33…蓮の護衛

夏休みが終わり、新学期が始まった


「おい、雫」


蓮の護衛も始まってる


「おい、返事しろって」


紫音はあれからだいぶ過保護になった


「おいっ雫!」


隣を見れば、蓮が不機嫌そうに私を見てる


「…何」

「何って、呼んでも全然答えねぇから。せっかく一緒にいるのに…」


鷹として会った次の日

今度は神凪雫として、蓮に会いに行った


雫としては桜井組に来るのは初めてだから、チャイム鳴らした方がいいかな

チャイムを鳴らし、インターホンで蓮に用だと伝える

数秒後、蓮が出てきて私を見るなり、目を見開いて数秒固まった後

私の手を掴み、家の中に


「雫!お前何やってんだよ!?」

「蓮に話があったから来た」

「何で俺んちを知ってんだよ」

「紫音に聞いた」

「…だったら、ここがどんな家か分かったよな?分かった上で、来たのかよ」

「そう」

「馬鹿じゃねぇのか!?俺の家は極道だ!

    玄関先に突っ立ってるだけで、何言われるか分かんねぇんだぞ!?

    ありもしない噂だって立つんだ…、何で居たんだ」

「だから、蓮に話が…」

「携帯を使やぁいいだろ?何でわざわざ来た?」

「携帯…」


《テレパシー》使うから携帯なんて持ってない、とは言えず


「直接、話したかったから」

「…何だよ」

「蓮、私は、白狐の姫だ」

「…それが?」

「これからは、白狐の姫として…蓮の側にいる」

「…は?」

「話はそれだけ」

「え…いや、ちょっと待て。どういう事だ」

「そのままの意味、姫の役割を果たすって事」

「……どういう風の吹き回しだ?」

「単に私の気持ちが変わっただけ。それとも、今まで通りの接し方がいい?」

「いや…それは、」

「なら、これから頼むな」

「あ、ちょ…ちょっと待て!」

「何だ」

「…お前の周りで、変わった事は無ぇか?」

「何も、無いが」

「ならいい、…お前家までどうやって行くんだ」

「歩き」

「俺のバイクに乗ってけ」

「…」

「姫なら、狙われない様に送られろ」


学校が始まってから毎日、蓮のバイクで登下校してる

バイクに乗る時《サイコメトリー(接触感応)》で細工されてないか確認し

《リモートネスクレヤボヤンス(遠隔透視)》で周囲を警戒

《プレコグ(予知)》で事故に見せかけ殺そうとするのを阻止

敵を見つければ《サイコキネシス(念動)》で潰す

蓮自身にも常にシールドを覆らせる


襲ってくるのは、前に偵察に行った裏河組の組員

奴等の駒にされたって訳だ

潰した後は、春に後始末を頼む

楼に連絡もしてくれるから、私が報告しなくても全部分かってる

そんな日々が数日続いている


私は今、蓮と屋上で昼ご飯

紫音は係の仕事で居ない


「水沢先生とこ行くか」

「ん」


音楽室へ行けば、水沢先生がピアノを弾くとこで


「いらっしゃい」


蓮とピアノを聴くのも、馴染んだ

なんか、眠くなってきたな

横を見ると、蓮も頭がコク…コク…と揺れてる

少しだけなら、いいかな

音楽室の外壁をシールドで覆う

私は蓮の肩に頭を預け、眠りに落ちた


トンットンッ


「神凪さん」


肩を優しく叩かれ、目を覚ます


「あ…」

「グッスリ寝てましたね、もう昼休み終わりますよ。

    私は片付けてるので、桜井君を起こして下さいね」


水沢先生が離れる

私は蓮の肩に手を置き


「蓮…蓮」

「…ん…栞…」

「!…」


こんなに側にいるのに…何も思い出せない


「貴方は、私にとって…」

 

 

蓮side

俺は新学期から雫と登下校して、殆どの時間を一緒に…側にいる

姫の話は驚いたが、今までよりは断然良い…良いんだが

紫音の雫への態度が今まで以上になってる

常に雫を気遣って、少しでも離れると目で追ってる

前に、雫は大事な人だと言ってたが…変な方向に行かねぇよな?なんて思う位だ


気になるのは、鷹だ

俺自身が狙われてるから、学校と倉庫以外は極力家にいる

部屋に居ると外に鷹の気配があるから、チラッとそっちを見る

鷹の気配が消える時は恐らく敵を潰してる時

その時は神経を研ぎ澄ませ鷹の気配が戻るのを待つ

兄貴は影の存在だと言ってたが、本当に影だ

気配で居るのは分かるが、最初に会った時以来、一切姿を見てない

姿は見れねぇが、声くらいは…

ある時、気配が消え戻ってきた後、試しに聞いてみた


「怪我とか、してねぇか?」

「…………ああ」


一言だけ

でも、返事をしてくれたのがなんとなく嬉しかった

例えるなら、なかなか懐かない猫が一瞬手に擦り寄ってきた感じ


「外、雨降ってっけど…濡れてねぇか?」

「…………ああ」


聞けば返ってくる

それだけなのに、妙に嬉しく感じた

そして今日、雫と音楽室でピアノを聴いてたら眠くなった

幼い頃の栞と遊んでる夢


「…ん…栞…」


だんだんと意識が浮上してくる、その時だ


「貴方は、私にとって…」


雫の、この言葉

意識が朦朧としてる中、その言葉が耳に残った