49…理子

翌日

桜井家の前に一人の女性が


「すみません」

「はい、どちら様ですか?」

「私、久八高校の教師をしてる水沢と申します。

    ここに神凪雫さんがいると聞いて伺いました。

    体調不良と聞いたもので」

「…少々お待ち下さい」


目が覚める、蓮はまだ寝てる

顔を横に動かし、外の気配を探る

…この気配…

スタ…スタ…と足音が近づく


「…ん」


蓮が目を覚ます


「おはよ、蓮」

「はよ…栞」


挨拶を済ませれば、襖に人影が


「蓮、姉さん、起きてるよね?話があるんだけど」

「紫音、こんな早くに来てたのか、どうした」

「…今、玄関前に久八高の先生がいるらしいんだ」

「久八高の…教師?」

「水沢先生だよ」

「水沢先生?」


水沢先生?

この気配が?


「なんか、姉さんが体調不良って聞いて来たらしいんだけど…」


学校側には和士が上手くやってくれてるはず

なのに、体調不良と聞いて来たと?

しかも…


「紫音、ホントに…来てるのは水沢先生?」

「うん、和士さんが確認してる。間違い無いよ」

「…」

「どうする?会うか?」


まあ、いざとなれば

どうとでも対処出来る


「うん、会う」

「分かった。なら「でも」」

「玄関を通らせるだけ、家にはあげないで。水沢先生には誰にも近寄らせないで」

「?  何で?」

「栞?どういう事だ」

「…会ってみないと、確信出来ない。行こ」

「あ、ああ」


水沢先生が待つ玄関へ

私と蓮が行く頃には楼や和士や春もいる

皆、言った通り水沢先生と距離を取ってる

水沢先生は私を見つけるなり


「神凪さん!体調不良と聞いて心配してたんですよ?

    元気そうで良かった!」


私に向かって笑顔で話し掛ける水沢先生

でも…


「水沢先生、学校側には家庭の都合で休学してると伝わってるはずですが。

    どうして体調不良だと?

    それに、何故…私がここにいると知ってるんですか?」

「え…っと、それは…」

「……私が、アンタの気配に気づかないと思ってんのか?

    もう芝居は止めろ、とっくに気づいてんだよ」

「栞、どういう事だ」

「この人は水沢先生じゃない、あの女…理子だ」

「「「!?」」」

「な…何言ってるの、神凪さん。私は水沢文ですよ?リコって誰「その気配」」

「その気配と…その殺気、あの人のはずがない」


水沢先生は、まるで向日葵の様な…お母さんの様な、柔らかな雰囲気を纏った人


「それ以上、その姿で喋ったら…」


手に力を込め、攻撃体制をとる

私を見て、皆も警戒をする

理子は顔を俯かせ


「はぁ…分かったわよ。これでいいんでしょ?これで」


水沢先生から思念体で理子が現れる

紫音は目を見開き


「アンタはあの時、存在が消滅したはずだ。何で…水沢先生の体を…」

「そこの人形が力を使えなくなった時、使えなくしたのは私。

    そして、使えない様に力を仕込んでたのは…この女」

「「!?」」

「この女にわざとぶつかって、力を仕込んだのよ。

    音楽室で坊やと人形が寝てる時、この女が起こす為に人形の肩に触れた

    その時に人形にも仕込ませてもらったって訳」


蓮と音楽室で寝てる時…あの時かっ


「お蔭で上手くいったわ。この女には感謝しないとね」

「…で、今更何をしに来た。今は思念体だけでこの世にいる様なもの

    今のアンタじゃ、何も出来ない」

「そうね。ここの誰かを殺そうと思ったけど、無理そうね」

「…なら、何故」

「……今の私は、誰かを殺す力は残ってない。

    けど、仕込んでおいた力…《アンチ・サイキックアビリティ(超能力の無効化)》

    それの応用で、出来る事がある。

    人形…アンタの傷を、全部消してあげれる」

「「「!?」」」

「なっ…何を、言って」

「アンタの力なら、傷くらい綺麗に消せれる。

    けど、今までの事で…無意識に自分で傷を消そうとしない」

「…」

「私が最後の力使って、傷、治してあげる」

「……何で」

「…」

「…何で、そんな事するの。アンタは私を憎んでた。鴉間の側にいた私に…

    殺したいって思う程に、それなのに何で?」

「……私が消滅した後、アンタはマスターに言ってくれてた。

    『アイツはお前の傍に居たくて必死だったんだぞ』って『許さない』とも言ってたわね

    あの時マスターに消され、悲しかった

    でもアンタが、マスターに私の想いをマスターに訴えてくれた。

    それだけで、私にとっては十分な理由よ」

「理子」

「名前も…。今では感謝してるわ。この機会を与えられた事に」


理子は今まで見せた事の無い笑顔を見せる


「…」

「さあ、どうする?今すぐに私をこの先生から消す?

    それとも、私を信じてみる?」

「…栞」


蓮が心配そうに見てる


「…分かった」

「姉さん」

「「栞」」

「栞さん」


紫音、楼、和士、春

皆が心配する中、理子に近く

理子の目の前まで来ると、胸の前に手を向けられ


「楽にしててね」


理子は最後の力を使い始めた、赤い光が私を包み込む

数秒後、光が消えて、理子の思念体も消え始める


「理子」

「これで、本当にさよならね」

「うん」

「じゃあね。……神崎栞」


理子は光の粒となって消えた

水沢先生は意識を取り戻し


「…神凪さん?あれ?ここは?私、いつの間に外に?」

「水沢先生」

「神凪さん、あ、お久し振りですね!ご家庭の都合で休学と聞いてましたが」

「はい。でも…すぐに学校に行きます。また、ピアノを聴かせて下さい」

「ええ、勿論です!待ってますよ♪」

「それと、先生」

「はい?」

「今まで騙しててごめんなさい。私、本当は神崎栞って名前なんです」

「神崎…栞?」

「はい、…ごめんなさい」

「なら、今度会う時は間違えない様にしないといけませんね!」

「…!」

「?  どうしましたか?」

「…いえ、やっぱり、大好きです。水沢先生」

「まあっ、私もですよ♪」