14…後悔

蓮side

神崎や松本…栞と行動を共にする様になってから、イラつく事ばかりだ

栞の怪我は治った様で安心したが、昼には栞の作った弁当を見せつけられるし

栞は常に神崎の側にいる

…栞はただ、仕事をしてるだけだ

そう思っても、なかなか割り切れない

 

廊下を歩いてる時だ


「あの〜すみません」


女の集団に声を掛けられる


「何だ?」

「神崎君、良かったらコレ食べて?」


神崎が貰ったのはクッキー

神崎はニコッと笑顔で


「ありがとう」


そう答えれば、女子共は浮き立って去って行った

俺は普段近寄るなと雰囲気を出してるから、そういうのは直接的には無くなった

間接的に貰っても他の奴等が羨ましがるからソイツ等にやってる

 

神崎はクッキーを見つめながら近くの空き部屋に入る

栞に続いて入ると、神崎は栞に1枚クッキーを差し出し


「やるよ」

「…」


栞はクッキーを一瞥し


「要りません」

「じゃあ言い変える。食べろ」


栞は溜息を吐いて受け取る

クッキーは1口サイズ、パクッと一息に食べる


「ちゃんと飲み込めよ?」

「…」


飲み込んだと思ったら、栞は何かを耐える様に目を閉じる


「どうした?」

「…いえ」

「俺、他人からの食べ物は基本食べねぇから

 手作りの味を知りたいんだけど?」

「…美味しいです。ですが、残りは捨てて下さい」


栞の額には、だんだんと脂汗が

…まさか


「…何故、受け取ったんですか」


神崎は栞に近づき、頬に手を添える

ピクッと思わず動いちまう


「冷静沈着なお前がどんな反応になるか見たかったから」

「…媚薬入りのモノなんて、分かりきってる」

「言ったろ?お前の反応が見たかったって」


神崎の顔が栞に近づく

…もう耐えらんねぇ

神崎と栞の間に入り、栞を背に庇う

栞は立ってるのが限界なのか、座り込んで息を切らす

神崎はニヤ…と笑い


「我慢の限界ってとこか?」

「俺の女に触んじゃねぇ」

「ふ〜ん、でも忘れんなよ?今は俺の護衛をしてんだ

 俺の命令には必ず従うって条件付きでな?」

「!?」

「まあ今はとりあえず、その状態をなんとかしねぇとな」


振り向けば、自身を抱き込む様にして震えてる栞が


「栞!」


肩に手を置くとグラッと後ろに傾き、慌てて背中を支える


「栞!栞!!」

「はぁっ…はぁっ…うっ…」


栞は目をギュッと瞑り、苦しんでる


「くそっ…!どうすればっ…」

「コレ、飲ませろ」


神崎の手を見ると、小瓶が


「媚薬の中和剤だ、護身用にいつも持ってる」

「…」


信用していいのか


「…っう…」


栞の苦しそうな声


「迷ってる暇は無いぜ?俺だって、好きな女の苦しんでる姿は見たくない」

「…元凶が、よくそんな事言えるな」

「媚薬は苦しむモノじゃねぇだろ?快楽を得る為の薬だ

 …栞のそんな状態は、予想外だ」

「…」

「だからさっさと、コレを飲ませろ

 お前が飲ませないんだったら、俺が「んな事させる訳ねぇだろ」」


神崎から小瓶を奪い取る

栞の口に傾けるが、上手く飲み込んでくれない


「くそ…」


口に含み、僅かに開く唇を塞ぎ上手く流し込む

数回繰り返し、やっと小瓶の中身が空になり

栞の状態も少しずつ落ち着き始める

 

どれ位経ったか…

栞が薄らと目を開き、何度か瞬きする

ゆっくり立ち上がるがグラッとよろける


「危ねぇっ」


後ろから支えると


「…悪い」


そう小さく呟き、体勢を整える


「動けるか?」

「…はい」

「なら、帰るか」


神崎がドアに向かい、栞も付いていこうとする


「待て!」


手を掴み


「そんな状態で行くのか」


栞は振り返らず

体が赤い光を纏い、消える

力で無理矢理…


「さっさと行くぞ」

「はい」

 

栞は俺の手を擦り抜け、神崎と帰って行った

力が視認出来た、…つまり、隠せない程に弱ってるって事だ

俺の所為で


「…っ、すまねぇっ」

 

 

大学から出て、人気の無い道を歩いてると

少し前を歩いてる神崎さんが振り向き、真剣な表情で私の頬に触れる


「まだ体、辛いだろ」

「…大丈夫です」

「…」


神崎さんは無言で私を横抱きする


「!な、何を…」

「黙ってろ」

 

漸く家に着き、リビングのソファに降ろされる


「すみません、ありがとうございました」

「…」


神崎さんは辛そうな表情でソファに膝を付き、私を抱き締める


「!」

「悪かった…っ。まさか、あんな風に苦しむとは思ってなかったんだ

 ホントにっ、悪かった」


震える体でギュッと抱き締められる


「…大丈夫です。俺は貴方の護衛なんですから、貴方への危険は俺が防ぐ

 今回はたまたま媚薬だった

 貴方はただ、自分の身を護っただけです

 だから、俺の事は気にしなくていんです」


神崎さんは少し離れ


「護衛だから…、そうだとしても気にする。

 栞、お前が好きだから

 お前が苦しんでたら、俺も苦しい…っ」

「…」

「披露宴であんな事を言ったが、お前が好きなのは本心だ」

 

神崎さんは両手で私の頬を包む


「好きだっ、お前が好きだっ」


神崎さんは涙を流しながら、私の唇を塞ぐ

抵抗は、しなかった

唇が離れ


「今回は、突き飛ばさないんだな」

「…拒絶したら、貴方の心が壊れそうだから」

「そうか。想いが通じなくても、受け入れてはくれたんだな」

「貴方の気持ちは、嬉しい。

 でも、蓮以外の人を好きにはならない

 これは絶対に、揺るがない」


神崎さんはニコッと笑い


「分かった。お前の事は諦める、今はまだ無理だが」

「…はい」

「最後に…最後にだけ、キスしていいか?」

「……はい」


再度、神崎さんの唇が触れる


「ありがとう。今は護衛だが、それが終わったら友人としてよろしくな」

「はい」

 

 

神崎修二side

翌日

大学の講義を受けてる中、桜井に目を向け


「桜井、今まで…悪かった」

「!」

「栞に好きだって言った。俺は、ホントに栞が好きなんだ

 栞は、想いには応えれないけど、受け入れるって

 それに、お前以外の人を好きにはならないって言われたよ」

「…」

「未練は残るが、栞は諦める。今まで、悪かった

 もう情報は伝わってんだろ?

 披露宴で、栞に取引みたいな話をした事」

「……ああ」

「今では後悔してる。

 無理矢理自分の思うがままにさせても、好きな奴の心は手に入らない

 護衛は本当に必要だから続けてもらうが

 終わったら、友人として仲良くさせてもらうよ」

「そうか。…まだ許せねぇけど、」

「それで良い」


2人の口角は、僅かに上がっていた