6…暴走

酒向side


「はぁっはぁっはぁっ」


栞さんは目を見開き、体がブルブルと震え出す

何かを振り払う様に頭を動かし、苦しみに耐えている


「はぁっはぁっ、あぅ…っ、ぅ、ぅあ…あああああああああああああっ!!!!!!」


栞さんが叫びながら手足をバタつかせる

ガチャッ!ガチャッ!と手錠が鳴り、椅子は今にでも倒れそうだ


「くそっ!…っ、くそっ!!」


少しでも体を動かせば、あちこちに激痛が走る

薬の所為で頭も働かない

栞さんを見ると、苦しい声を上げながら俺を見て


「(ごめん)」


口がそう動いた瞬間

栞さんの周りに赤い電気の様なモノがピリッと走り


「あぁああああああ!!!!!」


栞さんを中心に赤い衝撃波が放たれる


「うわっ!?」

「何だぁ!?」


俺以外はふっ飛ばされて壁に激突し、動かなくなった

ビキッビキッビキッ!と部屋中にひびがっ…!

栞さんと俺を縛り付ける物が全て砂状に消え、椅子まで無くなりドンッと尻餅をつく

ズキッ!


「ぐっ…!」


体が悲鳴を上げるが、歯を食いしばって耐える

栞さんを見れば、座っていた状態から垂直に浮いてる


「しお…さん!」


俺の声が届いたのか

こっちに顔を向けて、宙に浮いたままフラ〜と目の前に来る


「!!」


真近で見て気付いた

栞の目や皮膚に、赤黒い…血管とは違う、歪な線が体全体に広がってる

栞さんはジ〜ッと俺を見ると


「お前、誰?」

「!?」

「アハハハハハッ!!!」


普段の栞さんならあり得ない高笑い…

思わず目の前の光景に立ち竦む


「俺は人形、沢山の人間を殺す人形だ。周りには敵しかいないんだよ

 ハハハハッ!皆俺の敵なんだ!

 アハハハハハッ!」


この状況を何とかしようと臨時態勢をとると


「アハハッ!ハハッ…はぁ、…だから」


俺の眼前に手を上げると、無表情になり


「お前も殺す」


栞さんの手が赤く光った瞬間に咄嗟に伏せ、栞さんの後ろへ逃げる


「まさか避けられるなんてなぁ」


栞さんは手を銃の形にして、力を一点に集中させる

痛む体を必死に動かして攻撃を避ける

見渡せば部屋中穴だらけだ


「ハハハッ!こんだけ避けられるのは初めてだ!」


高揚してる栞さんの額や頰、体からブシュッ!と血が飛び散る


「!?」


力が暴走して血管がっ

早く止めないとっ…!

すると、グンッ!と体が何かに捕まり、動けなくなる

栞さんを見れば、片手が俺を挟む様な形になってる


「お前凄いな、怯えもしないでバケモノの攻撃を避けてられるんなんて

 逃げ足も速いから思わず捕まえちまった」

「違う」

「あ?」

「違う!」

「何がだよ?」

「栞さんはバケモノなんかじゃない!」

「…ふん、言葉ではどうとでも言える。

 心ん中で怯えてんだよ、こんなバケモノと関わりたくないってなっ!!!」

「違うっ!違うっ!!違うっ!!!

 俺は貴女が桜井組に入ってから、ずっと支えてきたっ!

 確かに貴女には特別な力がある

 でも恐怖を感じたり怯えたりした事は無い!

 そんな小さな体で色んな事を受け止め、どんな事があっても前に進もうとしてる

 周りが、…貴女自身が何と言おうと、何があろうと…っ

 貴女が桜井組の影…鷹でいる限り、俺が支え続けるって決めたんだっ!!」

「…へぇ〜、なら」


栞さんが目の前まで来て、俺の額を触る


「それが本当に本心か、覗いてみるか?」

「…好きにして下さい」


目を瞑り、身構えてるのを楽にする


「…っ」


栞さんが息をのむのが分かった

すると


「あ、止めろ…、」


栞さんの怯える声

目を開ければ、頭を抱えて怯えてる

 

 

男の心ん中を覗こうとしたら、

突然、鴉間が男の隣に


『さっさと殺せ』

『人形の分際で』


「止めろっ止めろっ、止めろっ!俺はもう、誰も殺したくないっ!」


周りに人型の黒い影が


『人殺し!』

『バケモノ!』

『死んでしまえ!』


耳と目を塞いでも、頭に直接聞こえてくる


「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!ごめんなさい!!」

「…!し…!栞さん!」

「!?」


責める声の中に1つだけ、名前を呼ぶ声が

 

 

酒向side


「栞さん!」


栞さんは目を閉じ、耳を塞いでる

薬の所為で幻覚と幻聴が出てるんだ


「栞さん!」


何度も必死に呼び続けながら側に行く

浮遊してる栞さんの手を掴み、引き寄せてそっと抱き締める


「!?」

「栞さん、大丈夫。春です」

「は…る?」

「はい、春です。俺は貴女の側にいます」

「…春、春」


栞さんはクタ…と俺に凭れ掛かる


「…はっ…、…はっ…」


呼吸が浅い…っ

体中から出血してるし、赤黒い歪な線も消えない…っ

早くここから出ないとっ!

ズキッ!


「!?…っ、ぅ…」


グラ…とよろけるが、なんとか持ち堪える

ほんの少し動いただけで体中に激痛が…っ

栞さんを横抱きに抱えながら壁に凭れ、ズルズルと座り込む


「はぁ…はぁ…はぁ…」


何とか、若に連絡を取らないと

奪われた携帯は黒服が持ってる筈だが

どいつが持ってるか分からない


「…くそ」


ボヤァ…と視界が掠れていく


「…っ、まずい…」


その時

ガチャッと音が聞こえ、ドタドタッと床に振動が


「…!…っ!」


誰かの声が

目の前に誰かが来たが、とうとう意識を手放した