25…私の過去(4)

「紫音?」

「蓮」

「何でここに、自分の部屋に戻ったんじゃなかったのか」

「…」

「雫は、寝てんのか」

「蓮、もう休みなよ」

「お前だって、休め」

「俺はもう少し、ここに居る」

「…さっき言ってたな。雫は大事な人だって、どういう意味だ」

「……蓮に関係ある?」

「あ?」


蓮、ゴメン


「雫は白狐の姫だけど、でも蓮の女じゃない。

    なら俺が雫をどう思ってても、蓮には関係無いよね?」

「んだと…。

    紫音、お前は俺と同じ様に、雫が栞に繋がってると感じた筈だ

    お前が本来のお前に戻ったのだって、雫が関係してんだろ?

    なあ、やっぱり雫は…ホントは「蓮」」

「それ以上は、止めた方がいい」

「…何でだ」

「それが、蓮の為だ」

「!」

 

 

蓮side


『蓮の為に』


どこかで聞いた言葉

いつ、どこで聞いた

思い出せねぇ…


「蓮が好きなのは、姉さんだ。雫じゃない」


紫音は俺から雫に視線を移す

その目には、愛おしさが


「…っ」


それ以上、その光景を見たくなくて部屋を出た

バタンッ

俺は自分の部屋に入りドアに凭れ、そのままズルズルと座り込む


「分かってるよ…分かってんだよ、…んな事」


雫は栞じゃない…分かってるっ、分かってんだ!

けど、あの二人を見てるとモヤモヤする

あの光景が目に焼き付いて離れない


『雫は、俺の大事な人だ』


「…っくそ!!」


ガンッと横の壁を叩き、クシャ…と髪を握る


「栞じゃない…アイツは、栞じゃ…ねぇ」


俺はそのまま、暫く立ち上がれずにいた

 


紫音side

蓮が出てった後

膝の上で拳をギュッと握り締め

蓮を追い掛けたい気持ちを必死に抑えつけていた


「蓮…っ」


ごめん、ごめんっ!

本当なら、全て話したい

雫が、姉さんだって真実を教えたい…っ

でも、姉さんには蓮の記憶が無いんだ

蓮がそれを知れば今よりももっと傷付く、蓮辛くなるだけだ

だからっ、姉さんの…蓮の為なんだ


「…っごめん…!」


翌日

姉さんは少しだけ元気になった

今は、ホテルから離れた所を散歩してる

今日は朝ご飯だけは皆と一緒に食べて、それぞれ自由行動するのが決まってた


「じゃあ僕は行きますね」

「俺も〜、出掛けてくる〜」


朔と春也が居なくなり、食事場所には俺と姉さんだけ

蓮は、部屋から出てこない

朔と春也が心配してたけど、寝不足だと話せば納得した

周りに誰も居ないのを確認して


「姉さん、どうする?」

「…誰も居ないとこに行きたい」


ホテルを出て、ふと蓮が居る部屋を見上げたら

俺と姉さんを見下ろしてた

これから、どうするかな


こうして、白狐の旅行が終わった