37…栞(1)

明るくなってから、楼さんと和士さんに会いに行った

蓮が姉さんに気づいたのを話すと


「そうか、バレたか」


2人とも嬉しい様な悲しそうな表情だ


「兄貴と和士さんは、何を知ってんだ」

「俺も紫音と同じ位しか知らねぇ。俺は会える様になった栞しか知らねぇからな」

「会える様になった?」

「俺が話す」


和士さんが、誰にも話さなかった姉さんの事を話してくれた


「俺が栞を見つけたのは、今から2年位前の冬だ。

    栞は寒い中、1枚の服で裸足でフラフラ歩いてた。

    6歳までの記憶しか無かったからな、最初は栞だって気づかなかった

    でも、行き着いた場所と呟いてた言葉で気づいたよ

    『紫音』って言いながら、あの家の前まで歩いてたんだ」

「!…っ姉さん…!」

「でもそれだけで、栞だと?紫音なんて名前、いくらでもいるだろ。

    家も偶々倒れただけかもしれなかったのに」

「俺も思った。けど、話し掛けた時、警戒されて殺気を向けられた

    そん時だ、左目にペンタクルが浮かんでた。

    それからは必死に和士だって訴えかけたよ、漸く分かって

    『和…士?』

    それだけ言って、意識を失ったんだ」

「家の前で倒れたんなら、何で俺達にすぐ知らせてくれなかった」

「そうだぜ和士さん」

「悪かった。早く病院に連れて行きたかったから、でもその後に連絡したろ?」

「…」

「待って下さい」

「楼さんには連絡して、何で俺等には何も言ってくれなかったんですか」

「最初は検査後、面会出来る様になったら知らせるつもりだった

    だが、1つ問題があった」

「問題?」


和士さんは蓮を見て


「栞には蓮の記憶が無かった」


ーー

栞を見つけた後、病院で色々と検査をしてる間に楼にだけ連絡した

電話を切って病室に入る


「和士」

「お疲れさん。検査で問題無かったら面会出来る様になるから、来るぞ」

「…?誰が?」

 

 

数日後、和士と話してるとバタバタと廊下から足音


「病院内では走らないで下さい!」


看護師さんに怒られてる

ガラッと扉が開き


「栞!」

 


入ってきたのは背丈が大きくて、息を切らして汗だくの男の人


「…誰」

「覚えてないか?」

「…」

「楼、栞は6歳までの記憶しか無ぇんだ。覚えてねぇのも無理ねぇよ」

「そうか。俺は桜井楼、お前の幼馴染だ。」


桜井楼、幼馴染…


「桜井楼……楼……あ、楼…君」


『楼君!一緒に遊ぼ!』


思い…出した


「久し振りに聞いたな、その呼び方。」

「楼…君…楼君っ」


思わずベッドから降り、楼に抱きついた


「おかえり、栞」


楼はギュッと抱き締めて頭を撫でてくれた

 

ベッドに戻り、今後の事を考える


「栞」

「ん?」

「今まで、何処に居た?何してたんだ?」

「…」

「言いたくなきゃ、言わなくていい」

「一人で…」

「ん?」

「一人で、何も無い部屋に…居た」

「…」

「一人で…」


膝に顔を埋める

恐怖によって体が震え出すのを堪える

すると、頭に暖かい手が乗る

少しだけ顔を上げ横を見ると、楼が頭を撫でてくれている


「寂しかったな。でも、もう一人じゃない。これからは俺達がいる」

「…」


あんな事をしてきた私が、この二人の側にいていいのか

いや、駄目だ

私は、誰にも関わらない…関わっちゃいけない人間なんだ


「ごめん。二人とは一緒にいれない」

「?  何でだ?」

「…私は今まで、許されない事を沢山してきた」

「許されない事?」

「…」

「栞?」


和士が手を握る


「一体、何をしたんだ」


…言えない、言える訳ない


「栞、言えないなら…直接イメージ送れ」


そっか

楼と和士は、私の力を知ってるんだった

なら…


「楼も、手、握って」


楼と和士に私の手を握ってもらう


「…いくよ?」

「「おう」」


《テレパシー》で、私がしてきた事を伝える


一人で過ごす部屋と、私の目の前で血を流し倒れてく人々

伝え終わる頃、二人の目には戸惑いの色が


「ね、分かったでしょ」

「「…」」

「私は…生きてちゃいけない人間なの。だからね?」


ここからは、目を見られない


「お願いだから、死なせて」

「「!?」」

「死なせて…」

「な、何を…言ってる」

「楼、和士、…私、生きてるのが辛い。

    知ったでしょ?私が何をしてきたのか

    何の罪も無い人達を…っ、奴等に言われるがままに、だからお願いっ!

    死なせて!私を殺し「バシッ!」」

「楼!?」

「…ざけんな」

「ろ…う?」

「っざけんじゃねぇぞ!!!」


楼の声が病室に響く


「確かに、お前のやってきた事は、人として許されねぇ事だ。

    辛いのは分かる、苦しみも悲しみもな…。

    覚えてるか?

    俺んちはな、極道だ。そして俺は桜井組の頭だ

    極道やってると、汚い事も知ってるし…やった事もある。

    だから、お前の気持ちは分かる

    けどな、過去の過ちを悔いて自分も死ぬ…それはな、甘えだ

    悔いる事に、償う事に逃げようとしてるだけだ」

「お、おい楼」

「和士は黙ってろ。なぁ…栞」


楼は私の手を強く握る


「死にたいって考えるよりも、辛くても…苦しくても…生きる事が償いになる

    お前が奪ってきた命の分まで、お前が生きていくんだ

    まだ生きたかった人達の想いを背負って、生きろ

    死ぬなんて考えるな…生きようと足掻け、もがけ。

    精一杯…生きろ」