12…蓮への隠し事(1)

数日振りの登校

紫音には今まで通り《雫》と呼ばせる

誰にも私達が姉弟と気づかれない様に

 

 

紫音side

「姉さんが白狐の姫、…本当の事を皆に言えば偽りの姫じゃなくなるのにな…」


コンコン


「紫音?そろそろ行くよ」

「今行く」


蓮、ゴメン

俺だけ先に

でも、その分…俺が護るから


姉さんは学校まで車移動

俺のバイクでって最初思ったけど、変な噂が立つと面倒って事で却下

でも、少しでも姉さんと一緒にいたい

だから、姉さんと車で学校に行く事にした

車に乗ってから、姉さんはずっと目を瞑って俯いてる

寝てるのか


「姉さん」

「…」

「?  姉さん?」

「…」

「紫音、栞は今、《テレパシー(精神感応)》で恐らく楼に連絡してる。

    話し掛けても答えれねぇよ」

「テレパシーって…なんで楼さんに?  和士さんは見ただけで分かんの?」

「使ってるのを今まで沢山見てきた。なんで楼にかは、…今に分かる」


俯いてた姉さんがゆっくりと顔を上げて


「和士、今日会いに行く」

「分かった」

「会いに行くって、まさか…」


姉さんは俺に視線を向け


「桜井組組長桜井楼」

「!?」

「夜、空いてるって」

「い…今、楼さんと話してたの?」

「うん。だから、今日は倉庫に行かないでね」

「分かった」


学校に到着すれば、姉弟じゃない…白狐の幹部と姫

姉さんは元々、学力的には学校に行かなくていいレベルだと和士さんが言ってた

ハー●ード●学の最高難易度のテストを解けたらしい

それを聞いた時は、思考が止まった


昼休み

今の時間なら音楽室にいる

コンコン


「はい、どうぞ」

「失礼します」


音楽室に入れば、水沢先生がピアノを弾いてて

陽当たりの良いソファに姉さんが気持ち良さそうに横になってる


「え〜っと、君は…神谷君ね」

「俺も、居ていいですか」

「ええ、勿論」


姉さんがすぐに体を起こし、スペースを開けてくれる

腰を下ろすと姉さんは俺に寄り掛かり目を瞑る


「落ち着くね。なんだか子守唄みたい、懐かしい感じがする」

「…ふふ」

「?」

「この曲ね、お母さんが歌ってくれた子守唄なの」

「!…道理で」


音楽室を出て屋上に

空を見上げれば、鳥が風に乗って自由に飛んでる

横にいる姉さんを見ると、同じ様に鳥を見てる…いや、違う

羨ましそうな、悲しそうな、何かを…諦めてる様な

和士さんは言ってた


『恐らく、誘拐されてから自由は無かった。1人で何も無い部屋に居たらしい』


そして、こう例えてた


『今まで鳥籠で鎖に繋がれてた…鎖が解けても、飛びたくても、飛び方を忘れてるんだ

    植え付けられた恐怖が心と体を支配して動けないでいる。

    鳥を見てる時、いつも羨ましそうにしてるんだ

    聞いてみたんだ、鳥を見ながら何を思ってるのか』


『自由に飛べて良いねって…私は自由になる方法が分かんない。

    分かっても、私なんかが、自由なんて望んじゃいけない』


それを聞いて、俺は誓った

これ以上、姉さんを苦しめさせない

何があっても側から離れない

思わず姉さんを抱き締める


「紫音?」

「姉さん…」

「紫音、ここでは雫って「今なら誰にも聞かれない」

「…」

「俺が…俺が姉さんを護るから。俺が姉さんを自由にする」

「紫音」

「もう、絶対に離れない…っ」


ギュッと抱き締めると、姉さんも俺の背中に手を回してくれる