8…バケモノ(1)

蓮が私に背を向けて、離れていった

体の力が抜け、ズルズルと座り込む

何で、何で…こんな事に


「…何で」


カタカタと体が震え始め、床についてる手を目の前に上げる

最初から力を使えばよかった?

突然抱き締められたのも、キスされたのも

力を使ってでも、止めるべきだった

…でもまた、言われるかもしれない


『バケモノッ!』


震える体を抱き締める

そんな事になったら、家族が…っ

それが嫌で怖くて、使えなかった


「うっ…、ゴメン、蓮っ…」


蓮以外の人を拒むよりも

周囲に《恐怖の対象》としてみられたくない事を選んだ

 

『お前はいいよな。俺に言えない…どんなやましい事をしてたって

 力使って記憶を消せばバレねぇんだから』


最後に蓮が向けた…軽蔑の目


「…っ、いや…っ!」


違う、…違うっ

そんな事をしようとしたんじゃない…!

神崎さんに手を出さない様に《ヒュプノ》を掛けただけ

ガタガタと震えが増す

無理矢理力で抑え込むと、体がズキッと痛む


「っ!……はぁ」


脱力し、壁に凭れる

精神が不安定な状態で無理矢理使ったから、どっか傷付けたか

まあ、その内治る

力を使わなくても、今の私の体は人並以上に自然治癒が早い


「…」


周りを傷付けたくせに、自分の傷はさっさと治せる

こんなの、他人から言われなくても


「…正真正銘、バケモノだ」


頰に何かが伝うのを感じるけど、それを認識しようとはしなかった