51…皆と一緒に

あれから数日経った

私は今まで住んでいた家から、あの家に…我が家に戻った

勿論、紫音も

蓮に一緒に住めって何度も言われたけど…

あの家には悲しい出来事があったけど、楽しかった思い出もある


戻ってこれたのは良かったけど、メンドくさい事が


「神崎さん!あの誘拐事件から約10年経ち、戻ってこられた今の感想は!?」


マスコミだ

家の周りや学校にマスコミが、あれから毎日の様に集まってる

学校で神崎を名乗り始めたから、生徒達からどんどん広まったらしい


「誘拐されてから、どんな生活をしてきたんでしょうか!?」

「誘拐犯は何人いたんでしょうか!?一緒にいたんですか!?」

「どうやって逃げてきたんですか!?」

「学校では偽名を名乗っていたそうですが、何故ですか!?」

「ご家族とはどんな話をしてるんですか!?」

「神崎さん!顔を見せて下さい!」


…メンドくさ

もう何分経っただろ、朝早くから迷惑な

今日は平日、当然学校がある

前までは蓮とバイクで行ってたけど、コレに巻き込みたくなくて

気配でいるのは分かってたけど、蓮や紫音を巻き込むよりかはマシだと考え

こうなった

紫音や隣の蓮達はまだ寝てる

こんなので起こしたくないから、《サイコキネシス(念動)》でシールドを家の周りに覆い

騒音が聞こえない様にしてる

で、何故力を使わずに学校に行こうとして、こんな事になってるか

和士から


『高校を卒業するまでは、登下校中も力は使うな。

    普通の女子高校生として学校生活を楽しめ』


そう、言われたから

《テレポート》とか使えれば、楽なのに

マスコミの前でずっと黙ってると


「まさか、何か喋りたくない事をやってたんですか?」


何でそういう発想にいくかな


「誘拐されてから、何をしてたんですか!?」


…言える訳ない


「何で何も答えてくれないんですか!?」


マスコミが何か情報を得ようと前のめりに聞いてくる

…そろそろ、ヤバい

最近は何とか、他人に体が震えない様に努力してる

でも、ここまでやられると

顔を俯き、自身を抱き締める様に腕をギュッと掴んだ時だ


「コイツ(姉さん)から離れろ」


横と後ろから声が

すると肩に手を置かれ、グイッと横に引き寄せられた


「れ…蓮」

「姉さん」


紫音が反対側に来てくれた


「紫音…」


紫音がマスコミの前に姿を見せるなんて


「何で、二人とも…」


シールドで、まだ寝てる筈

蓮と紫音は、マスコミに聞こえない声で


「指輪(ネックレス)のお陰だ(よ)」

「え?」

「コレには、栞の力がある。ソレが働いて目が覚めた」

「俺もだよ」


そんな力

まるで、理子の《アンチ・サイキックアビリティ(超能力の無効化)》だ


「俺等の想いが、力に変化を加えたのかもな?」

「想い?」


蓮と紫音が私を庇う様にマスコミの間に入る


「君は神崎さんの弟かな?お姉さんが戻ってきて、今の気持ちは?」

「そちらは、もしかして彼氏かな?詳しく話を聞かせてもらえないかなぁ?」

「「煩ぇ、黙れ」」

「え…」

「いつまで姉さんに付き纏うつもりだ」

「アンタ等、コイツに迷惑掛けてる自覚無ぇのかよ」

「付き纏うなんて、私達はただ誘拐事件の真実を教えてほしいだけなんだよ」

「そうそう、誘拐された子が無事に戻ってきたんだよ?

    あの事件が解決したと世の中の人に知ってもらいだろ?」

「別に、世の中に知ってほしいなんて思わない」

「俺等はただ、コイツと一緒にいたいだけだ。世の中なんて知るか」

「でも、真実を知りたいと思わないかい?誘拐されてから、どんな生活だったとか」

 

 

蓮side

マスコミの言葉で、後ろにいる栞がビクッと肩を震わせる

もう、コイツに…過去を思い出させたくない

栞は、苦しみを乗り越えたんだ

コイツの人生は、これからなんだ

他人が興味本位で、栞の心をかき回すんじゃねぇよ


「コイツがどんな生活を送ってきたとかなんて、何で他人に話す必要がある」

「話したくないのに…根掘り葉掘り聞いて、

    世の中の目を惹きつける為だけにオーバーな記事にして

    自分達の利益しか考えないアンタ達に、そんなアンタ達が一番…」

「同情したフリして、散々付け回して

    アンタ等が一番、コイツを…コイツの心を…」

「「傷付けてるのが…まだ分かんねぇのかっ!!!!」」

 

 

蓮、紫音…ありがとう

マスコミは、二人に気圧され押し黙る

ギュッと二人の服を掴み、涙を流す


「二人とも、それくらいにしとけ」

「兄貴(楼さん)」


楼…

近寄ってきて、私の肩にポンと手を乗せる


「コイツ等の言う通りだ。アンタ等、いつまでやってるつもりだ?」

「で、ですが…、我々の仕事は、世の中に真実を伝える事でして…」

「真実だぁ?」


楼がマスコミに睨みを効かす


「色んな奴に聞くだけ聞いて、嘘かもしれない話でも本当の様に記事にして

    本人がソレでどれだけ辛い、苦しい思いをしてんのかも知らずに

    何が真実を伝える仕事だ、俺等からすれば…詐欺師だ」

「!!…なっ!」

「これでもまだ、コイツに聞きてぇなら俺が聞いてやる。

    蓮、紫音、栞と家に入れ」

 

 

蓮side

兄貴がマスコミを対応してくれてる間に、俺んちに紫音と栞を連れて行く

玄関を閉めれば、栞が膝から崩れて座り込む


「「栞(姉さん)!?」」

「…っ、ごめん」

「何で謝んだ」

「二人を、あんなのに巻き込んだ」

「姉さんが謝る事無いよ」

「紫音の言う通りだ、お前が謝る必要は無い」

「…っ、ありがとう」

「栞、提案がある」

「何?」

「もう、うちに住め」

「「!?」」

「あの家で過ごしたいのは分かってる。

    でも、時々不安になる。

    少しでも離れてると、お前がまた…いなくなりそうで、怖えんだ」

「…」

「勿論、紫音も一緒に住めよ」

「…え?」

「え?じゃねぇよ。もう離れないって約束したんだろ?

    栞とここで一緒に居ろよ」

「…姉さんは、どうする?」

「紫音は?」

「俺じゃなくて、姉さんがどうしたいか

    姉さんの答えを聞かせて?」

 

 

蓮と紫音を交互に見る


「私が決めて…いいの?」

「「ああ(うん)。お前(姉さん)が、自分の意志で決めろ(て)」」

  

私は、私は…


「ここで、蓮と…紫音と、一緒にいたい。二人の側にっ」

「話は纏まったか?」


外から楼が


「兄貴、連中は?」

「もういない、今後も大丈夫だ」

「ホントかよ?」

「俺を誰だと思ってやがる」


楼がニヤッと口角を上げる


「…で、栞と紫音はどうすんだ?一緒に住むのか?」


答えは分かりきってる様で、ニヤニヤと聞いてくる

私と紫音は顔を見合わせ


「「うん(はい)!」」


それからは本当にマスコミがいなくなった

平穏な日々が訪れる