動け

紫音side

俺は今、桜井組の蓮の部屋にいる

あれから何日経ったんだろ

あの時と同じ、目の前で…姉さんを失った

姉さんを護る為に、今までやってきたのにっ

でも、いざ奴等を前にして…手も足も出なかった

一番酷いのは蓮だ

皮肉にも、あの女が姉さんの記憶を戻した

それでもやっと姉さんが…姉さんとして蓮と再会出来たのに

あの時と同じ、蓮は手を伸ばしたけど…届かなかった

今は姉さんが護衛の時にいつも座ってたらしいとこに、ずっと…俯いてる

状況を聞いて、朔と春也も来てくれてる


そんな空気の中


「おい、飯だ」


部屋に和士さんと楼さん

後ろには今井と…お握りが沢山あるおぼんを持った奈緒さんと美弥まで


「腹が減ってなくても、詰め込んどけ」

「…要りません」

「要るか要らないかじゃねぇ、入れろ」

「この状況で、食べれる訳ないじゃないですかっ!」


ガンッと机を叩く

お握りと一緒に置いてあるお茶が溢れそうだったが

そんなのはどうでもいい


「何で、何でそんな平然としてられるんですか!?」


和士さんは溜息を吐く、楼さんは俺達を見下ろし


「なら聞くが、慌てたところでどうなる?状況は何も変わらねぇ。」

「どうしろって言うんですか」

「紫音。お前は酒向に言われ続けてきた言葉があるだろ」

「え…」

「稽古をつける度、言ってる事があったろ」

「…」


『どんな不利な状況でも、冷静に判断する』


「冷静に、判断」

「そうだ」

「でも、何を判断しろって言うんですか」

「ヒントをやる…がその前に」


楼さんが蓮に近づき

グッと胸ぐらを掴み上げ、殴り飛ばす


「ぐっ…!」


蓮が吹っ飛ぶ


「何すんだっ!」

「お前こそ何してる、いつまでそうしてるつもりだ」

「…っ」

「あの時と同じ様に…目の前でいなくなって、手が届かなくて悔しいか?」

「っ誓ったんだっ!俺は!アイツに!俺自身に!!今度はぜってぇに離さねぇって!

    俺が護るって!

    なのに俺はっ!何も出来なかったっ…やっと会えたってのに…!」

「悔しいのは分かる。だが、いつまでもウジウジしてんな。

    そんな暇があれば行動しろ、動け!

    やっと想いが届いたんだろ。

    自分の女くらい、自分で取り返せ」

「でも、どうやって…」

「それがさっきのヒントだ。あの女がマスターと呼んでた男…名前は?」


確か…


「鴉間…」

「鴉間ってのはな、表向きは国内外に会社を展開してる…大手企業グループのトップだ

    裏ではな、邪魔な奴はどんな手を使っても潰す…薬や暴行、何でもな

    デカい暴力団とも繋がってる」


そんなとこに栞は


「俺等で、どうにか出来んのかよ」

「桜井組の力、舐めんなよ?親父にも協力を仰いだ、直に情報が来る」

「若」


酒向が入ってきた


「大神組が、奴等が裏にいる龍田組と敵対関係にあり、抗争をするそうです」

「可能性は」

「内通者によると、人形に行かせると話があったそうです。可能性は高いかと」

「その抗争は」

「1週間後です」

「聞いたかお前等、その抗争で栞が現れる可能性が高い。取り戻すぞ

    腹が減っては戦は出来ぬだ、食べとけ!これから1週間、みっちりシゴいてやる」

 

 

 

「そういえば、内通者なんていたのかよ」

「ん?ああ」

「だいぶ前からソイツ、奴等ん中に居るんだろ?

    よく気付かれねぇな」

「ああ、そりゃあバレねぇよ」

「?  何で」

「見た目が人間じゃねぇからだ」

「………は?」

「栞が退院して組に入った後、酒向以外にもう一人信頼出来る奴がいてな

    ソイツに栞が2つの力を使える様に仕込んだんだ」

「2つの力?」

「《メタモルフォシス》動物への変身の力と《リプレイス》他の動物への憑依の力だ」

「…そんな力もあったんだな」

「動物なら警戒しない。良いアイデアだろ?」

「だな」