21…蒼鷹(2)

酒向side

とうとう始まった

意識を失った紫音君が栞さんに覆い被さる前に支える


「頑張って」


紫音君を横にし、近くで見守る


「栞、本当に良かったのか?」


若が栞さんに、何度も聞いてきた質問を再度尋ねる

そう

この試練は楼さんが組長として、いや…幼馴染として発案した事

コレが思い通りに終わったら、紫音君は《蒼鷹》として桜井組に入る

最後の試練…それは本当にこちらの…《極道の世界》へ入るかどうかを自分で決める試練

今まで俺が教えてきたのは、極道の喧嘩と知識

それだけなら紫音君は、もう問題無い

けど、この世界はそれだけでは生きていけない

 

残る課題は、精神面だ

どんな状況に追い込まれても、桜井組や栞さんの情報は死守する

 

例え、死ぬ事になってもだ

 

少しでも情報が渡れば、一気に形勢が変わる

それだけ、情報漏洩は危険なんだ

 

紫音君は、蒼鷹として栞さん…鷹嬢の傍にいる事になる

だからこそ、この試練を乗り越え、正式に桜井組に入る

若が良かったのかと栞さんに聞いたのは、

紫音君をこの世界に入れるのをずっと躊躇ってたから

これが終われば、もう組に入るのは決定してる

試練を受ける前だったら、いくらでもチャンスはあった

だけど、栞さんは紫音君を組に…蒼鷹として自分の側にいさせるのを受け入れた

栞さんも自分で決めた


「紫音が望んだ事。それに、言ってくれた

    私を護るって、もう…離れないって。私も、同じだから…」

「同じ?」

「私も、もう紫音と離れたくない。紫音を一人にさせたくないの

    前に、紫音が影になるって言った時、止めたけど…ホントは少し嬉しかったんだ。

    どんな時でも、紫音と離れなくていいんだって」


栞さんは泣きそうな嬉しそうな表情で紫音君を見る


「この試練は、弱い自分と見つめ合う様なモノ。

    自分自身の事は自分で決めるモノ、他人がどうこうしていい筈が無い

    紫音が進むと言うなら、私は何も言わない」


栞さんの鷹として、姉としての覚悟を見せられた

そして俺は、栞さんにまた…魅せられた


どれ位の時間が経ったか

紫音君が目覚め、バッと起き上がる


「…今のは、夢?」

「夢じゃないよ」


栞さんが紫音君の側へ


「ゴメンね」


紫音君は一瞬戸惑いの目で栞さんを見た

でも目を閉じ、開ければ…答えを見つけた目だ


「…姉さん」

「ん?」

「姉さん、楼さん、酒向さんも…」


紫音君は俺が教えたやり方で、首(こうべ)を垂れる


「試練を与えて下さり、ありがとうございました。

    まだまだ未熟ではありますが、

    姉共々、桜井組の影として務めを果たさして頂きます。

    宜しくお願い致します。」


栞さんが言ってた通り

紫音君が決めたなら、何も言わない


「桜井組組長、桜井楼としてお前を正式に組に入るのを認める

    これから宜しくな、紫音…いや、蒼鷹」

「はい!」


紫音君が、自ら選んだ道だ