7…潜入終了

目を覚ますと、見慣れた天井が


「…ここは」

「目ぇ覚めたか」

「!」


声の方を見れば、若が襖を開けて立ってる


「若っ「動くな、今は寝とけ」」


若は俺の側まで来てドカッと座る


「今回の仕事だがな」

「はい…」


失敗してしまった

薬の正体が分かり、警視総監の息子も見つけていたのに

薬で身動きが取れず、栞さんが…、


「!」


ガバッと起き上がり


「若!栞さんは!?栞さんは無事ですかっ!?」


トンッと肩に手を置かれ


「落ち着け」

「…っ、すみません」

「まず、仕事は無事に終わった」

「はい、申し訳ありせ…、ん? 若、何と言いましたか?」

「仕事は無事に終わったと言ったんだ」

「…」


駄目だ、頭が混乱する


「訳が分かってねぇな」

「…はい」

「薬は、お前等が体の違和感を感じた瞬間に栞が成分を分析して

 同時に和士に《テレパシー》してた

 そして、警視総監の息子も現れた時点で《サイコメトラー》使って、俺に伝えてきた」

「…何故」

「あ?」

「何故、自分には知らせてもらえなかったんでしょうか」

「息子にもう1つの別室を案内させて、もう1つの薬を出させる為だ」

「え…」

「初めて会場に行った時から、栞は会場と客を探って2つの別室と薬があるのは見つけてた

 だが、客の情報だと其処に行くには常連になる必要があった

 強行突破で別室に入れても、もう1つは息子を見つけなきゃ意味が無かったからな」

「…どういう、意味ですか」

「彼処でしか、息子はもう1つの薬を使わねぇんだ

 いや、恐らく…、使えねぇ薬だったんだろ

 あの薬はな、あの部屋以外では気化したんだ

 効果は消えねぇままな、どういう事か分かるか?」

「…」


もし、気化した薬がパーティー会場や外に広がれば

人々がパニックに


「あんな奴でも、流石にソレは不味いって考えれたらしいな

 …で、情報を得られたまでは良かったが、ソレを優先しちまって

 体内に薬が回るのを防がなかったんだ

 そして息子が持ってた薬も、体が動けねぇ状態でも手に入れようと

 《ヒュプノ》で自分に打たせる様、誘導したんだ

 あの男、栞にこういう事言ったんじゃねぇのか?

 『その目が絶望に堕ちていくのが見たい』って」

「!?」


まさか…


「あの部屋に連れていき、その上で自分が気に入った奴に言ってた言葉らしい

 最初に息子を探った時、その絶望に堕とす方法が1つじゃなかったから

 薬を打つかは賭けだったがな」

「栞さんならもっと、無事に手に入れる方法があったんじゃ…」

「確かに、あっただろうな。

 最初の薬で上手く体が動かなくても何とか出来てただろ

 但し、お前も巻き込む形でな」

「え…」

「もし栞が1人だけで、同じ状況になったら躊躇無く力使って薬を手に入れてただろ

 力をどんなに見られても、記憶を改ざんしたり後からいくらでも対処出来る

 結果、自分がどんなに傷付こうがな」


…まさか


「お前を傷付ける可能性が少しでもあったから、アイツはあの方法を選んだんだ」

「…っ」


俺なんかの為に…っ

最初の薬だって、和士さんが既に解析してるなんて

…あれ、って事は


「あの、つまり、最初の薬は…」

「とっくに治療出来てる。体中殴られてたから休ませてんだ

 手加減無くやられてたみてぇだから肋骨にヒビが入ってるし、1本は折れてたしな

 まだ肺にぶっ刺さってるから、あんまり動くと血吐くぞ

 もう少しで和士が来るから、それまでは安静にしてろよ」

「え、…でも包帯とか、手当ては既にされてるんじゃ」

「医師免許持ってても、流石に肺に刺さってるのは診れないんだと

 そこでだ、栞は自分で治療出来ない時を考えて《ヒール(治癒)》が込められてる水を

 和士に渡してたんだよ

 それを思い出して、今取りに行ってんだ

 ソレを飲んだら動いてもいいが、それまではじっとしてろ」


若は立ち上がり、部屋を出ようとする


「ま、待って下さい!なら栞さんは!?栞さんは大丈夫なんですか!?」


若は仕事は終わったと言ったが、栞さんの容体については結局何も言ってない


「…」

「お願いします!教えて下さい!」

「…絶対安静だ。治るまでここから出るな」

「!?」


若が襖を閉める


「酒向が出てこねぇ様に見張ってろ」

「はい」


俺がここから出ない様に徹底的に

つまり、栞さんはそれだけ危険な状態…

俺が…俺が、もっとしっかりしてれば…っ!

ギュッと手を握る


「くそっ!」