移住、新たな世界へ

蓮side

目を開ければ、俺達が最後に居た部屋だ

栞を見ると、やっぱり眠そうだ


「姉さん」

「ん、眠いけど…、ソルが来るから…」


扉が開く


「お待ちしていました、お部屋にご案内します」


ソルさんに付いていき、暫く歩くと


「こちらがシオン様のお部屋になります

 その隣がシオリ様とレン様のお部屋になっておりますので」

「「ありがとうございます」」

「シオリ様もそうですが、お2人も休まれた方が宜しいですね

 今後については明日からとなります。では」


ソルさんが去って部屋に入ると必要最低限の家具が備わってる

紫音の部屋へは…、扉が

…続き部屋になってんのか?

そう思ってると、その扉が開き


「おう」

「これって、所謂続き部屋ってやつ?」

「みたいだな。とりあえず今日は寝るか」

「…あ〜、…一緒に寝てもいい?」


ベッドは大きいから3人でも大丈夫か


「おう、栞もいいよな?」

「…ん」


荷物を片付けるのは明日朝一にやるとして

フラフラしてる栞をベッドに休ませて、俺と紫音は栞を挟む様にして寝た

 

 

翌朝

気を利かせてもらって、部屋に朝ご飯が用意された

給仕の人がソワソワして


「お食事は、お口に合いますでしょうか?」

「はい、美味しいです」

「良かったぁっ」


給仕の人は胸に手を添え、ホッとしてる

食事が終わってからは荷物を片付ける


一息吐いた頃

まだソルが来るまで時間がありそうだから

私は1人ベランダに出て、景色を眺める


「……皆…」


笑顔で見送ってくれた


「蓮、紫音…」


私とここ(異世界)で生きるのを選んでくれて…本当に


「ありがとう」

「「…んなの、当たり前(だ)」」

「!」


振り向けば、2人がすぐ後ろに

2人は真剣に私を見つめ


「俺達は夫婦なんだ

 何があっても、俺はお前と離れるつもりは無ぇ

 そりゃあ流石にこんな展開は戸惑ってるが

 栞といれるんなら、地獄だろうと一緒に行ってやるよ」

「…蓮」

「俺も同じだよ、絶対に離れない」

「…ありがとう」


すると

コンッコンッ


「ソルです、宜しいですか?」

「いいよ」

「失礼します」


ソルが丁寧なお辞儀をする


「おはようございます」

「おはよ」

「「おはようございます」」

「王からお話がございます、謁見室までお越し下さい」


身なりを整え、ザキロ王の待つ部屋へ

部屋に入ると、兵が1人も居ない


「改めて、ここで暮らす事になりました。宜しくお願いします」

「「宜しくお願いします」」

「ふむ。…さて、堅苦しいのは止めじゃ」


王は立ち上がり、私の前まで来ると

ニコッと笑顔で


「シオリ!」


抱き締められる


「お、王…っ」


ソルがアタフタしてる


「良いではないか、今は兵はおらぬ

 今まで国王として振る舞ってきたが

 シオリは我が娘、親として接するのを今まで我慢したのだ

 これ位良かろう?」

「…っ、は」

「シオリ!会いたかったぞ!どれだけお前が居ない間を過ごしてきたか!

 これからはまた共に暮らせる!

 これ程喜ばしい事はない!」


ギューッと強く抱き締められる

喜ばれるのは嬉しいけど、記憶を持ってないのが心苦しい

せめてもと、王の背中に手を添え、抱き締め返す

少しだけ離れると


「これからは、親として呼んでくれぬか?」

「…あの、私には、こちらでの記憶がありません。

 それでもいい…なら…」


王は少しだけ悲しそうな表情


「そうか、そうだな。つまり、記憶を戻しても良いのだな?」

「? 可能なんですか?」

「ふむ、以前話したであろう。お前は最後に魔力を残したと

 その力を取り込めば、少しでも記憶が戻るかもしれん」


王はソルに目を向け


「アレを持ってこい」

「承知しました」

 

 

蓮side

ソルさんが持ってきたのは、小さな箱


「中身もそうだが、この箱自体がシオリが作った物だ」

「今まで開けた事はあるんですか?」

「無い。それ以前に近寄れなかったのでな」

「え?」

「とにかく、開けてみてくれ」

「…分かりました」


栞が箱に触れた途端、勝手に蓋が開き金色の光が溢れ出す


「「「!?」」」


光は栞を中心に渦巻き、箱が光の粒になって消える頃には栞は光に完全に包まれた

数秒後、パンッと光が弾け反射的に顔を庇う

腕を下げ、栞を見ると髪が金色になってる


「し、栞?」

「姉…さん?」


栞が俺達を振り返ると左目だけだった赤が、両目に

! この姿は…っ!?


「ふむ その姿こそが我々の知っているシオリだ」

「!?」


今までで2回、この姿を見たが…

やっと謎が解けたぜ


「ワシの事は思い出したか?」


栞は王に向き


「はい、思い出しました。ですが、いくつか問題が…」

「何だ?」

「お父様は勿論、ソルや国民の顔と名前は思い出したんですが…、それだけなんです」

「…そうか。まあ、それだけでも良い

 他には?」

「もう1つは、この姿ですが…」

「む?」

「元の姿に戻ってもいいでしょうか?」

「…ふむ、慣れぬか?」

「……、はい」

「良いぞ。どんな姿でもシオリはシオリだ」

「ありがとうございます」


栞が目を瞑ると、赤と金が混ざった光が栞を覆い

金色の髪が黒に戻っていく

栞が目を開けて、俺達を見る


「戻った?」

「…あ〜、目は戻ったけど、髪の毛に少しだけ金色が混ざってる」

「え?」


紫音の言う通り

謂わば、黒髪に金色のメッシュが入った感じだ


「まあそれで良かろう?

 今だからこそ言うが、シオリにはこの世の全ての属性が使えたが

 今はどうだ?」



「「「………え?」」」

「ホッホッホッ、ワシも流石に驚いた

 属性や魔力の保有量に関しては誰もシオリには及ばなかったのだ」


…属性、魔力

まるっきりゲームの世界だ


「シオリの記憶が戻った事だ、彼奴(あやつ)もここに呼べ」

「承知しました」


ソルさんがまた居なくなる

数秒もしない内にガチャッと扉の開く音がしたと思ったら

真っすぐにこっちに来る大きい何か


〔我が主〜っ!!!〕


飛び上がって、栞を押し倒す


「「栞(姉さん)!?」」

「痛てて…。ラルフ」


栞は上半身だけ起き、されるがままに

…てか、犬?狼?が


「「喋ってる!?」」

「いえ、喋ってる訳ではありません

 ラルフ殿等の神獣は仲間同士でのみの伝達方法を使います

 故に本来ならば聞き取れませんが、シオリ様が我々にも伝わる様にして下さったのです

 ラルフ殿、シオリ様と一緒に来られたレン様とシオン様です」


栞の上から狼?が退き、俺達を見る


〔…信用出来るのか?〕


警戒されてるな


「ラルフ、この2人は大丈夫。紫音は私の弟で、蓮は夫なの」

〔…おっと?番(つがい)という事ですか〕


ジーッと見られる


〔…暫く様子を見させてもらう〕


挨拶?が済むとラルフは、また栞に構い始める


「申し訳ありません。ラルフ殿はシオリ様しか信頼してないのです」


栞しか?

でも、そうなると…


「姉さんがいない間は、どうしてたんですか?」

「先程の箱を守護していました」

「守護…、姉さんが居ない間、ずっと?」


栞にしか懐いてないなら

食べ物とか、どうしてたんだ?


「神獣は木の実や水等を摂るそうですが

 主を持てば、その者の魔力のみが糧となるそうです

 シオリ様はラルフ殿が死なぬ様に箱を作る際に細工を施したのです

 箱の側にいるだけで魔力を吸収出来る様にと、だからラルフは生きれていたのです」


なるほど


「ずっと私を待っててくれたんだね」

〔勿論です!〕

「ありがとう」


姉さんは俺達に向き


「ラルフは神獣…狼神族(ロウジンゾク)の末裔なの」


さっきから話の中で、サラッと言われてるけど…


「…神獣って……」

「神の化身、又は使いと呼ばれている存在です

 本来ならば姿を見る事すら叶わないので

 殆どの国では伝説の生き物として伝えられています」


……、そんな凄い生き物が目の前にいんのか

でも、末裔って


「もしかして、コイツの一族は…」

「はい。ラルフ殿が唯一の生き残りの様です」

「生き残り…」

「はい、話はそこまで」


栞が漸く立ち上がる


「今探ってみたところ、全ての属性が使えるみたいです」

「そうか、それは良かった

 どうだ?この世界に来たばかりだ、今日は街を散策してはどうだ?

 ソルも同行しろ」

「承知しました」


確かに、この世界に来てから城内で動いてばかりで街を見てない

栞が振り向いて、俺達を見る

頷き返すと栞は王に向き


「では、行ってきます」

「うむ、気を付けてな」

〔お供します!〕


ラルフは尻尾をブンッブンッ振ってる


「なら、ラルフはもう少し小さくなって。肩に乗れる位に」

〔承知!〕


ラルフは、ポンッと煙に包まれたと思ったら

ちょこんと床にお尻を付けた状態で座ってる

子犬サイズ…可愛いな、おい


「おいで」


栞が呼べば

ラルフは肩に乗った


「姉さん、重くない?」

「大丈夫、殆ど重さは無いから」

 

部屋を出ると


「「「シオリ様!!」」」


行きの時とは打って変わって兵士や城で働いてる人が集まってる

栞は微笑んで


「皆、久し振り」

「少しでも記憶が戻られてるんですね!良かったぁ!」

「俺の事も覚えてますか!?」

「私の事も!?」


栞は1人1人と丁寧に話してる


「貴方方がシオリ様と一緒に来られた、弟君のシオン様と旦那様のレン様ですね!?」

「「は、はい」」


俺達の事まで、もう情報が広まってるのか


「「ぜひ異世界での生活を教えて下さい!」」


全員がキラキラとした眼差しで俺達を見る


「え、え…っと」


紫音と目を合わせ、どうすればいいか困惑する


「皆、落ち着いて」


栞が助け舟を出してくれた


「紫音と蓮もそうだけど、私も…、まだこっちに来たばかりだから

 頭の整理がついてないの

 それに、今から街を見に行くつもりだから

 話はまた今度でもいいかな?」


栞が微笑みながら首をコテンと傾げる

それを見た人達は


「「シ、シオリ様…っ!!!」」


男の人は鼻を抑えて、女の人はホウッと恍惚な表情で


「分かりました!行ってらっしゃいませ!!」

「ありがと、行こ」


栞の後を歩く

チラッと後ろを振り向くと、未だに見てる人達

栞に聞こえない様に


「…姉さんって」

「ああ。これから色々と大変そうだな」


お互いに苦笑い


「今度、国王かソルさんにこっちでの姉さんの話聞いてみようよ」

「そうだな」


歩いてたら、城の門前まで来てる

 


城の門を潜れば、街の人達が


「「シオリ様!!」」


ここでもさっきと同じ状況に

でも、前に傷を治した事で街の人達は薄々気付いてたらしい


「傷を治して頂いてありがとうございます!」

「うちの子も!こんなに元気になりました!」

「ラルフ殿も連れてるんですね!」

「この方達が一緒に来られた、弟君のシオン様と旦那様のレン様ですね!?」


軽くお祭り状態だ

街の人達と会話しながら、夢で見てたのと同じ市場を歩く

2人が動物寄りの人を見たら流石にタジタジになった


「…まるで映画の世界だな」


そう言って、すぐに打ち解けていった


少し小腹が空いたから、果物の屋台を見てみる

…そういえば、お金持ってない


「シオリ様!」


店主が笑顔で声を掛けてくる


「ゴメンなさい、お金を持ってなくて…」

「お金?そんなの要りませんよ!

 今日はシオリ様が帰ってきて下さった、めでたい日なんですから!

 さあどうぞ!好きなのを持ってって下さい!!」

「あ、いや…そんな訳には…」

「遠慮しないで!」


店主があれこれと果物をくれる

折角だし、ご好意に甘えよ


「ありがとうございます」

「なあに!またいつでも来て下さい!!」


街の人達と話してる紫音と蓮の元へ戻る


「何か色々と持ってきたな」

「そんなに買ってきたの…」

「…貰った」


グ〜

果物を見た2人のお腹がタイミング良く鳴る


「どっかで座って食べるか」


近くに休憩所みたいなのを見つけ、周りの人と話ながら美味しく食べる

 

蓮side

街中は殆ど見て回れた

色んな店がある中で驚いたのが、自由組合…通称ギルドだ

アレを見つけた時は、紫音とテンションが上がった

ギルドで冒険者とかに登録しとけば

提携してる国なら身元証明されて、スムーズに入国出来て

名前と実力があれば登録出来るらしい


方法は採取・探索・討伐の実地試験

実力で得たランクで、受けれるクエストが決まる

一番低いのからB、A、S、SSとあって

Bは、魔法が使えない人でも出来る簡単なモノ

Aは、Bよりかは実力がある人向け

Sは、魔法を使える…魔導士向け

SSは、魔導士でも危険なランク、出入り禁止の危険なエリアにも入れるらしい…


危険エリアは1級と特級の2種類で、SSで入れるのは1級エリアまで

特級の入り方までは教えてもらえなかった

登録出来たら、ステータスカード…身分証が貰える

カードには自分のランクと、一本の白いゲージが

エスト完了後に受付に渡せば、ポイントが貰えて白いゲージがその分赤くなる

全て赤くなれば、ランクをアップさせるか、欲しい武器やらが手に入る

Bは5P、Aは10P、Sは30P、SSは50 P

魔法が使える使えないだけでポイントの差が激しいが

パーティーを組んでれば、仲間内で獲得ポイントを分け合えるらしい

 

そういやぁソルさんとも話してたら


「私の事はソルと呼んで下さい、敬語も結構です」


ニコニコと笑顔で言われたら遠慮するのも引けて


「じゃあ、ソル。これからも頼む」

「ソル、よろしく」

「はい!宜しくお願いします!」


結構な時間が経って、少し薄暗くなってきた

そろそろ城に帰ろうとしてたら


「きゃーっ!!」


遠くで悲鳴が


「アイツ等が来たぞ!!逃げろっ!!」


街の人が避難を呼び掛ける


「何だ、どうした」


逃げ惑う人々の中

栞を見ると、悲鳴が上がった方向をジッと見てる

《リモートネスクレヤボヤンス(遠隔透視)》か


「紫音、蓮、行ってくる」


やっぱりな


「「俺も行く」」


栞は紫音と俺を見て頷く


「ラルフ」


ラルフがグググ…と大きくなり


「2人共乗って」


栞に続いてラルフに跨る

ソルをチラッと見ると


「私は自力で付いていけますので」

「行こう、ラルフ」

〔はっ!〕