7…独占欲

夕方

今日の仕事が終わり、俺と栞は自室に戻ろうと動き

栞が扉を開ける時


「栞」

「はい」

「明日は最初から婚約者になってもらうよ」

「!?…っ」

「分かりました、では」


栞は即答し、先に部屋を出る

動揺を隠しながら扉に手を掛けると


「ホントに婚約者になってくれてもいんだけどね」


ピタ…と思わず体が止まる

振り向くと、ケイがニヤニヤと見てる


「…今の、どういう意味だ」

「そのまんまの意味だよ?」


俺は扉から手を離し、ケイの前に

ニコッと笑顔のケイを睨み付ける


「栞は、…アイツは俺の女だ」

「勿論、分かってるよ

 だけど付き合ってるってだけで、婚約者じゃないんだろ?」

「…」

「だったら…」


ケイは挑戦的な笑みで


「いくらでも隙はある、奪ってもいいよね?」


俺からアイツを奪うだと?

冗談じゃねぇ


「ぜってぇに栞は渡さねぇ、それに…」


今度は俺が口角を上げる


「栞がアンタに落ちる訳ねぇよ」


栞が俺から離れていく訳がない

これは、…確信だ


「ふ〜ん?随分と栞を信頼してるんだな、自分以外を好きになる訳ないって」


ケイは視線を斜めに向ける


「まあその方が面白い

 君がそれだけ栞を想ってる分、俺の行動にどれだけ手を出さずにいられるか」

「…」


《絶対に手を出すな》


兄貴と栞に言われた言葉が脳裏を過ぎる

…舐めんな


「俺は今、桜井組の仮組員としてここにいる

 もうガキじゃねぇ、アンタの挑発になんか乗るかよ」

「ハハッ!イイねぇ?面白くなってきた!」


ケイは笑いながら部屋を出て行った


「やれるもんなら、やってみろ」


何があっても、栞は渡さねぇ

 

 

翌日

今日の栞は、どっかのお嬢様かって見える服を着てる

俺も今日はタキシードだ

昼間はダンスレッスン、テーブルマナーとかのチェック

夕方になり車を運転して着いたのはパーティー会場

今回のクライアントは海外の上流階級に位置する人で

お互いにこのパーティーに招待されてるから、話もここでとなったらしい

会場に入った直後から色んな人達に囲まれ

ケイはニコッと笑顔、栞も営業スマイルで対応してる

そこに


「ケイ!久し振りだな!」


髭を生やした大柄の外人が近寄ってくる


「ゲルドさん、お久し振りです」

「お前が日本に来て、このパーティーにも来ると聞いた時は驚いたよ!

 ところで、隣の彼女は、もしかして?」


ケイが栞の腰を抱き


「お察しの通り、俺の婚約者です」

「初めまして、雫と申します」

「ゲルドだ!これからもケイを頼むぞ!」

「はい。微力ながら、しっかり支えてさせて頂きます」

「うむ!ではまたな!」


その後も栞は、ケイの婚約者だと愛想を振り撒いた


パーティーも終盤に差し掛かる頃

ダンスミュージックが流れ始める

栞を見ると、表情には出てないが嫌そうな雰囲気が伝わってくる


「雫、少し涼みに「雫、踊ろうか」」


前を見れば、ケイが手を差し出してる


「少し疲れたので、零と涼みに行っていいですか?」

「一曲だけでいい」


ケイは栞の耳元で何か喋る

栞は何か考える様な目付きになり、ケイが離れると


「…分かりました」


ケイの手に指を乗せた

栞が俺に背を向け歩き出すと、ケイが少し振り向きニッと笑みを向ける


「…チッ」


俺は苛立ちを隠せないまま、2人を見送った


暫くして、1曲だけでも長いダンスが終わった

隅にいる俺の元に2人が近寄り、あと数mって時だ

ケイが立ち止まり、栞の腕を掴み引き寄せる

見上げる栞の頰にケイが手を添え、俺に見せつける様に栞の唇の端にキスをした

一瞬の出来事で茫然とする

栞も目を瞬かせてケイを見てる

ケイは栞の肩を抱き、俺の元に来るとトンッと栞の背を押した

栞はそのまま俺の胸の中に収まる

ケイはニヤッと笑い


「今日はもういい、連れて帰れよ」

「…言われなくても」

「あ、帰るっつっても別邸にしとけよ?」

「…」


栞を連れて出入口へ


「え、ちょ…」


栞の戸惑う声を聞きつつ、会場を出る

 

 

蓮に連れられ、人目が無い所まで移動すると


「栞、部屋まで飛べ」

「…」


有無を言わさない目付きで言われたら、何も言えない

《テレポート》で私達の部屋に着けば、真っ暗で何も見えない

電気を付けようと動いたら、グッと蓮に抱き締められる


「蓮?」

「…、もう限界だ」


月光が部屋を照らし、蓮の顔が見える様に

蓮の目には、怒りが

顔を両手で包まれ、勢いよく唇を塞がれる

いや、噛みつかれた

乱暴で激しいキスに何の抵抗が出来ず

トン…と後ろに冷たい物が当たり、壁に追い込まれたと分かった

唇が離れる頃にはお互いに息が上がり、私は立ってるので精一杯

壁に凭れて息を整えてると首にキスが落ち、鎖骨や胸元にもチクッと痛みが

蓮が顔を上げ、唇の端を指先で拭われる

ふと、さっきの事を思い出すと、蓮がピク…と反応し


「今、アイツの事考えたか?」


顎をグッと掴まれ、唇の端をペロ…と舐められる


「俺の前でアイツの事なんか考えんな

 アイツにお前は渡さねぇ、渡してたまるか」


再び唇を塞がれる

すると頸をツ…と触られる感覚が


「んっ…」


その感覚は下に移動し、ジーとチャックを下げる音が

キスをしたまま服を脱がされ、体が夜の空気に晒される

唇が離れるとフワッと体を持ち上げられた

バフッと柔らかい衝撃で、ベッドだと分かった

蓮を見れば、いつの間にかタキシードを脱いでる

蓮は私に覆い被さり


「アイツに隙見せてんじゃねぇよ」

「あ、あれは不可抗りょ」


言い切る前に塞がれる


「あんな人が沢山いる所でアイツの婚約者だって愛想振り撒きやがって

 仕事が終わったらどうするつもりだよ」

「ケイには婚約者がいるけど、

 顔と名前が思い出せない様に《ヒュプノ》を掛けてたから大丈夫

 勿論、蓮の事も」

「…」

「誰も雫や零がいた事は覚えてないから、大丈夫だよ?」

「…、ダンスに誘われた時、何言われてたんだよ」

「私があの場に居なくなってもケイを護れる様にしといてくれって

 だから今、蓮といるの」

「…、それでも、今日一日、俺がどんだけ我慢してたと思う?」

「…」

「今日は、寝れると思うなよ?」


その夜、私は嫉妬の獣に食われた

 

 

蓮side

翌朝

疲れてまだ寝てる栞を部屋に残して応接室に行けば、ケイがニヤニヤしてる


「昨日は悪かったなぁ?」

「…」


そんな事、カケラも思ってねぇだろ


「今日は何も予定が無いから、ゆっくりしろよ」

「…分かった」


俺はすぐに部屋を出て、栞の元に


部屋に入れば、栞は眠ったまま

ベッドに座り、栞の髪を撫でる

栞の体には至るとこに、俺が付けた華が

髪を撫で、頰や胸元を触ってると


「…ん」


栞の瞼がゆっくりと上がる


「おはよ」

「おは…よ」


寝惚けながらゆっくりと起き上がって目を擦る姿は

無性に可愛くて、俺だけが見れる姿だ


「ケイに、会いに行かないと…」

「…」


ベッドから降りようとする栞の腕を掴む

栞はまだ眠そうに俺を見る


「ん?」

「俺の前で、男の名前を出してんじゃねぇ」

 

 

思わず目をパチパチと動かす

私は蓮の手から逃れて身なりを整える


「仕事は別でしょ」

「…じゃあ、何で会いに行くんだよ」

「今日の予定を聞くのと、挨拶」

「今日は何も無いっつってたぞ、これで行く理由は無ぇな?」

「…、挨拶はしとかなきゃ」

「別にいいだろ」

「よくない、ほら行くよ」

「…チッ」

「舌打ちしない、ケイの前では止めてね」

「…だから」


扉の前まで行くと、肩を掴まれグッと振り向かせられる

蓮の怒りの表情が見えたと思ったらダンッ!と扉に押し付けられた


「俺の前でアイツを呼ぶな」

「…無茶言わないで、相手は依頼人なのに」

「……、だったら、俺とだけの時は呼ぶな」


まあ、それだったら


「……分かった。言わない様にす」


顎をグイッと上に向かせられ、蓮の顔が目の前に

蓮はまだ怒りの表情で


「言わない様にするんじゃねぇ、言うな」

「…」

「また言いやがったら、その口を塞いでやるからな」


蓮は先に部屋を出て行った


「…困ったな」


とりあえず、ケイに挨拶しに行かないと