5…深見

「深見様、お待ちしておりました」

「よう、間に合ったみてぇだな」

「はい。全員が飲まれたところです」

「そうか」


常連達が自然と道を開け、深見という男性が俺達の所まで近付いてくる

深見は自然な動きでグラスとお菓子を取り、あっという間に飲み干す

グラスをワゴンに置くと、こちらに目を向け


「アンタ等は見た事無ぇな、新入りか」

「初めまして、佐藤です。こちらは「アンタの女ね」」


深見さんは俺の背に隠れてる栞さんを覗き見て、ニヤッと口角を上げる


「なあ、アンタの名前は?」

「…」

「すみません、彼女は人見知りで」

「なのにこの部屋に入れる程パーティーに参加してんのか?」

「沢山の人と話せる様になってほしいと思いまして」

「ふ〜ん。なら、もっと楽しもうぜ?」


深見さんが手を挙げると、スタッフが一斉に全ての花に何かを吹き掛ける

部屋中に甘い匂いが充満すると…


「来た来た来た!!アハハハハハッ!!!」

「今夜も最高だ!!」


所々で客が笑い出す


「!?」


ドクッドクッドクッと心拍数が上昇してるのが分かる

この反応は…っ!

思わず栞さんを見ると、顔が紅潮してる

栞さんは俺と目を合わせ


“花から分泌された、ただの香りだ。問題は、体内で起きてる”

“体内?”

“ここで口にしたのは全部、普通のモノだ

 だが、それ等とこの匂いが体内で科学反応を起こし、薬に変わってるんだ”

“!? そんな事が!?”

“どうやってこんなのを調べたか興味深いな

 証拠は残らないし、あっても普通の飲食物だけだ“

”とにかく、この事を若…に“


クラ…と視界が揺れる、立ってるのもやっとだ

《テレパシー》が途絶え、栞さんも額を抑えてる


「もっとだ!もっとくれぇっ!」


周りの人達は気分が高揚してるが、フラついてはない

俺達とは違う反応、一体何が違うっ…!?


「アンタ等はまだ楽しめてないな」


深見さんが今までとは違うスタッフを呼ぶ


「来いよ、苦しいのを止めてやる」


スタッフに支えられ、引きずられる様に連れて行かれるのは出入口とは反対側

ガチャンッと重い錠を外す音が聞こえ、視界に写るのは灰色の部屋

用意されてる椅子にそれぞれ座らされると

手を後ろに回され

カチャンッ

手錠で固定される


「! …っな」


後ろを見て驚いているとカチャンッと足首も椅子の脚に

栞さんも同様に拘束される

深見は目の前でニヤ…と笑みを浮かべながら、ずっと俺達を見てる


「どういう…つもり…、ですか…」


深見は表情を変えず


「さて、まずは質問だ」

「…」

「お前達は、裏の…極道の人間か?」

「「!?」」

「雰囲気か…目付きか、表のパーティーに参加してる時から何かを探ってる。

 裏の人間じゃなくても、普通とは違うって感じた

 どこから情報が漏れたかしらねぇが…

 ここで薬が出回ってる噂でもあるのか?

 それとも…警察トップの息子が、ここに居るって世間にバレない様に動いてるか」

「!?」

「そうだ、俺だよ。深見は偽名だ。

 俺は警視総監の実の息子、片桐 樹(カタギリ イツキ)

 クククッ…!

 そりゃ極道が動くよなぁ?

 警察関係者にこんな事が漏れたら、親父がどんな目に合うか…クククッ、ハハハハッ!」


深見が栞さんに近寄り、栞さんの顎をクイッと上に上げる

栞さんは弱々しく振り払うが、すぐに掴まれ


「にしても、いい女だな?」

「その…人に…っ!触るなっ!」

「どうせ本当の女じゃねぇんだろ?なあ、お前」

「離…せ」

「お前、俺の女にしてやろうか?」

「「!?」」

「そうすれば、すぐにでも楽にしてやるぜ?」

「誰…が、お前…なんか…の、」

「いいねぇ、気の強ぇ女だ」


深見は舌舐めずりし栞さんから離れ、周りを歩き出す

栞さんは顔を上げてるのも辛いのか、俯いてしまった


「親父がどうなろうが、どうでもいんだけどよぉ

 バレたら俺まで肩身の狭い思いをしなきゃいけねぇ」

「当、然の…報い、だ」

「? 何で俺が?俺はダチに教えてもらって、ヤッてただけだぜ?

 誘われただけなのに、何でこの俺が責められるんだ?

 他の奴等だって楽しんでんだ

 何が悪い?」

「くす…りに、手を…出し…た…時点、で…、お前は…止まってる」

「止まってる?」

「人生…が、止まって…んだっ、今なら、まだ…間に合うっ!

 薬を、止めろ!」

「…何、その上から目線。ちょ〜ウザいんだけど

 そっちこそ、偉そうに説教すんの止めろよ」


深見が手を上げると、黒服が目の前に


「やれ」


ドカッ!


「ぐっ!」


鳩尾を始め、体中を殴られる

 

 

傍観者side

ドカッ!ボコッ!

容赦無く殴られ、酒向の額や口元には血が流れている

ボキッ!

酒向は喉の奥から迫り上がる感覚に逆らえず


「ぐ…っ、ゲホッゴホッ!」


ビチャッ!とスーツや床に血が飛び散る


「止め…ろっ、それ…以上、…手を…出すなっ!」


深見が手を上げると、酒向への暴力が止まる

深見は栞に近寄って目を合わせる


「俺の女になるか?」

「……、佐藤を…解放…するなら、考えて…やる…」

「!? し、しお…さ…っ!」

「考えてやる、かぁ…。あくまで強気でいるんだな

 いいねぇ、ますますお前が欲しくなってきた」


深見が栞の後ろ髪を掴み、グッ!と下に引き

顔を顰める栞を満足気に見下ろす


「その…手を…っ、離せっ!」

「煩いよお前、また殴られたいか?」


深見は栞と目を合わせる

栞はキッと睨み付け、逸らさない

深見は口角を上げ


「ハハハッ!いいねぇっ!その目!

 その目が快楽、いや…絶望に堕ちていくのを見てみたい!!」


黒服が深見に手渡すのは、注射器


「コレで今まで気を保ってられた奴はいねぇ、下手すれば廃人になる

 もし少しでも保ってれば、2人共解放してやるよ」


深見は栞の首に注射器を指し


「ゲーム、スタート」


液体を注入した