新章突入 第1章 異世界

囚われの姫を読んで下さり、ありがとうございます

只今、異世界編を執筆中です

今までは超能力の話を書いてきましたが、魔法も追加の話にしました

これからも読んで下さると嬉しいです

 

では異世界…、スタート!

 

第1章 異世界(1)

最近、毎日同じ夢をみる

大きな城が中心にある街、そこの市場を毎回歩いてる

何も買わずにフラフラ歩いてるだけだけど…


夢を見始めた時に気になったのは

周りを行き交う人が、…人間じゃない

人間みたいに2本足で歩く動物だったり、人でも動物でもないのも


今ではどんな生き物と出会おうが、夢だしって片付けてる


そして…、夢の中で私と常に一緒にいる人?と動物がいる

ゴブリン的なのと白い狼だ

何度か声を掛けようと口は開いたけど、何故か声が出ない

喉に手を当ててると、狼が見上げて鼻を擦り寄せる

心配してくれてる?

ありがとって思いながら頭を撫でると、嬉しそうに目を瞑る

 

暫く歩くと、最後には周りに霞が掛かる

そして、ゴブリンが必ず


『会える時を待っています。…シオリ様』


この言葉を聞いて、夢から覚める


「…何で」


何で、そんな悲しい表情で私を見るの?

 

目が覚め、顔を上げると蓮の寝顔が

外はまだ薄暗い

 


私は桜井組から抜け、蓮と結婚した

したけど…、これからどうするかをずっと考えてる


正直…、何をしたらいいのか

私は生まれてこのかた、何をしてみたいとか、何になりたいとか

子供が一度は思った事を、思った事が無い

このままじゃ、楼の…春の折角の好意を無駄にする


とりあえず体が鈍るのは嫌だから

毎朝蓮の腕から抜け出してトレーニングをする


誰も起きない様に、自分の周りだけシールドを張り

いつもの様にトレーニングする

 

 

数分経って、汗をかき始めた頃


「…、?」


桜井家の人間じゃない気配を感じる

でも…、妙な気配


「…誰だ」


サイコメトリー》で周囲を探る


「やっと…、見つけました」

「!」


誰もいないのに目の前から声が

バッ!と後ろに距離を取ると、男が空間から突然姿を現す

見た目は普通の男だが、あんな出方…人間じゃない

…でも、顔はどっかで見た事ある様な…


「…何者だ」

「シオリ様、お久し振りです」

「…何故、私の名を」

「知っていて当然です、私は貴女様の従者ですから」

「? じゅう…しゃ?」

「私はソル、夢でお会いしたのを覚えてらっしゃいませんか?」


男が目を瞑ると、耳や…体の色が変わっていく


「! その姿…っ」


…これは夢か?

それともミスで自分自身に幻覚をかけてるのか?


「気持ち、お察し致します。ですが、これは現実です。触れてみますか?」


緑色の手を差し出される


「…」


恐る恐る触れてみると、ちゃんと手の感触が


「…夢じゃないのは信じる。でも何故、私の前に現れた?」


ソル…さんは優しい表情のまま跪き


「貴女様を御迎えに上がりました。我が主…シオリ様」

「…?」


さっきも、従者って言ってたけど、主?


「何を、言ってる」

「…記憶が無いのは些か不便ですな。ですがもう暫くの辛抱…、シオリ様」


ソルさんは再び私に手を差し出し


「こちらの世界に一度、いらして頂けませんか?」


こちらの世界…


「要は、違う次元から来たって事か」

「左様です」


悪意は感じない

家族にも一切それらしい意識を向けてない

得体の知れない奴、断ったら何をするか検討がつかない


「……戻ってこれるのか?」

「勿論です

 それに、どれだけ時間が経とうと

 私の力でこの世界では一瞬の事になります。ここに住う方々には気づかれません」

「…」


仕方ないな


「……分かった」


ソルさんは笑顔になり


「ありがとうございます」

「でも…」

「?」

「行く前に、着替えてきてもいいか?」


流石にこの格好はラフ過ぎる

汗もかいてるし…


「承知しました」


誰にも気づかれない様に自室に行き、クローゼットを開ける

…が、あの男の服装からして、どれも違和感がありそうだ

どこに連れてかれるかも分からない以上、鷹で使ってたローブが妥当か

動ける服装でローブを羽織り、ソルさんの元に


「では、参りましょうか」


すると、足元が光り始める


「!?」


光が一層強くなり、眩しくて目を瞑った瞬間


「シオリ様、着きました」


恐る恐る目を開くと、大きな街と城が

夢で見たのと同じ…


「ここは…」

「我が国、ジュノです。さあ、行きましょう」


ソルさんが歩き出し、後ろを付いていくが


「何故、わざわざ街の外から行くんだ」

「ある方のご意向なのです」

「ある方?」


ソルさんはニコッと笑顔で、それ以上は答えてくれそうにない


歩きながら街を見てると、街全体が赤と金の混ざったシールドで覆われてる

…でも何となく、これじゃ護れないと感じる

そう思ってる内に入口まで来た

ソルさんはスル…と自然にシールドが張ってある門を通る

……、私は入れるのか?

慎重に足を進めるが、難なく入れた

怪しまれない程度に辺りを見渡してると


「痛いよぉ、お母さぁん助けてぇ…っ」


遠目でも分かる、人間じゃない親子

子供は腕を押さえて親に縋ってる


「ごめんね、もう魔力が無いの…っ」


まりょく?…魔力?

親子に視線を向けたまま


「おい。離れてもいいか?」

「何をされるおつもりですか?」

「治す」


ソルさんを見ると、懐かしむ様な表情で


「顔は見られない様にして下さいね」

「分かった」


親子に歩み寄ると、母親が子供を背に隠し


「誰ですか?」

「大丈夫、危害は加えない。傷を治すだけだ」

「…」


母親は恐る恐る子供を前に出す

子供は泣きながら


「だぁれ?」

「遠すがりの者だ、痛いとこを治してあげる」


子供は腕を押さえてるが、全体的に傷だらけだ

何故こんな…


「ひっく…痛いよぉ…」

「大丈夫」


子供に手を翳し《ヒール(治癒)》を掛ける

子供は赤い光に包まれ、傷は痕も残らずに治った


「どう?」

「痛くない!治ったぁ!ありがと!!」

「どういたしまして」


子供ははしゃいでピョンピョン飛び跳ねる


「ありがとうございます!」

「貴女も」

「え?」


《ヒール》


母親の傷も全部治す


「私まで…!ありがとうございます!なんとお礼をしたらいいか!!」

「いえ」


親子がギュッと抱き締め合ってるの横目にソルさんの元に戻ろうとすると

様子を見ていた他の者達が集まり始める


「あの、私も治してもらえないでしょうか?」

「私も、うちの子が酷い怪我を負ってるんですっ」

「俺の傷も治してくれないか!?」

「あ、あの…えっと…」


ソルさんを見ると、苦笑しながら頷くのが見えた


「大丈夫。全員治すから、慌てずに順番に並んで」

「「「はい!」」」

 

 

ソルside

シオリ様が傷を治すと言って、泣いている子の元へ行った

…正直

あの方が、シオリ様かはまだ確定していない

赤い左目と顔つきがソックリなだけだ

僅かに懐かしい魔力を感じて、あの方の前に現れたが

少し話しただけでも分かった

警戒されてるにしろ、雰囲気や言葉使いが以前とは随分異なる

本当に、…本当にあの方は…、我々の知るシオリ様なのか


だが、遠くからその光景を見つめてると、そんな思いはすぐに消え去った

シオリ様は、赤い光を出しただけで傷を治した


「…、」

 

《ヒール》は光属性で、ある特性を持つ魔法だ

特性はあるが光属性の者自体は少ない訳では無い為、特別なスキルとしては扱われていない

 

その特性と目の前の光景で、不安が確信に変わる

喜びで唇が震える


「…やはり、貴女様で間違い無い様ですね」


少しでも魔力を持ってるか、どれだけ使えるかを確かめる為に街の外から戻ってきたが…


周りの者達に囲まれて困ってるが、私は笑みを抑えながら頷いた


「今の内に、報告しておかなければ…」

 

 

あれから住人に囲まれて、数人…数十人と治してる

中には、病気や意識が無い人まで

そんなのまで治せるか心配だったけど

いつもよりも集中して、込める力を増せば治った


これだけ《ヒール》を使ったのは初めてだから保つか心配だったけど

なんとか全員傷痕も残さず治せた

コレは一番精密なコントロールがいるし、気力もだいぶ減る

 

すると

1人が壊れた道具を持ってくる


「あの、コレとか…、直せたりしますか?」


見事に部品がバラバラになってる

…、保つかな


「任せて」


手を翳せば、バラけてる部品が元の形に収まっていく


「はい」

「! 直ったぁ!」


それを見た周りの者達が


「あの、コレも直せないか?」

「家の崩れた壁とか、どうだ?」


また更に集まってきてしまった

…、ん〜…

よし、やってやる!

 

 

ここへ来て、どれだけ経っただろ…

只今、道具や建物を直しまくり中

…私、何でここに来てるんだっけ

周りを見れば、子供が元気にはしゃいでる

……、まあ、いっか

物を直すのに集中してると


「アンタスゲェな!一度に怪我だけじゃなく、物も直せんだな!

 俺は魔力が少ねぇから、すぐへばっちまう」

「…あの」

「何だ?」

「魔力…は、ここに居る全員が持ってるのか?」

「物心が付く頃には自然と使えるよ

 ここの奴等だけじゃねぇ、この世界の奴は種族問わず皆色々と使えるだろうよ

 持ってる量はそれぞれ違うけどな

 俺は怪我をいくつか治すだけで疲れちまうんだ

 だから、こんだけ魔力を使ってても大丈夫なアンタはとんでもねぇよ!」

「…」


この世界では、この力は普通なのか

でも、何で殆どが使えない状態になってるんだ


「怪我人もそうだが、何故街全体がここまでボロボロに…」


ボソッと呟いたのを、いつの間にか側にいるソルさんが聞いてた


「ここ数年の事です

 このジュノには、今は亡き姫様の御加護があります」

「…もしかして、ここを覆ってるアレがそうか?」

「左様です

 ですが、長年の時が経ち、弱まってきているのです

 ソレを感知し、様々な魔物が襲ってくる様になりました」

「…兵士はいないのか?」

「1年程前に大規模な攻撃をくらい、殆どの兵士が犠牲になりました

 今では、ほんの数人しかおりません

 街を覆っているアレも、弱まってきてるの話ではありません

 ただ形があるだけなのです」

「…」

 

色んな物を直し終えて一息吐いた途端、急激な目眩や倦怠感が襲う


「…っ」


グラ…ッとよろけると、後ろから誰かに支えられる


「…!」

「…っ!」


周りの声が遠くなっていき

眠気に耐えきれず、私は瞼を閉じた

 

 

目が覚めると、見知らぬ天井が

……、確か、ゴブリンのソルさんに連れられて違う世界に…


「!?」


バッ!と起き上がり、周囲を警戒する

…この部屋は、街のどこかの一室か

ここでは不審人物に当たるだろうに、こんな整ってる部屋で寝かされるなんて

ふと…

近付いてくる気配…、ソルさんか

ノックの後に扉が開く

ソルさんは目を見開き


「お目覚めになられましたか!良かった!」

「…どれ位経ってる?」

「1時間程です!

 目覚めたらお連れする様にと言われています!さあっ参りましょう!」

「…どこへ?」

「国王の元へです!」


廊下を歩く中、窓を覗けば街が見下ろせる

この高さ…、ここは中心に建ってる城か


「着きました」


目の前には大きな扉が

ソルさんと入れば、大きな部屋の奥で1人座ってる

あれが、国王…


「…?」


何だかソワソワしてる様に見える、今にでも立ち上がってきそう

表情も必死に引き締めている感じが


国王の前に行くと


「久し振りだな、シオリよ

 ワシがこのジュノ国の王…ザキロだ

 シオリ、お前は帰ってきた。言葉通りに…」

「? どういう…」

「お前は最後の時、こう言っていたのだ」


『私がいなくても、皆が安心して暮らせる様に力を残します

 もし、…もし叶うのなら、また皆と…』


「また皆と一緒にいたい

 それが漸く叶い、お前はこうして帰ってきた」

「…待って下さい」

「何だ?」

「この方もそうですが…。何故私が、貴方方の知るシオリだと?」

「…髪や片目の色、雰囲気等は違うが、街での様子を聞いたら間違いない

 お前は怪我人を治していたな?精霊を喚ばなくとも」

「…? はい」

「《ヒール》は光属性の者しか使えないが、少ない訳ではない

 故に特別なスキルとして扱われてはいない

 だが、ある特性があるのだ」

「…特性?」

「魔法発動時には必ず、光属性の精霊を喚ばなければならないのだ

 精霊が祝福してくれる事で魔力の質や量が一時的に上がり、完全に治癒出来るのだ

 無論、精霊を喚ばずとも治癒は出来るが、どうしても傷痕が残ってしまう

 でも、以前からお前がする時は何故か精霊を喚ばずとも完璧に治癒が出来ていたのだ」

「…」

「ソルからの報告では《ヒール》を使っただけでは疲れていなかったと聞いておる

 精霊の祝福を受け、通常よりも多い魔力を使ってしまう為

 一度使っただけで大抵の者は疲れ果てる

 以前のお前も、疲れ果てる様子は見せた事が無かった」

「…国王は、

 様々な者が《ヒール》を使用している際の状況を全て把握してるんですか?」

「いや、そういう訳ではない

 ただ《ジュノ国の姫だけが精霊を喚ばずに完璧に治癒出来る》と

 噂が絶えなくてな」

「…ですが、噂にしか過ぎませんよね?」

「噂は噂でしかないが、それ以外にも判断出来るモノがある。ほれ、来たぞ」

〔我が主!!〕


後ろを振り向けば、目の前に大きな影が


「わっ!」


何かに押し倒される

顔を舐めてる白い…狼?


「…もしかして、夢に出てきた」


狼が舐めるのを止め、私と目を合わせ


〔ラルフです!我が主!!〕

「ラルフ…」


私よりも遥かに大きいけど、シッポをブンッ!ブンッ!と振り回してるのがよく分かる

こんなに、私が来たのを喜んでる

ラルフをそっと退かし、国王に向き直る


「一度死んだお前が…、いつかどこかで、きっと生まれ変わっておる

 そう信じ続け、ソルに様々な所に探しに行ってもらっていた

 そして遂に…、馴染みのある魔力を感じて、お前の前に現れた

 ラルフはお前の魔力を糧に生きておる

 もしも違っておれば、元の所から動かなかっただろう

 ソルとラルフの行動が、証明となる」


なるほど

でも…


「私は元の世界に戻れるのを前提にここに来ました

 それはソルさんから伝わってる筈です

 なのに再会を望んでいた者に安易に機会を設けたのは

 …ここに留まらせるつもりですか?」

「…そうだな。出来れば以前の様に、ここで過ごしてほしい」


国王はどうかな?と視線を向ける


「…お聞きしたい事が」

「何だ?」

「ここに住むとして、元居た世界と行き交うのは、許可してもらえますか?」

「良いぞ。故にあちらで納得のゆくまで検討してくれて構わない」

「…分かりました」

「それとだ、向こうの世界に家族はおるか?」

「…いますが」

「ならば一度、連れてこい」


…?


「何故ですか?」


話し合うだけじゃダメなのか?

国王はニコッと笑顔で


「これまで娘を育ててくれた者達に会いたいと思うのは親として当然

 こちらに移り住んでくれるのも良い」


………


「…………え?」

「ああ、厳密に言えば血は繋がっておらん、ワシは育ての親じゃ

 だが赤ん坊の頃から育てたのだからワシの娘だ

 生まれ変わってもそれは変わらぬ」


つまり、国王の養子って立場だったのか


「そして、正式に戻ってきた時には本来の力を取り戻してほしい

 お前は国を加護するのに全ての魔力を使って、光の粒となって消えた

 …正直に言えば、今のお前に魔力がある事自体驚いているのだ

 この国は、衰退している

 本来の力を持つシオリが居てくれたら、心強い

 それ以前に、死んだ娘が戻るのが一番嬉しい」

「…時間を下さい」

「勿論だとも」

 

 

「ソルさん」

「ソルと呼び捨て下さい、敬語も不要です」

「…ソル」

「はいっ」


スッゴイ笑顔で返事をしてくれる


「さっきも言った通り、私は元の世界に戻りま…戻る」


敬語を使いそうになったら、シュン…と表情が曇った


「ソルが使ってた世界を移動する能力は、私にも使えるのか?」

「勿論です

 ですが、本来の魔力が戻られていない状態で使用されれば、お倒れになるかもしれません

 今回は私がやります」

「なら、家族と話す時も一緒にいてくれ

 ソルが直接説明してくれた方がきっと信じてもらえる」

「承知しました」

「じゃあ、行こうか」

 

 

桜井家の、さっきまで居た所に戻る

空を見れば、まだ午前中…

てか、数分も経ってないみたい

ホントにこっちでは一瞬の出来事なのか

ソルには来る前に気配を消しておく様言ったから、気配に敏感な蓮も起きてこない


「ソル、いいと言うまで、姿も見えない様に」

「承知しました」

「…さてと」


私自身、まだ困惑してるのに


「信じてもらえるのかな」