37…栞(2)

和士side

楼が死にたいと言う栞の頰を叩き、怒りをぶつけた

栞から送られてきたイメージは、目を背けたくなる様なモノだった

死にたいと思うのも分かる

けど、それを楼が許さなかった

自分の過ちを悔いて死んで楽になるのは、確かに逃げる事なのかもしれない

でも俺達は、それでも栞に生きてほしい

辛くても…苦しくても、栞はもう…一人じゃないんだ


「栞」

「…」


栞が恐る恐るといった感じで楼に顔を向けるが、目は合わせない


「栞、言っただろ?これからは俺達がいるって、お前一人で抱え込む必要は無ぇんだ

    だからな?俺に案がある

    お前、俺の組に入らねぇか?」

「「!?」」

「…は?……はぁ!?何言ってんだよ楼!」

「和士、煩ぇ」

「煩くねぇよ!何でそうなるんだよ!?」

「組に入れば、悪さしてる奴を叩きのめせるぞ?良い結果だと更生させられるし

    お前の償いは、生きる事と人の役に立つ事だ」

「…それ、お前の組にしか役に立たねぇよな?」

「あ?悪さしてる奴を無くして、良ければ良い奴に変えてくんだぞ?

    世の中の役に立つじゃねぇか」

「……でも、組に栞を入れるのか?」

「…。栞、どうだ?」

「…」

 

 

生きる事で、役に立つ事で償える

きっと、この機会を逃したら…私は…


「楼の組に入るのはいい。…けど、条件」

「何だ?」

「私の存在は、組員には知らせないでほしい。

    動くのは、楼の言葉だけ

    楼の命令しか、聞かない」

「分かった。なら、影で動ける様にしとく

    だが、サポートが必要だ」

「そんなの要らな「これは絶対だ」」

「…」

「信用出来る奴を何人か候補に上げる。

    お前が良いと思えた奴を、サポートにする

    いいな?」

「……ん」

「よし、ならこの話は終いだ。

    ところで栞、紫音と蓮にはいつ会う?退院後でいいか?」

「……紫音は会いたいけど、蓮って…誰?」

「?  誰って、蓮を覚えてねぇのか?」

「蓮…、誰?」

「紫音は分かるのか?」

「当たり前でしょ?弟なんだから」

「…」

「栞、もう1回検査受けよう」

「和士?何で?」

「いいから」

 

 

楼side

栞が蓮を覚えてない

最初は、久し振りに聞いた名前だから忘れてるだけかと思ったが

違った

検査の結果、記憶喪失だと判明した

しかも、蓮の事だけだ

医者は、何かキッカケがあれば、ふと思い出す可能性があると

まあ、徐々に思い出せればいいか

でも…


「あと数日で退院出来るみたいだ」

「うん。そういえば、退院した後はどこに行けばいいかな?」

「?  あの家に戻ればいいんじゃねぇか?」

「あそこには紫音が居るでしょ?」

「それがどうした?」

「私、奴等から逃げてきたの。もし見つかれば紫音が危ない

    だから、あの家には戻れない」

「なら、俺が手配しとく」

「楼?」

「俺が手配して、お前の力でカモフラージュすれば問題無ぇだろ」

「じゃあお願いしようかな」

「おう」

「じゃあ、紫音には会わないのか?」

「…うん。会いたいけど、今は会えない。だから、絶対に私の事は言わないで」

「おう」

「分かった」

「それと楼」

「ん?」

「組の事をやる時は、何て呼べばいい?桜井さん?」

「そうだな、それがいいか。でも…それ以外の時は、楼でいい」

「分かった」


あっという間に時間は過ぎ、栞が疲れて寝た後、俺と和士は帰路に着く


「和士」

「何だ?」

「栞の事は、蓮は勿論…紫音にも言うな」

「紫音にもか…辛いな」

「だが、これが一番安全だ。アイツ等が傷付かない為に…」

「そうだな」

「退院日までに家はなんとかしとく

    お前にも色々としてもらうからな、頼むぞ」

「おう、任せとけ」


ーー


「お前等も必死に探してたのは分かってた…けど、

    自分を忘れてる栞に会っても辛いだけだろ?」

「…」

「紫音にも、蓮に情報が漏れるのを考えたから教えなかった」

「…」

「態度が変わらず冷たかったのは、自分に関わらせない為か?」

「そうだ。栞は今も追われてる。蓮、お前を狙う奴等がそうだ」

「…なっ…」

「旅行先で乱闘して、体の傷を見られた時に一瞬動揺した

    その一瞬で、奴等に感づかれた」

「…栞を誘拐した奴等は、普通の人間じゃねぇって事か」

「いや、普通の人間だ」

「……だったら何で、栞に俺を」

「それが、栞の誘拐目的だったんだ」

「どういう事だよ」

「栞の特殊な力を、自分等のモノにしようと企んだんだ。」

「「!?」」

「現に栞と同じ能力を一部持ってる奴がいると情報がある」

「だから、栞が対処しなきゃいけなかったのか」

「そして、蓮…お前だけの記憶が無いのは、意図的かもしれないと分かった」

「!?何で、俺の事だけ」

「…だから、紫音にも黙っておく様、頼んだんだ。お前が辛くなるだけだからな」

「そう、だったのか」

「ごめん、蓮」

「いや…」

「蓮、お前が栞に気づいたから話したが…。お前を狙う奴はまだいる

    今までの話で分かったと思うが、奴等は栞じゃなきゃ対処出来ねぇ」

「!?」


蓮は目を見開く


「また、栞にあんな事させるってのか…!?」

「情けねぇ話だが…栞以外に、お前を護れるとは思えねぇ」

「だけどっ…」

「栞は今、記憶が無い。

    だが、自分以外の誰かが…お前が傷つけば力を暴走させる可能性がある

    栞を護る為に、今は堪えろ」

「…ネックレスは?」

「紫音?」

「俺は姉さんから貰ったネックレスのお蔭で、狙われずに済んでる。

    蓮にも、同じ効果がある物があれば、姉さんが危険な目に合わなくても済むだろ?」

「お前のソレ(ネックレス)は、そういう事だったのか」

「そうだな、栞が目覚めたら話そう」

「なあ…栞の力の中に、治癒能力もあったよな?

    なのに、何で今あんな状態になってんだ?」

「あ…」

「紫音?」

「何でもない」

「それは分からねぇ。力を使う前に倒れただけかもしれねぇし」

「とにかく、栞が目覚めてからだ」