8…バケモノ(2)

…どれ位、ここに居るんだろ


「おや?」


バルコニーに現れたのは、月影さん


「神崎さん、あまり夜風に当たってると体が冷えますよ」

「…お気遣い、ありがとうございます」


月影さんは腰を下ろし、私と同じ目線に


「何か、ありましたか?」

「…いえ、何も…」

「そうですか。…それにしても、貴女の本当の目を見てみたい」


月影さんが私の頰に手を添える


「!」


逃げようとしたら、ピタッと体が動かなくなる


「!?」


え、何で…

呆然としてると、月影さんが耳元で


「君と直接会えて良かった。また、ゆっくり話をしたい」

「…っ」


ネットリした…蜘蛛の糸が絡みつく様な

この人の持つ雰囲気か何かが、気持ち悪いっ


「月影さ〜ん?どこですか〜?」

「おっと、呼ばれているね。ではまたの機会に」


月影さんが去って、無意識に止めてた息を吐き出す

 


落ち着いた頃


“紫音“

”姉さん?今どこ?“

”バルコニー、けど来ないで“

”え、蓮も探してるよ?今どこに行ってるか分かんないけど“

”…“

”姉さん?“

”紫音、先に帰るってお父さん達に言っておいて“

”え?あ、うん。なら俺も帰るから待ってて”

“…分かった”


紫音が来て、私の様子を察してくれる


「後は父さん達がやってくれる、蓮にも…帰るってだけ言っといた」

「…ん」


紫音を支えに立ち上がり《テレポート》する

 

自室に帰ったと思ったら気が緩み、体の力が抜け紫音に凭れる


「!? 姉さんっ」


紫音が座り、私は紫音の服をギュッと掴む


「姉さん、蓮と何があったの」


蓮とは、何も


「何も…、蓮とは何も無かった」

「何もって「ホントに蓮とは…何も無かったの」」

 

 

紫音side

姉さんは俺の胸元に顔を埋め、震えながらギュッと服を掴む

一体何が…

蓮とは何も無かった、…蓮とは?


「バルコニーで誰と居たの?」

「…神崎、修二さん」


神崎修二、神崎家当主になった人か


「姉さん、今ここには俺しか居ない

 少しでもいい、話して?

 俺がずっと側にいるから」

 

 

「…。…、私、神崎さんを拒めなかった…っ

 力を使おうと思ったけど、あそこには沢山の人が居た

 あんなとこで使ったら、また…っ」


《バケモノッ》


「もうっ…、バケモノなんて言われたくないっ」

「!?」

「それに…」


『俺の機嫌次第で桜井を堕とせる』

『お前の事を皆に悪く言えば、桜井家はどうなると思う?

 ああ、恋人には話さない方がいいかもな?

 ソイツが俺に手を出したら、それこそ…』


「…っ汚ぇ手を使いやがって…!」

「紫音っ、私の所為で、紫音を…皆を巻き込みたくない…っ」

「…っ」


姉さんを力強く抱き締める

ふと姉さんの首を見ると、赤いキズが

…蓮はコレを見たのか

ネックレスを手に取り、そこに翳す

前は《ヒュプノ》の効果しかなかったけど、姉さんが《ヒール(治癒》を加えてくれてる

一瞬でソレは綺麗に消えた

 

「…でもね」


少し離れた姉さんの手には赤い光が


「私は人には出来ない事が出来る

 どんな怪我でも治せるし、人の記憶を消せる

 都合の悪い事だって、簡単に忘れさせれる

 …蓮の言う通り」

「!ねえ「紫音、私は今まで周りからの目線や言葉を怖がってた。

 でもね、言われたくなくても、結局自分で思ったの」


姉さんはゆっくりと俺と目を合わせる


「私は、バケモノだって」

「!?」


涙を流す姉さんの目は何かを諦めた…光の無い目に変わっていた

 

 

眠ってる姉さんを抱き抱え、俺の部屋に

あんな目、表情…初めて見た


「もう、姉さんが苦しむのは見たくなかったんだけどな」


手をギュッと握る

怒りでどうにかなりそうだ

神崎もそうだけど…

蓮、もう…傷付けさせないって言ったよな?

姉さんをっ


「1人にしないって…!体にも、心にもっ…傷付けさせないって、言ったじゃねぇか…!!」

 


月影side

神崎栞とは、もう少し話をしたかったのに残念でしたね

ああ、彼女の本当の目を見たい

神崎栞…いや、ドール

アイツが何年も手元に置いておいた位だ

あの子の力は私にとって、有益になる

粘りに粘って、少しだけ力を貰ったがほんの少しだ

もっと…私には力が欲しい、あの人外の力がっ!