15…影になる為に

酒向さんとの稽古は、毎日する事にした

2人が心配したけど、早く力を付けたいから

稽古場が姉さんが作るって言ってたけど、どういう事なのか

とりあえず稽古は学校から帰ってきてからだから、昼間はいつも通り

 

あれから、蓮とは会ってない

倉庫にも行かないのは朔に言ってある、朔なら理由を聞かない


学校から帰り、迎えた稽古の時間

酒向さんが家に来てくれる


「こんばんわ」

「こんばんわ、お邪魔します」


リビングにいる姉さん

酒向さんが入ってくると


「今日からよろしくね」

「はい、しっかりやらせて頂きます」

「じゃ、2人共…私の前に」


姉さんは俺等の肩を触る

左目にペンタクルが


「前と同じでいい?」

「はい」


肩から手を離したら今度は胸の前に手を翳す


「目瞑って」


周りに風が舞う


「じゃ、頑張って」


「目を開けていいですよ」


酒向さんの言葉で目を開けると


「!?」


さっきまでリビングにいたのに、道場にいる

服も道着に変わってる

触っても、道着だ

辺りを見渡すと、窓は一切無く入口も無い、床や壁も本物みたいだ


「はははっ、初めての時の俺と同じ反応ですね。まあ誰でもそうなりますよね〜」

「あの、酒向さん」

「はい」

「俺には敬語を使わなくて結構です、教えてもらう側ですし」

「そうですか、なら…遠慮なく」

「…ここには何度も?」

「これが2回目だよ」

「じゃあ、さっき姉さんが前と同じって言ってたのは」

「栞さんに初めて会った時に、能力を見せてもらうついでに手合わせをね」

「手合わせ?」

「そ、とりあえず話は後で。始めようか」

「お願いします」


こうして稽古が始まった


手合わせして数分、早くも息が上がる

今まで白狐として何度か殴り合いをしてきたけど、レベルが違い過ぎる

躱し方や相手の攻撃を逆に利用するとか、今までに無い体の動かし方

しかも、酒向さんは息が上がってない

最小限の動きで余計な力を使わない


手合わせが終わると、俺は力尽きて仰向けに倒れる


「はぁっはぁっはぁ…」

「初の手合わせ、お疲れ様」

「あ、ありが…とう、ござい…まし…た」

「息切れしてるね〜。これから鍛錬してけば、この程度じゃ平気になるよ」

「そ、そうッスか」

「さて、栞さんに解いてもらうか。紫音君、目を瞑って」


ここに来る前と同じ様に風が舞う

目を開ければ


「お疲れ様」


俺はリビングの床で、倒れたまま

視線を横に向ければ、姉さんが


「どうだった?」

「…全然、ダメだった」

「そう。汗かいてるでしょ、お風呂沸いてるから」

「ありがと」

「春、夕飯用意してあるから食べてって」

「ありがとうございます」


風呂に入るとジンジンと痛む体


「あ〜こりゃ…」


明日には至る所に青痣が出来てるだろうな


「先は長〜な…」

 

 

紫音が風呂に入ってる間、手合わせの事を聞く


「春、紫音…どう?」

「1回目でしたが、筋は良いです。

    覚えも良さそうですし、体力も次第に付きます」

「そう。春が言うなら、問題無いね」

「栞さん…いや鷹」

「何」

「若や鷹が良いと言われたので、自分は何も言いません。

   ですが、彼…蒼鷹はこれから、どう動くんですか」

「…」

「鷹のサポートは自分です。蒼鷹は何を…」

「蒼鷹はまだ力が無い…雛だ。

    雛である内は、本人がどう言おうが首を突っ込ませない。

    こちらの世界に本当に入るまで、蒼鷹とも呼ぶつもりは無い」

「彼が納得するとは思えませんね」

「納得させるなんて、はなから考えてない。

    話さなければいい話だ。

    楼も分かってる

    今のアイツには必要以上には関わらせない

    俺等の世界は甘い考えを持ってれば、すぐに死ぬ。

    弱肉強食…弱ければ死に強ければ生きる

    ただ、それだけだ

    ……そんな世界に、…っ紫音だけは、入れたくなかったのに…っ」

「…」

「悪い、もう休む。夕飯は紫音と食べて」

「はい、おやすみなさい」