魔物

ラルフは物凄いスピードで駆け抜け

到着したのは外門に近い田畑がある場所

茶色いゴブリンみたいなのが人を襲ってる…っ

栞は俺達と離れ、ゴブリンへと向かってく


「おい栞っ」

「蓮と紫音はソルと、私が避難させる人達を保護」


金と赤が混ざったシールドが俺達を覆う


「その中にいれば傷も回復するから。皆をお願い」

「「分かった」」

「承知しました」


栞はゴブリンに襲われてる人達に意識を向け、シールドに避難させる

入ってきた人達の傷はみるみる内に治っていく


「傷が…!?」

「もう、大丈夫だ」

「ソル様、レン様とシオン様まで!?」

「シオリ様は!?」

「シオリ様!?この数相手に無茶です!」

「帰ってこられて間も無いのに!!」

「…大丈夫だ」

「レン様?」

「姉さんなら、どんな相手でも大丈夫」

「で、ですが…、今日力を戻されたばかりの筈

 貴方方の世界では必要の無い力だったんですよね?

 魔物だって、存在していなかったんですよね?」

「それも、心配無ぇよ

 俺達の世界の一部で栞は…、その力で制圧してきたんだからな」

「それに変な話

 今まで手加減してきたのが、本来の力を取り戻して

 更に手加減しなくていいって状況なら、今の姉さんなら敵無しだ」

「貴方方がそう言われるのなら、きっと大丈夫ですね」


ソルの言葉で、皆が安堵する

 

私は蓮と紫音、ソルに人々の保護を頼み

ラルフを連れて、魔物と対峙する

この世界に来て、初めての魔物

今はシールドで阻んでるから来れないけど、唸り声を上げながら手足をバタつかせてる


「ラルフ、あの魔物には知性はあるの?」

〔いえ、ありません。アレは本能のままに行動するのみ

 今追い払ってもいずれ襲いに来ます

 この世で、どんな生き物に対しても唯一不変のモノが《弱肉強食》です

 やらねば、こちらがやられます」

「…」


多くの命を奪ってきた私は、もう人は殺さない

今までそう、決めてきた

でもここでは、ソレは命取りになる


だから…

殺られる前に、殺る


片手に力を纏うと、今までの赤色に金色が少し混ざってる


「…」


……蓮と紫音には見せられない

振り向き、シールドに暗幕を掛ける


「…ごめん」


今まで守ってきた事を破らないと、この国と人々は護れない


「…また、隠し事が出来ちゃったな…」

〔主…〕


ラルフが鼻先を頰に擦り寄せる


「ありがとう」


私は、護りたいモノの為に、この力を使う


…そういえば、ここでの戦い方をまだ知らない

手に力…ここでは魔力か

纏ったけど、直接攻撃は…、少し怖い


〔主、主は帰ってきたばかりです。ここは我が…〕

「いや、ちょっと待って」

 

試しに

魔物に届く様に、魔力を…飛ばすイメージで

手を振り払うと三日月の形をした魔力の塊が魔物へと向かっていく

ザンッと魔物の首が落ち、肉体は仰向けにドサッと倒れた


「おぉ…出来た」


残りの魔物にも同じ様に魔力を飛ばせた


「あとは…」


どう片付けるか

…火かな

魔物に手を向け、火が燃えるイメージを

すると、魔物が燃え始め、跡形も無くなった

よく見ると畑の野菜とかは無事だ


「何で野菜とかは燃えてないんだろ…」


良い事だけど、…魔法ってそういうモノなのかな?


〔魔物だけが消滅したのは、主が我と魂を繋いでいるからです

 故に主の魔力が自然に影響する事はありません〕

「それってどういう…」

〔詳しい事は後に話します。今は彼方をどうにかした方がいいかと〕

 

そうだ、そろそろシールドを解かないと

意識を向ければ、パリンッとガラスの様に砕け消える

 

蓮side

栞が魔物の対峙してると、シールドが黒くなり周りが見えなくなる


「? 何だ?」


とりあえず内側は何とも無ぇから

栞が解いてくれるのを待つしかない


「蓮」

「紫音?」

「姉さん、魔物をどうすると思う?」

「…どうするって」


改めて考えると、…分からない

栞は組の仕事でも、絶対に殺しはしなかった

栞自身も、もう人の命は奪いたくないって

…だが


「この世界では、どうするんだ…」

「どうされたんですか?」

「いや、栞は魔物をどう対処するのかと思って…」

「奴等は、殺してしまった方がいいでしょうね」

「殺す…」

「それ以外の方法は?」

「知性のある魔物であれば、話せば済む場合も時にあります

 ですが、基本奴等は本能で動き、我等を襲います

 この世界では、殺らなければ殺られるんです

 …申し訳ありません、貴方方にとって酷な事を言ってるのは分かっていますが

 この世界では、それが普通なのです」

「「…」」


パリンッ

シールドがガラスの様に砕けていく

栞に視線を向けると、魔物はいなくなってる

去って行ったのか?それとも…

考えてる内に栞が近くまで来てる


「終わったよ」

「栞…」

「ん?」

「魔物は「シオリ様!ありがとうございました!!」」


街の人達が次々と歓声を上げる


「シオリ様、お疲れ様でした。城へ戻りましょう」


ソルの言葉で、街の人達は栞に挨拶して帰っていく

残ってるのは俺達しかいない


「私達も帰ろ」

「栞っ」

「ん?」

「…っ」


俺が言い淀んでると、肩に手がポンと乗る

紫音…


「何でもない、帰ろ」

「? うん」


栞とソルが先に歩いてく


「…紫音」

「分かってる。…でも、姉さんも悩んでるかもしれない

 今は何も聞かないで、姉さんから話してくれるのを待ってみよ」

「そう…だな…」

「2人共早く〜」

「「今行く」」


今回、栞のスムーズな指示で自然と安全な所に居た

俺は、いつも栞に護られてばっかだ

栞を護れる力が欲しい…

 

 

紫音side

翌日

俺達は今日も謁見室に来てる

ラルフも姉さんの肩に乗ってる


「昨晩、魔物が来たようだが大事なかったか?」

「はい。姉さんがすぐに対応して、俺達はシールドに護られてたので…」

「そうか。…シオリ」

「はい」

「ソルの報告だと、シールドが解かれた時には既に魔物はいなかったと聞いておるが

 魔物は、どうしたのだ?」

「「…っ」」


俺と蓮が昨日考えてた事だ


「…」


姉さんが言い淀んでる


「実はなシオリ、お前がやった事は既にソルから聞いておる」

「「「!?」」」


ソルはあの時、俺達とシールド内に居た

なのに


「ソルはな、魔力を使った跡を見れるのだ

 シールドが消えた後、魔物がいた所には火属性の痕跡があったそうだ」


…つまり、姉さんは


「シオリ、レンとシオンも…

 ソルからお主達が生きてきた世界の事は聞いておる

 魔物、ましてや魔力など無縁の世界なのだろう?

 それを考えれば、2人が悩んでおるのも容易に推測出来る

 …それにレンとシオンは分かりやすい」

「「え…?」」

「ふっ、ワシはこれまで様々な者達に会ってきた

 するとな、他人の顔色も自然と分かる様になったのだ

 特に、何か思い詰めておる者は顔や態度に出やすい」

「「…」」

「シオリ、言ってみなさい」


姉さんは一瞬俺達を見て、国王を見る


「首を…はねました」

「「!」」

「ふむ シオリ」

「はい」

「それ以外に方法があったと思うか?」

「…ラルフにあの魔物は知性が無いと聞きました

 本能で動き、追い払ってもいずれ襲ってくる

 殺らなければ…殺られると」

「そうか。シオリ…、よくやった」

「…っ」

「あの魔物は確かに知性が無い

 しかしだ、彼奴等は群れで襲ってくる

 怪我を負わせられ、作物を食い荒らされ…、様々な被害があったのだ

 シオリ、前にも言ったが…今のお前は性格や雰囲気が以前とは違う

 育ってきた環境も平穏とは言い難いモノだったんだろう」

「…、」

「勿論、生まれ変わってきた事は嬉しい

 だが、少しの間だけでも…ワシから見た今のシオリは

 やはり愛おしい愛娘に変わりは無いのだ

 改めて言うぞ

 よくぞ対処してみせた

 よくやったな。シオリ」

「…っ」


姉さんは何かを堪える様な表情で俯く


「大半の魔物は我等に害を与えるモノ、敵なのだ

 昨晩の事は、皆が感謝している

 シオリ、皆が安心して幸せに暮らしていける様に、今後もその力を貸してはくれぬか?」

「…私は自分の持ってる力が当たり前のこの世界を知って、嬉しかった

 生まれ変わりと言っても、以前とは違う筈の私を皆は受け入れてくれた

 私は、皆を護りたい

 皆を護る為に、私に出来る事をやりたいです」

「うむ、その決断に感謝する。レンとシオンも良いか?」


俺は姉さんを見る

姉さんは俺の視線に気づき、真っすぐな目で微笑む

姉さんが辛くなければ、俺はいい

蓮もきっと同じ思いだ


俺は王に向き


「姉さんが自分で決めたんなら、何も言いません」

「俺も、栞が辛くなければ…いい」

「紫音、蓮、…ありがとう」


ただ…気になってる事がもう1つ


「あの…」

「? 何だ?」

「今回、俺と蓮は姉さんに護られるだけでした

 …だから俺達にも、護れる力が欲しいんです

 どうにか出来ませんか?」

「…レンも同じ考えか?」

「はい、力が欲しいです。栞を護れる力が」

「ふむ …実はの、2人にやってもらいたい事があるのだ」

「「?」」

「お主達の身に、精霊を宿させる」

「「!?」」

「ソルにお主等を観察してもらったところ、肉体がこの世界に対応しきれぬかもしれぬのだ

 …つまり、このままだと命が危うい」

「「…っ、」」

「だが、生命力に満ち溢れている精霊を宿せば防げる。しかも、魔力が生み出せるのだ」

「俺達が…」

「魔力を、…ですか?」

「うむ 但し、精霊を宿すと普通の人間ではいられぬ」

「…え」

「それは、…どういう…」

「ああ、すまんすまん。決して悪い意味では無い

 精霊を宿す事はつまり、精霊と共に生きるという事だ

 少しの傷ならすぐに癒え、肉体も強化する

 精霊の力を使える者を、ただの人間とは言わぬだろう?

 シオリはラルフと既に魂を繋いでおる故、心配は無いそうだ」

「…あの、お父様」

「何だ?」

「私がラルフと魂を繋いでるのは確かな様ですが、私はあくまで生まれ変わりです

 何故、繋がりが切れてないんでしょうか…」

「うむ、それはな…

 魂を繋ぐというのは、謂わば…一心同体だ

 生まれ変わった肉体でも、魂は同じ

 故にお前が最初に来た時、ラルフが反応したのだ

 言ったであろう?

 ラルフが動いた事が証明になると」

「…」


姉さんはラルフを抱える


「だから…、だからラルフとだけは自然と会話が出来たんだ」

〔主…〕


ラルフはペロ…と姉さんの鼻を舐める

…そういえば、街に行く時

姉さんは躊躇無くラルフに小さくなってって

魔物を退治しに行く時も

名前を呼ぶだけでラルフは体を大きくして、姉さんが乗れる様に動いた

姉さんはラルフを優しくギュッと抱く


「本当に、長い間…、待っててくれたんだね」


姉さんの目には涙が、ラルフは姉さんの頰を愛おしそうに舐めてる


ラルフは肩に戻り、姉さんの頰にグルグルと頭を擦ってる


「さて、本題に戻ろうかの

 レン、シオン…、どうじゃ?

 精霊を受け入れるか?」


俺は蓮と見合わせ、頷く


「「お願いします」」

「よし、すぐにでも取り掛かろう」