8…薬の影響

楼side

栞から情報が来た後、アイツに連絡した

電話は1コール終わらねぇ内に繋がる


「…どうだ」

「息子、見つけたぞ。世に出しちゃいけねぇ、ヤベェ薬もな?」

「…っ」

「さて、どうする?」

「あの男は既に勘当している。もはや息子ではない、薬諸共処分しろ」

「おいおい、実の息子だってのに、ひでぇ事言うんだな?」

「…っ、報酬はくれてやるっ!世に出てこられない様にしておけ!」

「しておけ?」

「…っくそ、このヤクザがっ!」

「そのヤクザに頼ってきたのは、何処のどいつかな?」

「……、とにかく、男と私は無関係だ」

「へいへい、警視総監どの」

「…っ」


ブツッと電話が切れる


「…チッ」


怒りを向けたいのはこっちの方だ

ただのお菓子と飲み物、花から出る匂いで体内で科学反応を起こさせる

よく考えたもんだ

客は、まさか薬が体内で作られてるなんて知りもしねぇだろう

常連で通ってる内に薬が少しずつ蓄積し、支障をきたす

入院してる奴もいるが、栞が成分を分析したお陰で治療薬は作れるからすぐに退院する

 

 

酒向と話を終え

向かうのは元々の、栞が使ってた部屋


「俺だ、入るぞ」

「…」


返事は無いが、ゆっくりと襖を開けて入る


「うっ…くっ…!はぁ、うぁ…」


聞いてるこっちが辛くなる、栞の苦しむ声

全身包帯だらけで、顔にもいくつものガーゼがある

僅かに見える肌には赤黒い、血管の様な…歪なモノが見える


「はぁっ…はぁっ…、ぅ…、く…っ」


布団を被ってても分かる位に痛みに耐えて震える体

栞が蓮の片手を両手でずっと握ってるから、爪が食い込んで今や蓮の手は傷だらけだ


「紫音は?」

「…タオルを替えに行ってる」


蓮の反対側に座り、栞の頭を撫でる

チラッと体を見ると、さっき変えたばかりの包帯に血がもう滲んでる

警察のトップが危険視する程の劇薬

しかも治癒能力がある栞ですら、この状態

本当に…、とんでもねぇ薬を作ってくれたもんだな

 

 

栞から情報が来て、警視総監に連絡した後すぐに会場に向かった

見た目はパーティーが終わり、常連達も居なくなって静かな会場だ

無理矢理ついてきた蓮と紫音は、何故か迷わず常連が居たであろう別室を見つけ

鍵が掛かってるもう1つの部屋にも辿り着いた

無駄に重厚な鍵を壊して入れば、数人の黒服と警視総監の息子が壁際に倒れて

蓮と紫音が駆け寄る所には、傷だらけの栞と酒向が


『姉さん!酒向さん!』

『栞!栞ぃ!!』

『お前等退いてろ』


声を荒げる2人を組員に抑えさせ、辛うじて意識が残ってる酒向と目を合わせる


『酒向!分かるか!?』

『はぁ…はぁ…はぁ…』


返事が無いまま、ガクッと酒向の首が垂れる


『酒向!』


完全に意識が無い

口からの出血と体の暴行の痕、恐らく内臓がやられてる

酒向から栞を離し、抱き上げる


『お前等!酒向を運べ!』


組員に酒向を任せて、腕の中の栞を見る

浅い呼吸に全身からの出血、そして…赤黒い歪な血管の様なモノ

今まで見た事の無い栞の状態に、焦りが生じる


『蓮、紫音!栞を運べ!』


2人に栞を託し、俺は倒れてる黒服とアイツの息子に目を向ける


『コイツ等も拘束して地下室に運べ!』

『『『はい!』』』

 

 

家に帰ると

和士が治療薬を作り終わってて、酒向に直ぐ投与した

酒向は和士に任せてれば大丈夫だ

ふと、蓮の腕の中にいる栞を見ると

一瞬、栞の周りで赤い電気の様なモノが出てくるのが見えた

? 今のは何だ?

3人が部屋に入るのを見送り、黒服達を拘束してる地下室へ行こうとした

その時


バリッバリッバリッ!!


3人が居る部屋の方から凄まじい音が


「!?」


急いで部屋まで行くと、廊下に赤い電流の様なモノがバリッバリッ!と出てくる

栞から出てくるソレは、部屋中に広がり天井や壁が次々と壊れていく

側にいる蓮と紫音には何も影響が無ぇみてぇだが


「蓮!紫音!栞が前に使ってた部屋に行けっ!

 このままだと家ごと崩壊する!」


栞は万が一、力が暴走した時には元の自分の部屋にっつってた


その部屋に移動する間にもポタポタと血が落ちる

横にするにも、こんな血だらけじゃ無理だ

栞の服は血だらけで、既に黒く変色してる


部屋に入り、布団に栞を降ろさせると

ピシッ…!パリッ…!と栞の体に赤い電流が走る


「ぅあ…っ…ゲホッ、ゴホッ!」


栞が吐血し、黒く変色してる服に赤い血が重なる


「姉さんっ!?」

「栞っ!」


あまりの栞の状態に死の恐怖を感じ、2人は顔が真っ青になり

俺まで体が震える

くそっ!落ち着けっ!!


「2人共聞け!和士に輸血を持ってこさせるっ!

 それまでお前等はネックレスと指輪の《ヒール(治癒)》を使え!

 急げっ!!!」


2人は怯えの表情をしながら、何とか動き始める


どれだけの時間が経ったか分からねぇが、何とか処置を終えた


その後

拘束してるアイツ等を尋問した結果

薬は新薬、しかも…治療薬が無いと言いやがった

片桐は持ってただけで何も知らなかった

精製した奴は片桐に薬を渡した時点で、始末したらしい

 

 

あれから栞の状態は変わらない

強いて言えば、部屋を移動してから壁や床に被害が無ぇ位だ

赤い電流は栞の周りだけ走ってる


「…ぅ、…はぁ…っ、くっ…」


栞はあまりの苦痛で涙を流し、蓮が悲痛な表情で指で拭う

すると

スタ…スタ…と廊下を歩く音と、チャプッと水の跳ねる音


「…楼さん」

「おう」


戻ってきた紫音は蓮の隣に座り、白いタオルを栞の口元に


「酒向が目を覚ました」

「そうか」

「良かった」


その時だ

栞の周りでバリッ!と激しい電流が走る


「ぅ…あ、ケホッ…ゴホッ!」


咳と共に吐血し、口元にあるタオルが赤く染まっていく

治療薬が作れない今、栞の自然治癒に頼るしかない

誰もが、苦しんでる栞を前に何も出来ないまま

ただ時だけが、過ぎていく…

 

 

数日経ったが、栞はまだ目覚めない

体の苦痛もあるが、幻覚や幻聴までもが栞を苦しめる


「はぁ…はぁ…、うぁっ!」


カタッカタッと物が揺れ始め

栞が薄らと目を開ける


「! しお…」


蓮が言い切る前に栞がバッと布団から飛び出し、俺達から距離を取る

だが体が上手く動かず、なんとか片膝を立てて警戒態勢をとってる


「し、…しお「お前…等、誰だ」」

「「「!?」」」


痛みを耐える表情の中、警戒する鋭い目付き


「俺を…捕まえ…て、どうする…つもり…だ」


…俺達が分かってない


「蓮、紫音、栞は幻覚を見てる。刺激を与えるな」

「「おう(はい)」」


俺は栞の目を見る


「栞」

「…何故、俺の…名を、知って…」

「栞、俺達はお前の家族だ」

「か、ぞく?」

「そう、家族だ。俺達は、お前に危害は加えない」


一歩、近寄ろうとすると


「! 来るな!!」


栞の左目にペンタクルが浮かび、物がガタッガタッ!と揺れ動く


「…ぐ…っ」


栞は額を抑え、苦痛の表情だ


「それ…い…じょう、近寄る…なっ…!」

「…栞」


今度は蓮が呼び掛ける


「栞、俺は蓮だ。分かるか?蓮だ」

「…れん。れん、れん…」


蓮が近寄ろうとすると


「れん、…あ、俺が、俺が…殺し…た」

「栞?」

「俺の…所為…で、蓮が…死、俺の所為でっ!!」


栞が目を見開くと、部屋全体がバリバリッ!と赤い電流で覆われる


「姉さん!」

「!」

「姉さん、紫音だよ?分かる?」

「し…おん、しおん…、紫音…紫音?どこ?」

「ここにいるよ」


紫音が手を伸ばし、栞も手を伸ばすが

栞がふと自分の手を見た瞬間


「! うああああああああっ!!!」


恐怖に怯える表情で座り込み、耳を塞ぐ


「血がっ血がっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!

 もう嫌っ!誰も殺したくない!もう止めてっ!!!」


栞に近付こうにも、俺達を拒絶する様にシールドが張られる


「…っ、栞っ…!」

「栞、頼むっ…!コレを解いてくれ…っ!」

「姉さんっ!姉さんっ…!!」


栞は小さく身を固めて、震えてる

 

 

私はずっと、無数の黒い影に囲まれてる

聞こえるのは、私を罵り、蔑む言葉ばかり

蓮の声が聞こえたと思ったら、目の前に…あの時の蓮が倒れてて

紫音の声が聞こえて手を伸ばせば、血塗れの自分の手が

ずっと…、ずっと、もういない筈の鴉間の声が耳から離れない

嫌だ…っ、嫌だっ嫌だっ!!

誰か、誰か助けて…っ!


「栞さん」

「!」


この声は、


「春?」


顔を上げれば、黒い影の中に1つだけ白い影が

 

 

楼side

栞が幻覚と幻聴で苦しんでる

拒絶された上でのシールドは、蓮と紫音でも破れない

くそっ、どうすればいい…っ!

すると廊下から


「若、酒向です」

「治ったんだな。だが、ここに入らせる訳にはいかねぇ

 下手すれば傷付くぞ」

「自分は一度、この状態の栞さんを抑えれてます。危険は承知です、お願いします」

「…入れ」


酒向が入り、栞にゆっくりと歩み寄る


「栞さん」

「!」


栞がピクッと反応する


「春?」


すると

酒向はスル…とシールドを通り抜ける

 

 

春の声と一緒に白い影はゆっくりと近付いてくる


《お前なんか死んでしまえ!!》

「!」


投げ掛けられる言葉に後退りすると


「大丈夫です、ここに貴女を傷付ける人はいません」


白い影がフワッと私を包む

…暖かい


「春?」

「はい」

「…春」

「はい、春ですよ。栞さん」


白い影がどんどん鮮明になっていき、顔が見えてくる

あ…


「春だ」


目を合わせれば、ニコッと笑顔の春が

でも、殴られ傷付けられる春の姿が脳裏を掠める


「春、ごめんなさい。あんな痛い思いをさせてっ、苦しい思いをさせてごめんなさいっ!」

「自分は大丈夫ですよ

 薬も体の傷も、栞さんのお陰で治りました

 栞さんは俺よりも自分を心配して下さい」

「私はいいの。春は、大切な…私にとって大切な人だから…」

「自分も、栞さんを大切な人だと思ってます」

「ホント?」

「はい。それに、ここには貴女の大切な人が…大切に思ってくれてる人が沢山居ますよ」

 

大切な人

そう意識して辺りを見渡せば、黒い影が無くなっていき


「蓮、紫音、楼…」

 

 

楼side

栞は目を瞬き、俺達を見る

シールドがスゥ…と消えた

栞に近寄り、頭を撫でながら


「栞、おかえり」

「…楼、ただい…ま」

「もう休め」

「…ん、そうす…」


言い切る前にクタ…と酒向に凭れる

幻聴と幻覚は消えたみてぇだが、それだけだ

布団に休ませて、母さんに栞を頼む


部屋を出れば、蓮、紫音、酒向が怒りの表情で俺を見る

いや…、怒りなんて言葉は生温い


「兄貴、あの野郎共はどうしちまってもいんだよな?」

「最悪、息をしてなくてもいんですよね?」

「若、自分も「お前は止めろ」」

「ですがっ「お前には情報面で、親父と動いてもらう」」

「!」

「アイツ等に苦痛を体に味合わせるだけで終わらせる訳ねぇだろ?

 親子共々、これから先…うちに口も手も出せねぇ位の情報を見つけてこい」

「分かりました」


酒向を親父の元に向かわせ、蓮と紫音に向く


「捨てていい服に着替えとけよ。血はなかなか落とせねぇんだから」


蓮と紫音は頷き、部屋に戻っていく


「…さてと」


一応組の若頭として今まで冷静に動いて、表情にも出さねぇでいたが

もう、限界だ


「始末しに行くか」


俺の家族に手を出したんだ

簡単には死なせねぇ、死んだ方がマシだと思う恐怖を味合わせてやる