40…護衛再開、最後の機会(4)

突然、どこからか男の声が


「マスター!?しかし…」

 

マスター?


「俺は人形を連れ戻してこいと言ったはずだ。記憶を戻すだけの筈

    何故、力を奪ってる」


闇から突然現れた男

コイツが、鴉間


「そ、それは…」

「人形は俺の物だ。故にその力も俺の物、何故お前が持つ必要がある」

「私も、マスターのお傍に」

「ふん。お前は所詮、人形のコピーだ。

    人形が使えない時にだけ動く奴が、身の程を弁えろ」

「…っ、失礼しました。お許し下さい」

「さっさと、記憶だけ戻せ」

「はい」


女がまた栞に向き直り


「うわぁあああああ!!!」

「もう止めろ!!」

「何故止める必要がある?貴様の記憶を戻してやってるんだ。ほら、もう終わるぞ」

「…う…あ…」


女が手を離すと栞が前に倒れる


「栞!!」


ズキッ


「…っつ」


『悪いけど』


「!?」


何だ、何かが頭に


『忘れてもらう』

『テメェ、何なんだっその体…っ!気持ち悪りぃ!』


「!?」


徐々に思い出す言葉は

あの時の、雫を追い掛けた時の…!


パリンッ


何かが割れる音がした

ああ、思い出した

雫を追い掛けて、男達と雫がやり合って、1人が雫のパーカーを掴んで…見えたのは

背中や腕、体中にある…無数の傷痕


「思い…出した」

「蓮?」

「人形が坊やに何かを忘れさせてた様ね」


女が栞の手を拘束して起き上がらせ、俺に向かせる


「ほら、見なさい?アンタが忘れてた男よ?」


ゆっくりと目を開ける栞


「し…栞」


栞が目を見開き


「蓮…君?」


懐かしい…昔の栞が俺の呼ぶ時の


「栞…」


栞は一筋涙を流し、笑顔を見せる


「蓮…君。やっと…会えた」

「栞っ…!」

「感動の再会はそこまでだ」


女が俺に手を向けると、俺を護ってたシールドがガラスの様に砕けた

手で顔を庇い、前を向くと鴉間が俺の目の前に来た


「な…、ぐっ…!」


鴉間が俺の首を掴み、栞に向けさせる


「さあ、選べ。この男を助けたかったら自ら俺の元に来い」


女がまた手を向けてくる

すると、体中に痛みが走る


「!うぁっ!あああああっ!!」

「止めて!蓮には手を出さないで!!」

「なら、さっさと来い」


女が栞を離す

鴉間が俺の首を離し、俺は地面に倒れる


「ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ!」


何とか顔を上げると、もうすぐそこまで栞が


「待…て、しお…り…!」


栞は俺と目を合わせ


「蓮…ごめん」

「…っ」


鴉間の腕の中に


「ハハハッ、戻ってきたな!お前は俺の物だ!!誰にも渡さん…小僧、お前にはな」

「く…くそっ…栞!」

「最後の機会だ。コイツに別れを告げろ」

「…はい」


栞は鴉間から離れ、俺の目の前に座る


「し…栞っ」

「蓮、ごめんね」

「何で、お前が…謝んだ」

「今まで、ごめんね。怖い思いさせたね、痛い思い…させちゃったね…っ」

「んなのは、どうでもいんだよっ」


栞が俺の頰に手を添えると、左目にペンタクルが


「栞?」

「今の状態じゃ、長く続かないけど。これなら奴等には何も聞こえない」


《ヒュプノ(催眠)》と《サイコキネシス(念動)》のシールドか?


「蓮、ありがとう

    ずっと探してくれて、私を見つけてくれて、こんな私を側にいさせてくれて」

「な…何言って…」

「きっともう、会えなくなる。せっかく記憶が戻ったのになぁ…」

「い…嫌だ、栞っ!アイツのとこになんか行くなっ!」

「蓮…こんな時にだけど、前に言った事、覚えてる?記憶が戻った時の」

「ああ、覚えてる。当たり前だろ、俺はずっと…ずっとお前が好き…」


好きだ…そう言おうとしたのに

また、言葉を遮られた

今度は手じゃなく、栞の唇で

真近にある栞の顔、栞が目を伏せた瞬間溢れ落ちた涙が唇に伝い

初めてのキスは、しょっぱい味

栞が離れ、フワッと笑顔を見せる


「また、遮りやがって」

「ちゃんと最後まで聞いたでしょ?」

「好きだって言おうとしたんだ」

「好きって最後まで聞いた」

「…栞」

「ん?」

「俺の側にいろよ」


栞を抱き寄せる


「これからもずっと側にいろよ。…っ…頼むからっ、いてくれっ…!」

「蓮、ありがとう。私も、蓮が「ふざけた真似を」」


パリンッ


「…え…」


俺の胸に何かが刺さる

視線を下げれば、銀色の何かが栞を貫いて俺に刺さってる


「し…しお…り…」

「れ…ん…」


鴉間が剣を抜く


「ぅあっ…!」

「…っ!あっ…」


後ろに倒れると思ったら、栞にギュッと抱き締められる


「しお…り?」

「蓮、ごめ…ん…ね。こん…な、痛い、思い…させて。大…じょ…ぶだから」


だんだんと、痛みが無くなっていく


「もう、痛く…ない…よ」

「栞…」

「ホン…トに、ごめん…ね」


俺の肩を掴む手から赤い光が


「さっさと戻れ」


女が栞に手を向けると、栞は引っ張られる様に鴉間の腕に


「栞!」

「…はっ…はっ…」

「俺を騙した罰だ、人形のクセに」

「鴉間ぁっ…テメェッ!!」

「貴様等に用は無い。帰るぞ」

「はい」

「待て!」


女が俺に手を向ける

くそっ動けねぇっ!


「栞!!」

「れ…ん…」


必死に手を伸ばす

栞はニコッと笑顔を見せ


「好き…だよ…蓮。さよなら。」


鴉間と女、栞が消えた


まただ、また手が届かなかった

栞に伸ばした手を見つめ、ギュッと握り締める

離さないって…護るって…誓ったのに…!


「うあああああああああああああ!!!!」