新たな家族(1)

「…、!」

「この!…っ!」


自分に降り掛かる罵声と、容赦無く痛め付けられる体

何でこんな事になってるか…、仕事が失敗したからだ

まあ仕事が上手くいっても、コイツの機嫌が悪ければ八つ当たりされる

こんな事が俺にとっては当たり前の日常で

こんな奴等でも、いないと俺が生きていけない

だから今日も、いつ終わるか分からない暴力に耐えないといけない


「ったく、あぁ〜っ!!苛つくぜ。おいクソガキ、今日が何の日か分かってるよな?

 さっさと取ってこい」


奴…ドグはそれだけ言うと、目の前から消える

あぁ、やっと終わった

体中に走る痛みを我慢して、ゆっくりと起き上がる

奴の所為で汚れた服、…いや、元から汚れてるか

軽く叩いて、側にある桶の溜まってる水に顔を映す

泥だらけ、殴られたから頬が赤い…、口から血も出てる


「…俺は……、」


俺はいつまで、

ギリッ…と歯を噛み締める

水を飲んで喉を潤すが、俺にはこれだけじゃ足りない

こんなただの水じゃ…っ

早く取ってきて、ドグにアレを貰わないと

アイツに投げ捨てられた布を頭から被り、外に出る

周りを見渡せば、能天気に目の前を歩く人間共


「…ッチ」


俺がこんな思いしてんのに…、お前等はっ…!

ドクンッ!


「…っ、…ぅ…」


怪我とは別の痛みが体に走る


「くそっ…」


早く…っ、早く取ってこねぇと…っ!

 

 

今日は1日、クエストには行かずにのんびり過ごそうと街中を歩く

ここにも大分慣れてきた


「シオリちゃん!良かったらコレ買ってかない?」


最近では屋台の人に、よく声を掛けられる


「うん、買う」

「はいよ!今日は仕事はお休みかい?」

「うん たまにはゆっくりしようかなって」

「うん!休む事は大事だ!

 あ!そうだ!

 今日入荷したてのとびっきりの果物があるんだけど、どうだい?」

「とびっきり?」

「どんな果物なんですか?」


蓮と紫音が問い掛ける


「コレさぁ!」


オバさんが店頭に出してる果物を指差す


「滅多に市場に出ないんだけどね〜、今年はコイツの育つ条件が良くてね!

 珍しくて思わず大量に仕入れちまってさ!

 でもねぇ、値がはるから、なかなか買ってくれるお客さんがいなくてねぇ

 このままじゃ赤字なんだよ!」


確かに、少し高めかな…

まあお金は稼いでるし、大量に買ってもすぐに皆で食べるし

2人を見るとニコッと頷く


「じゃあ、いくつか」

「良ければ全部持っていきなよ!」

「ぜっ!?」

「全部!?」

「他の客を待って、結局残って腐らせるのも嫌だし

 だったら買ってくれるお客さんに全部売る方が、こっちとしては助かるよ!」


結局、珍しい果物…ネオを全部買った


「毎度〜!」


オバさんに手を振って

3人で紙袋一杯に入ったネオを持って歩く


「そういえば、コレはどんな味がすんだろうな?」

「…」

「勢いで買ったけど、どうなんだろうね」

〔美味だぞ〕


隣を歩くラルフ


「ラルフは食べた事あるんだ」

〔はい ネオは様々な気候条件が合わないと育たない希少なモノなのです

 それをこんなに大量に…、食べるのが楽しみです!〕

「お前、栞の魔力だけを糧にしてるんじゃなかったか?」

〔それだけしか要らぬ訳ではない

 主と繋がりを持つ前には、果実を食して生きていたのだからな〕

「丁度昼だし、どこかで食べよっか」

 

 

?side

ドグに取ってこいと言われたのは、今日入荷する珍しい果物…ネオだ

市場ではただの高級品としてしか扱われないが

闇市では、ある特性を理由に破格の値段で取引される

今夜その取引があるから、絶対に手に入れなきゃいけない

でなきゃ今度こそ…っ


市場の中でも一番多くの果物を扱う店に行き

遠くから様子を見ると


「!?」


店頭に出されてる筈のネオが一個も無い


「…っ、何で…」


店の前に出れば


「いらっしゃい」

「オバさん!今日はあのネオが出てる筈だろ!?」

「アレはもう売り切れたよ」

「なっ…、確か大量に仕入れたんだろ!?

 あんな高いのすぐに売れるかよっ!?」

「それが売れたのさぁ、すまないねぇ

 でも何で大量に仕入れたのを知ってんだい?」

「!…、それは…」


下手な事を言う前に急いでその場から離れる


「クソ…ッ、クソッ!」


まさか一個も無いなんてっ…!

事前にドグの仲間が、あの店が大量に仕入れたと情報を掴んでた

そん中から幾つか盗ってもどうせバレねぇ

だからすぐに終わらせて、アレを貰う筈だったのに…っ!

走りながら周囲を見渡し、ネオを買った奴を探す

ドクンッ…ドクンッ…!

体に痛みが走る

早く…っ、早く見つけねぇと!

市場を抜け、色んな場所を行く中

人気の無い休憩所に、3人

男が2人と、狼?の仮面を付けてフードを被ってる…女か?

茂みに隠れ、様子を見ると

奴等の手にはネオが


「! アイツ等か…!」


腰に付けてる短剣を抜くと


「おい さっさと出てこい」

「!?」


ば…っ、バレてる!?

クソッ!しょうがねぇっ!

短剣を握り締めて茂みから出る

 

 

紫音side

人気の無い休憩所に行き、ネオを袋から取り出すと


「…」

「姉さん?」


姉さんがどこかに意識を向けてる

蓮を見れば、横目で茂みを見てる

集中すると、確かに…、小さい気配が1つ

しかも…、こっちに敵意を向けてる


「おい さっさと出てこい」


すると、茂みから短剣を持つ子供が

布で顔を隠してるけど、全身がボロボロで少し震えてる


「何の用だ?」


子供は震えながらも、ジリ…ジリ…と近付いてくる


「…れを、寄越せ」

「あ?」

「ソレをっ…、ネオを寄越せ!」


剣で脅す程、コレは珍しいモノなのか?


「…別にそんな事しなくても、やるよ」


蓮はネオを持ち、子供の元に

腰を下ろし、ネオを差し出す


「ほら」

 

子供はソレをおずおずと受け取ろうとするが、手をギュッと握り


「1個じゃ駄目だ」

「あ?」

「大量にいるんだ!じゃないと奴に殺される!」

「「!?」」

「…」


子供はハッと口を手で塞ぐ


「おい、どういう事だ」


子供は震える手で、また剣を蓮に向ける


「うっ…煩い!いいからもっと寄越せっ!!」


その時、ブワッと強風が

子供が被ってる布が宙に舞う


「「「!?」」」


人間じゃない

青い髪に黄色の目、魚のヒレみたいな耳

顔の所々に鱗が

この子は…

SSクエスト(4)

ラーガside

翌日

結構な人数が集まった


「準備はいいな?」


魔法を発動して、一気に目的地まで移動する


「よし、ここからはお前等、黙って見てろ

 チビ、行ってこい」


全員の視線がチビに向く

チビはいつも連れてる犬をレンとシオンの側に行かせ

臆する事無く、スタスタと魔物の住処へと進んでいく

すると

巨体の魔物がゾロゾロと色んな所から現れ

チビの前に立ちはだかる


「フン…、お手並み拝見しようじゃねぇか」


ロギアが手を組んで舐め切った態度でチビを見る

他の奴等も同じだ

ふと、レンとシオンを見ると

2人は目を合わせ、お互いに頷く


「姉さん」

「お前の力、見せてやれ」


魔物が一斉にチビに飛び掛かると、ズバッと全部の首がはねた


「「「…え?」」」


ロギア達は唖然とする

その間にも魔物が出てきて、チビに襲い掛かる

今度は打撃で倒してる


「お…、おい、打撃だけで倒してんのか?」


ロギアが言葉を漏らす中


「ねえ、あの魔物って、本当に魔法が効かない奴なの?」

「キエラ、どういう事?」

「だから、あの依頼書は本物だけど

 今あの女が相手してる魔物は全く違う奴じゃないのかって事よ!

 じゃなければあんな女が倒せてる筈が無いわ!」

「! そっか!」

「なるほどな!キエラ!

 だからあんなに簡単に倒せてんのか!」

「…」


コイツ等、俺がいるって事忘れてねぇか?

よくもそんな事を俺の前で言えるもんだ

その間にもチビは魔物を倒していく

すると

チビが勢いよく振り返り


「ラーガッ!」


瞬間

後ろの地面から魔物が


「ッハ!こんな弱っちい魔物、俺が倒してやるよ!」


ロギアが属性魔法を放つ


「! よせロギア!」

 

攻撃は当たったが、霧の様に消える


「…は?」


ロギアが茫然としてる間にも魔物は鋭利な爪で襲ってくる


「何やってる馬鹿がっ!避けろっ!!」

「ロギア!」


ロギアの前にルトが属性魔法のシールドを発動する

…が

爪が当たった瞬間、シールドが霧の様に消える


「!?…な…っ!?」


そのまま爪が2人を薙ぎ倒し、ドゴンッ!と岩に叩きつけられた


「ロギア!?ルト!?」


キエラが2人に近寄り、魔物と対峙する


「よくも2人をっ!!」


属性魔法を放つが、…無意味だ


「!? な、何でっ…!何で魔法が効かないのよ!?」

「お前等馬鹿か」


とりあえず、魔物は倒す


「ラーガ!?」

「属性を無効化出来る魔物だって最初から言ってんだろ」

「そんなっ…、こんな魔物、あの女に用意したニセモノじゃ…っ!?」

「だったら魔法が効かないのは何でだよ」

「…っ!今のには効かなかっただけで!あの女が戦ってる奴等には効いてるんでしょっ!?

 さっきあの女はラーガを呼んだわ!

 ソレを合図にラーガが強い魔物を召喚したんでしょ!?」

「…」

「いいから早く助けてよぉっ!!」

「…、はぁ…。お前、属性魔法が効かない魔物の事、何も知らねぇのか?」

「え…」

「他もよく聞け

 属性魔法が効かない魔物の攻撃でやられると、同様に属性魔法での治癒は効かない」

「「「!?」」」

「何でコイツ等の討伐が色んな所に回りに回ってると思ってる

 属性魔法が効かない、傷を負っても治癒出来ない

 ついでに言うと、アイツ等は致死性の毒を持ってる」

「「「!?」」」

「そんな厄介な魔物だから、今まで達成出来た奴が1人もいねぇんだよ」

「じゃ、じゃあ…っ」

「俺達は…っ、死ぬんですか…!?」


ロギアとルトが震える

…、一旦コイツ等だけでもギルドに帰らせるか


「大丈夫だ」

「!?」

「レン!?何が大丈夫なんだよ!?」

「姉さんなら治せる」

「! 何でチビが治せんだよ!?」


コイツ等が焦ってる中、レンとシオンは落ち着いてる

試験の時からそうだ

3人共、どんな魔物が相手でも冷静に戦いを見てる

お互いがお互いを信頼してるんだ

そして、今回で俺ん中の疑惑が確信になった

何で試験の時、チビの攻撃だけ色が見えなかったのか…


「お前等いい加減大人しく黙って見てろ、死ぬぞ」

「「…っ」」


そうこうしてる内にチビは魔物を倒していく


…にしても、俺達に迫る魔物まで気付いて俺を叫んだ

あの魔物は気配を消すのにも長けてる

俺でさえ分からなかった魔物の位置を、チビは把握出来た

 

「にしても、SSランクを貰ってんのに時間掛かり過ぎじゃねぇか?」

「だよな?魔物が強いとはいえ、こんだけ掛かるのはやっぱり弱いからじゃねぇのか?」


ブツブツ文句を言ってる奴等が俺を見る


「アンタがまた力貸してんじゃねぇの?」

「その為に付いてきたんじゃねぇのか?」

「…、はぁ…」


思わず溜息が出る


「ここまで来といて、まだそんな事言ってんのか

 っつうか、時間掛かってんのは俺が頼んだ事で

 お前等の為にしてもらってんだぞ?」

「「「え?」」」

「チビは、恐らくあの魔物でもすぐに討伐出来る

 だが、それだけじゃお前等は納得しねぇだろ

 だから予め言っておいたんだ

 コレは見せる為の討伐だから、わざと時間を掛けろとな」


チビの周りには何十体もの魔物が倒れてる

残る魔物は、あと1体

唸り声を上げて襲い掛かるが

チビは緑の魔力を纏い、風の速さで魔物の後ろに移動し跳躍する

魔物が振り向いた瞬間、ドゴッ!と踵落としを喰らわした

その一撃で魔物は倒れ、チビは軽い足取りで巣に手を翳す

すると、巣はどんどん塵になっていく

魔物にも翳せば、同様に

数秒後には、何も無い更地に

周りが唖然とする中、チビが戻ってくる


「ご苦労だったな」

「流石にあれだけの数は疲れたんで、もう帰りたいんですけど…」


疲れたっつって、息切れすらしてねぇじゃねぇか


「その前に、アイツ等…」


ロギア達を指差し


「お前なら治せるんだろ?」

「…はぁ」


面倒くさそうな溜息を吐きながらギルダ達の元へ

チビが目の前まで行くと


「お、お前なんかに…っ、治せんのかよっ…!?」

「君に診てもらう位なら、ちゃんとした医者の所に行くよ…っ」

「そうよ!2人はああ言ったけど、治癒なんて出来ないんでしょ!

 ラーガ!さっさとギルドに戻してよ!」


いつまでも文句を言うギルダ達を前にチビは俺に顔を向ける

口しか見えねぇが、苛ついてんな


「はぁ…」


仕方無い

チビの側に寄り、ロギア達と周りを見渡す


「お前等、いい加減にしろ

 コイツの実力は分かっただろ

 レンとシオンに護られる様な弱い奴じゃねぇ

 SSクエストを…、

 色んな所をたらい回しにされてた厄介なクエストを

 お前等の目の前で、1人で終わらせたんだ

 正真正銘、SSランクの称号を与えるに値する実力者だ

 これでもまだ疑うか?」

「「「…」」」

「チビ、とにかくコイツ等治してやってくれ

 本当に死んじまう」

「…」


チビがロギア達に手を翳すと、傷はみるみる内に治っていく


「おい (体の)内側見れる奴いるか?」

「あ、はい!私出来ます!」

「毒が残ってないか見ろ」

「はい!」


1人にロギア達を見てもらうと


「…っ、ありません。一欠片も…っ!」

「よし 治癒も出来るって分かったな

 お前等、コレで納得しただろ」

「「「…」」」

「とりあえず、ギルド戻るぞ」


ギルドに戻ると


「! 帰ってきた!」

「クエストはどうなったんだ!?」


ここでも煩いな


「クエストは完了だ

 チビだけで魔物は倒した、疑う余地は無ぇ

 連れてった奴等が証人だ」

「「おぉ〜!!」」


周りが興奮してる中


「…、何でよ」


キルアが怒りの表情だ


「何でアンタが!こんな女にそこまで肩入れすんのよ!?」

「………、は?」


コイツは何を言ってる


「だってそうでしょ!?

 アンタは最初からこの女を庇ってばっかりじゃない!」

「庇う?」

「この女の事を言えば、必ず反論するじゃない!」

「反論っつうか、お前等がコイツを疑うから本当の事を言っただけだろ

 それに、分かってんのかお前等

 コイツに文句を言うってのは、試験官である俺に言ってんのと同じだぞ?

 俺の試験に不正があったっつうんだから、やってねぇって言うのは当たり前だろ

 あの魔法陣は俺が丹精込めて作った力作だ

 外から手助けなんかさせるかよ」

「「…」」

「SSクエストの中でも難解なのを1人で達成したんだ

 いい加減、コイツの見方を改めろ」


ロギア達はまだ納得出来ねぇらしく、舌打ちしながら出て行く

他の奴等もバラけ

俺も一息着こうとすると、クイ…と裾を引っ張られる

見れば、チビが


「…、色々と、迷惑を掛けました」

「…ッフ」


チビの頭を撫でる

ビクッとされたが、気にせず


「お前こそ、大変だったな」

「…、でも何で」

「あ?」

「何で試験でSSランクにしたんですか?

 実際、魔物を倒した時、貴方にも私の魔法は見えてなかった筈」

「どんな魔法を使おうが関係無ぇよ

 試験官である俺の前で、SSランクに該当する魔物を倒した

 それだけで称号を与えるには十分だ」

「ふ〜ん」

「ふ〜んてなぁ…、

 そもそもバジリスクの目で石化しない奴なんて普通いねぇぞ」

「そうですか」

「…、やっぱ、お前もそうだが…、3人共並の強さじゃねぇな」

「それはどうも。じゃ、疲れたので帰ります」

「おう」


チビはレンとシオンと共にギルドを出て行く

これからも色々とありそうだが、アイツ等なら何とかなるだろ


それにしても…、

まさか本当に《無属性魔法》を使えるとはな

アレは、何年も前に失われた《ロストマジック(失われた魔法)》と言われてる

属性魔法や魔物に対し、絶対的な攻撃力と防御力を持つ

今回は緑…風の魔法が見えた、チビは属性魔法も使える

そして、あの戦闘慣れ…


「…、反則級だな。SSランクさえ低いくらいだ…」

 

 

ちなみに、今回の討伐で荒れた自然は

ゼルファにお願いして、全員がギルドに戻った後に元に戻してもらった

SSクエスト(3)

翌日

ギルドに行き、クエストボードを確認する


「次はコレにしようぜ」

「ん」

「了解」


蓮が依頼書をボードから取り、ミルデのとこに行くと


「なあ…」


後ろから男の人の声が

振り返れば、大きい男の人と後ろに女の人と細っそりした男の人が


「何だ?ロギア」

「レン、それにシオン、お前等2人…俺等のパーティーに入らねぇか?」

「「……、は?」」

「…」


呆然としてる2人

ロギアという男は、私を見て


「お前、シオリ?だったか?

 テメェみたいな弱いチビはさっさと家に帰んな」

「そうよ!アンタみたいなのはギルドにいるのが間違ってんのよ!

 生意気に犬なんて連れちゃって!

 アンタは街で犬と散歩しとけばいいのよ!」

〔ヴゥゥ…ッ〕

「ラルフ、落ち着いて…」

「ロギアとキエラの言う通りだよ

 レンとシオンの迷惑なんだから、早くここから出ていきな」

「!?」

「おいっ!何言ってんだっ!?」


紫音と蓮が驚き、反論する


「お前等だってクエストに行く度に、こんな足手纏いがいて迷惑だろ?

 でも優しいから引き離さない

 だから代わりに言ってやってんだぜ?」

「…っ何、勝手な事言って…っ!」

「私が足手纏い?」


ロギアが私を見下ろす


「ああ 分かったなら2人、いや…、俺等の前から消えろ」


キッと威嚇される


「…何で私が弱いって決めつけてる」


ロギアはフンッと鼻で笑い


「テメェは実地試験の時、何もせずに魔物を倒してた

 大方…、2人が助けてたんだろ」

「試験は外部と遮断される魔法陣の中でやってた

 なのに、外部からの手助けで私が勝てたと…、そう言ってるのか?」

「そうだよ、それだよっ!

 普通外部から遮断される筈だ!

 それをラーガに贔屓してもらって助けれる様にしたんだろっ!?

 じゃなければテメェみたいな奴がSSランクになんかなれる筈がねぇんだよっ!!!」

「ロギアッ…テメェッいい加減にしやがれっ!!」

「姉さんがそんな事したって、本気で言ってんのかっ!!!」

「お前等こそっ!いい加減コイツを庇うのは止めろっ!!」


蓮がロギアに掴み掛かる


「レンとシオンが強いのは分かってるよ

 でもこの人は試験の時、何もしてないじゃないか

 いや…、何も出来なかったんだよ

 それなのに合格って、助けてもらったって事だろ」

「ルトッ!お前まで!」


ルトという男に紫音が掴み掛かる

女は怒りの表情で私に近寄り


「どうせ2人はアンタに頼まれて仕方無くやったんでしょ!?

 ラーガだって!

 アンタみたいなチビを死なせるのが可哀想だから手を抜いてやったんでしょ!?

 全部仕組んだ事なんでしょ!?

 どうせアンタは2人がいなくちゃ何にも出来ない、か弱い女なんでしょ!!

 何にも出来ないクセにSSランクなんかに…っ!

 私達のギルドに入ってくんじゃないわよ!」

「…」

「…っアンタ!さっきから何にも喋んないでっ!おちょくってんのっ!!??」


女が手を振り上げた瞬間


「何やってる」


奥からラーガが


「ラーガッ!アンタには失望したぜ!」

「あ?」

「アンタはコイツに頼まれて、こんな弱っちい奴をSSランクにしたんだろっ!?」

「…何を言ってる」

「とぼけないで!この女を贔屓した事は分かってるんだから!!」


ラーガは私を見る


「お前は?」

「…は?」

「この状況をどう思う」

「…、勘違いされて騒がれて面倒臭い」

「…フッ、そうか。…ミルデ」

「はい」

「あのクエストを持ってこい」

「え…」


ミルデが戸惑ってる

ラーガはミルデに目を合わせ


「いいから…、持ってこい」

「…はい」


ミルデが奥に消える

ラーガがロギアと周りを見渡し


「コイツが試験の時に贔屓されてたって思う奴が他にもいれば出てこい」


騒つく中、数人が出てくる


「要はお前等は、コイツの試験結果を疑い

 SSクエストもレンやシオンだけがやって、おこぼれを貰ってるだけだと

 そう思ってる訳だな?」

「…、だって、あんなのおかしいじゃないですか!

 実際試験の時、何もしてなかった!」

「SSクエストを無傷で終わらせて帰ってくるなんて!

 2人なら分かりますけど、どうせこの女はただ護られてるだけですよ!?」

「…お前等、本気でそう思ってんのか?」

「それが事実でしょうっ!?」

「…、…はぁ」


ミルデが出てくる


「ラーガ」

「おう」


ミルデからラーガに渡されたのは、依頼書

大分古そうな紙に、SSクエスト…しかも属性魔法が無効化出来る魔物の討伐とある


「おいアレって…っ!?」

「確か、出来る奴がいねぇから他所に回された、あのクエストか!?」

 

ザワザワと煩い


「このクエスト、コイツ等を連れてお前だけ戦え」

「「「!?」」」


周りが驚いてる中


「分かった」


依頼書を受け取る

魔物と、巣の殲滅


「魔物が住む一帯は、ソレ以外何も無ぇ

 だから、遠慮無くやっていい」

「…分かった」

「それと、…、」

「…了解」

「場所までは俺が全員連れてってやる

 チビに文句がある奴は明日、必ず来い」

SSクエスト(2)

それからも

私達はSSランクのクエストを日々こなしてる

集団で来たり囲まれたりと

色んな戦闘スタイルを強いられるけど、腕を上げるには丁度良い

私達が戦ってる間、ゼルファに動物が巻き込まれない様に安全な所に誘導し護ってもらう


ギルドに報告しに戻れば

ワイワイと賑やかな音と声が


「お!お前等、もう帰ってきたのか!早ぇな!!」

「早くこっちに来いよ!」

「「お〜」」


蓮と紫音はすぐにここの人達と仲良くなった


「報告は任せて」

「え?」

「でも…」

「ミルデに言うだけだから

 早く、呼ばれてるよ?」


ミルデとは、ここの受付嬢だ


「おう」

「行ってくる」

「ん」


2人が騒いでる中に行くのを見届けて

私はミルデの元へ


「ミルデ」

「おかえりなさい」

「ただいま」

「今回も早かったわね」

「ん 被害も「出てないのよね♪」」


ミルデによると、平気で建物を破壊する人とかがいるらしい

そうじゃなくても自然や動物、一般人に被害が及ばない様に討伐をするのは大変らしい

そんな中、SSクエストで被害を全く出さずに遂行するっていうのは

依頼人含め運営側にとっては、とってもありがたい事…ってミルデが言ってた

実際を言えば、修復出来てるだけで私達だって壊しちゃう時はある

自然なんかはゼルファの力があってこそだから、話さずにいる


「ミルデ、いつもの「はい、どうぞ♪」」


言葉を言い切る前に出されたのは

エストを終えてから必ず飲むミルクティー

最初はこっちの世界でもあるんだってビックリした


「ありがと」


カウンター席に腰を下ろし、ホッと一息つく


「ねえシオリ、少しだけでいいから…仮面、取ってくれない?」

「…何度言わせるの、ダメ」

「やっぱりダメか〜…」


ここに来てから色んな人が仮面を取ってと言ってくる

そういえば、ミルデが最初だったな


『ねぇ、何でいつもフードと仮面着けてるの?』


カウンター席に座ってたら

カウンターの内側に居るミルデが首を傾げてる


『…、』


蓮と紫音を横目で見る


『大切な人達を、護る為』

『…』


ミルデは少し考えた後


『…そっか。じゃあもう1つ質問!

 何で1人でここに居るの?』

『…』

『レンやシオンと一緒に、…皆と一緒に、…どう?』

『…』


私はミルデが分かる様に、微笑んで


『…ありがと』


ミルデは私が初めて見せる口元の表情に驚く

でもすぐに優しく微笑んで仕事に戻る


最初は、見た目で討伐は止めた方がいいと言われたけど

エストの受注と報告をしてる内に、今の感じになった

ミルデはお姉さん的存在で

あまり話したくない時とかは、深入りしないでくれる

蓮と紫音も、皆と話してても気に掛けてくれてて

無理に輪の中に入らせようとせず、静かに見守ってくれる


報告後はミルクティーを飲みながら、ギルドの書庫から借りてきた本を読む

ちなみにラルフは子犬サイズで私の腕の中で寝てる

何故、人の目がある所で堂々と寝てるのか

実はゼルファが


〔人間には動物を常に連れておる者もおる

 狼ではなく犬だと思われ、言われるのを耐えられれば、

 外で堂々とシオリの側におれるぞ?〕

〔…〕

『ラルフ、…どう?』

〔主の側にいられるのであれば、何にでも耐えられます〕


という訳で、家以外でも気兼ね無くラルフといられてる

 

 

紫音side

皆と話してると、離れてる席で複数人が姉さんをジッと見てる

でもそれは、良い視線なんかじゃない…

疑ってる様な…、警戒してる様な視線だ

ムカつくけど、誰にだって仲良く出来ない人はいる

姉さんも視線には気付いてるだろうけど、気にしてないし

だから俺も、気になるけど何もしない

俺が何かして姉さんに変な言い掛かり付けられても嫌だしね


もう少しで日が暮れるな、周りは帰り支度をしてる

俺と蓮も姉さんに近寄り


「そろそろ帰る?」

「ん」

「帰るかぁ」


ギルドを出て、市場で食材の買い足しをして

少し離れてる森の中に

進んでいけば、そこそこ大きなツリーハウスが

ここが俺達の新居だ


ステータスカードを貰った日に、ミルデさんに住める処も聞いたところ

ここを紹介された

昔、どこかの金持ちが別荘として建てたらしいけど

思った以上に夜の動物の鳴き声が煩かったらしく

こんなとこで寝れるかっ!って怒ったらしい…

取り壊すにも費用が掛かり、別荘として管理するのも面倒くさがって

結局そのまま放置したそうだ

ただ…、いつまででも新築同様にと

年月がいくら経とうが、人の手を加えずとも朽ちる事が無い様にと魔法が掛かってるらしい

その金持ちはもう亡くなってるし、ご家族からも好きに使ってくれとの事だ


正直、とても助かってる

必要な家具は揃ってるし、部屋が沢山ある

夜の動物の鳴き声は、何もしなくても解決した

何でも、ゼルファとラルフの気配で大人しくなってるらしい

ここなら人ともあまり出会わないし、何より静かで心地良い


そして

自然に囲まれてる場所で心が落ち着いてれば

仮面を取っても大丈夫だとゼルファが言ったから

だから…、ここは姉さんにとって心から安らげる場所になってる

俺と蓮は、その事に心から安堵した

SSクエスト(1)

ギルドに加入してから数日

今日は、ある資産家の保有する希少な鉱石を狙う魔物の討伐だ

土属性の魔物でそれ自体はそんなに厄介じゃないけど

資産家が、依頼を受けるならSSランクの者をって条件を出してて

何か少しでもミスれば大袈裟に文句を言う厄介な常連らしく

そんな誰もやりたがらないクエストをラーガに押し付けられた


鉱石は夜に一番魔力を発するらしく

その特別な魔力を求めて、魔物が夜な夜な現れるらしい

私達が受けるまでは、職人に頼んで魔力を抑え込む箱に入れてたそう

その鉱石は資産家が有する森でしか発掘出来ず、高級武具の製造には欠かせないモノらしく

どれだけ魔物が襲ってこようが、絶対に手放せないんだとか


夜になってから、討伐の為にわざと鉱石を外に出してもらい

魔物が来るのをじっと待つ

資産家の家の周りは殆どが森だから、あらゆる所から魔物や動物の鳴き声が聞こえる

家の正面はサノ国の街並みが見え魔物が現れる可能性は少ないから

蓮は家の後ろ側、紫音と私はそれぞれ横側に

サイコメトリー》で魔物の位置を特定し


“蓮、2時の方向…3体向かってくる”

“了解”

“紫音は正面から5体”

“オッケ〜”


意識を正面に向ければ


〔グルルルッ…!〕


唸り声を上げながら6体の魔物が


〔ガァァァァッ!!!〕


飛び掛かってくる魔物の動きを《サイコキネシス》でピタッ…と止める

額に少し触れて、住処を探る


…ここから数m先に洞窟らしきモノが、そこか


探りが終われば、首をはねて火で燃やす


「終わったぞ〜」

「俺も終わったよ」


蓮と紫音が魔物の一部を持って来る

ソレに触れて、同じ様に住処を探る


「ま、魔物は倒せたのかぁっ!?」


依頼主が窓から顔を覗かせてる


「はい もう大丈夫です

 今から住処に行ってくるので、鉱石をしまって下さい」


依頼主が慌しく鉱石をしまって家に入るのを見届けた後


「じゃ、行こっか」

「「おう(うん)」」


住処は4ヶ所

別々に討伐に向かい、あとの1ヶ所はゼルファが人型になって行ってくれた


洞窟の手前まで行くと、地中から複数の気配が

でも、襲ってこない


〔主、どう致しますか?〕

「入ってみようか」


試しに中に入れば、ボコッ!と次々と外の地面から魔物が出てくる


「…なるほど」


住処に入った者の退路を塞ぎつつ、奥からもゾロゾロと現れる

まさしく袋の鼠


「知性が無いに等しいけど、本能的にちゃんと学習はする訳だ」


ラルフが肩から降りてサイズを変える


〔ヴゥゥゥッ…〕


魔物は少し怯んでるけど、唸り声を上げながら次々と迫ってくる

伸びてくる数本の腕を掻い潜りながら《サイコキネシス》で切り落とす

ラルフも腕や首を嚙み千切る

後ろから風の斬撃を浴びせれば、叫ぶ間も無く首が落ちていく

すると、ザッザッザッ…と奥から駆けてくる足音が


「ラルフ」


ラルフがこっちに走ってくると同時に

壁に手を付け


《ソーン(棘)》


あらゆる所から土の棘が形成され、向かってくる魔物に深々と刺さっていく

洞窟内の魔物の気配が無くなり、外に出ると

気配がまだ地中に

…でも現れない


《エクサイメント(盛り上がり)》


地面がボコッボコッ!と盛り上がり、魔物を無理矢理出す

空中に投げ出された奴等の首を《サイコキネシス》ではね

ラルフも飛び掛かる

見渡す限りに魔物を倒し、気配を探る


〔ここ等の魔物は全て倒した様です〕

「みたいだね」


魔物を火で燃やし、棘だらけの洞窟や盛り上がったままの地面を元に戻す

ラルフに付いてる魔物の体液も綺麗に落とす


〔ありがとうございます〕


頰を舐める舌を擽ったいと思いながら、蓮と紫音とゼルファの状況を把握する


「他も片付いたみたいだから行こ」

〔はっ〕


蓮と紫音も、燃やしたり風化させたりして魔物を消していった

私が2人と合流する頃にはゼルファも合流した

後は傷付いた自然の修復だ

自然を治すには、ゼルファから貰った力を使うとより上手くいく

しかも、悪い魔物が寄り付かなくなるらしい

 

 

紫音side

俺達は少しだけ離れ、姉さんとゼルファが森の中心に立つ

姉さんが目を瞑り集中すると、白く光り始め

開いた目は、ゼルファと同じ竜の目に

顔や腕にスゥ…と鱗が現れ、爪まで竜化する

両腕を横に上げれば、上空に白く輝く魔法陣が

ソレからキラキラと光の粒が森に降り掛かり、討伐で傷付いた痕が治っていく

姉さんを見れば、肩で息をしてる


〔もうよいぞ、ご苦労だった〕


姉さんがゆっくりと腕を下ろせば、魔法陣が消える

蓮は姉さんの頭を撫で


「お疲れ、後は任せろ」

「…、ん」


姉さんが蓮に凭れ掛かると、すぐに寝息が聞こえる

蓮が抱き抱え、顔を覗けば次第に鱗が消えていく

ゼルファの力を使うのはコレが初めてじゃない

ゼルファを体に受け入れて、絆もあるから

暴走、なんて最悪な事にはならない

でも神竜の力を使うのは、精神や身体に思った以上に負担が掛かるらしく

最初の頃は少し竜化しただけで気配や五感が敏感になり過ぎて困ってたし

魔法を使うどころじゃなくなった

竜化を解いたら寝るというよりも気絶してた

ゼルファが付きっきりで指導してくれて

今ではさっきみたいに魔法が使えて、竜化を解いても気絶はしなくなった

姉さんは蓮に任せて

俺は依頼主とギルドに結果を報告しに行った

ギルド(2)

早速私達はギルドを探し、受付に

ラルフは私の中に入ってる


「ようこそ!魔導士ギルド《ワイプシュ》です!」

「すみません、登録したいんですけど」

「はい じゃあこの紙に名前と希望の実地試験を書いてね」


紙が渡され、それぞれ書いて出す


「はい …3人共、討伐でいいの?」

「はい」

「…、あの、フードを被ってる貴女」

「何ですか?」

「貴女も討伐でいいの?」

「…どういう意味ですか?」

「討伐は危険な試験よ、探索か採取がいんじゃない?」

「…」


私だけ、舐められてる?

まあ、蓮と紫音が身長が高いから

私は弱く見えるのか

…まあ、女ってのもあるか


「討伐以外は時間が掛かります

 …それに、見た目で判断しないでもらおうか」

「…っ」

「確かに」


横から声が


「討伐なら隣の部屋で出来る

 手っ取り早くて、一番危険な試験だ」

「…アンタは?」

「試験官のラーガだ、着いてこい」


着いて行った部屋に入ると、床に魔法陣が

試験官は魔法陣の内側に立つ

 

 

試験官 ラーガside


「どいつからでもいい、陣の内側に入れ

 この陣は被害を外に出さない様にする為のモノ、コレから出たら即失格だ」


3人が目を合わせると

髪に緑色が入ってる男がニコッと笑顔で


「じゃあ、俺からお願いします」


男は剣を抜くが、ブラン…と下げたまま

…何故構えない


「…おい」

「はい?」

「何故構えない」

「これが俺のスタイルなんで」

「…フン、そうか。なら行くぞ…」


手を床に翳せば、新しい陣が浮かび上がる

《サモンズマジック(召喚魔法)》


「アンデットドッグっ!」


勢いよく飛び出したのは、血が滴り落ちる黒い犬の魔物

魔物は牙を剥いて真っ直ぐに男に向かう

だが男は剣を構えず、突っ立ってるだけ

魔物が目前まで迫った瞬間

ザンッ!と音と共に男が移動し、勢いの余った首無しの体は陣の壁にぶつかった


「「「…え?」」」


周りはポカン…と茫然とする

ここに来るんなら、この程度は誰でも倒せる

それでも周りが茫然としてるのは、倒し方だ

構えてなかったのに、気付けば斬っていた

男は剣に付いた血を振り払い


「次は?」

「…いいだろう、次はコイツだ。ダークエルフッ!」


魔物は魔法を放つ

先程よりも早い攻撃、…どうする

男は変わらず構えずに、フッ…と姿を消し攻撃を避ける


「あれ!?アイツ何処行った!?」


周りが騒めく中

男は魔物の死角から、斬った


「えっ…いつの間に!?」


何の構えも無く、一瞬で移動しやがった…

男はゆっくりと元の位置に


「次は?」


ニコッと笑顔を見せる

…、余裕こきやがって…


「ならコイツはどうだ?ガーゴイルッ!」


次はゴブリンに翼が付いた様な魔物


「うわぁっ!」


周りが恐怖で逃げ惑う

…いや、陣があんだから、お前等がビビってんじゃねぇよ

男はというと

ニコッと笑顔のまんまだ

しかも、髪に赤色が入ってる奴とフードのチビ

試験開始直後から全く焦った様子も、今でなお…怯える様子も無い

お前等…


「コイツを前に、まだそんな顔が出来るのか」

「だって、コイツを倒さなきゃ受からせてもらえないんですよね?」

「…ふん、上等だ。そこまで余裕があるなら、見事に勝ってみせろっ!」


魔物は爪を立てて攻撃する

男が避け、床がドガンッ!と破壊される

男が剣で斬りつけるが、そんなのはコイツには効かねぇ


「ん〜、なら…」


男は攻撃を避けつつ、魔物の懐に入り込み

ズバッ!と切り裂いた

剣には、緑色の魔力が

周りがまたポカン…とする


「…試験、合格だ」

「「「お〜っ!」」」


一気に歓声が上がる

男は剣をしまい、仲間の元へ


「お疲れ」

「うん 次は蓮?」

「おう 行ってくる」


周りとは違って、はしゃがねぇな…

次も男か


「お願いします」


コイツは構えるんだな…


「試験開始だ」


最初はトロール

動きはトロいが、体が硬くてなかなか斬れねぇ

…だが

男は一振りで倒しやがった

次はダークゴブリン

すばしっこい上に魔法も使う

だが、またしても一振りで斬られた

最後は羊の頭をした魔物だ

コイツの魔法は強力だが、男は放たれた魔法を真っ二つに斬りやがった


「俺も合格か?」

「…ああ 合格だ」


歓声が上がる

コイツの攻撃には、赤色の魔力が見えた


「最後は栞だな」

「行ってらっしゃい」

「ん、行ってくる」


最後に、チビが陣に入る


「…え?ホントにあの子もやるのか?」

「男の子達は強いけど、あの子はどうなんだろ」

「っつうか、武器持ってねぇぞ?」


ヒソヒソと周りが煩い


「黙れお前等ぁっ!!」


ピタ…と静かになる


「どんな奴だろうと、試験を受けるか決めるのはコイツ自身だ!」


だが、こんなチビ…、ホントに大丈夫か


「おいチビ、お前本当にやるんだな?」

「…」


フード被って、しかも仮面着けてるから口しか見えねぇが、止める気は無ぇみたいだ


「では、試験開始だ」


最初の男は風属性、2人目は火属性の魔力を持ってるな…

呼び出したのはゴブリン

四つん這いで、勢いよくチビに走っていく

チビは、何もせず立ってるだけだ


「おい!?危ないぞっ!?」


周りは慌ててるが、男共はただ見てるだけ

次の瞬間

スパッと魔物の首がはねる


「(…?)」

「「「………、は?」」」


周りは何が起こったのか、いや…、俺でさえ分かってない

男共の攻撃には見えた属性の色が、見えなかったからだ

チビは何もしてない様に見えてたのに

魔物の首が突然はねた


「次は?」


ハッ…と我に返る


「…次はコイツだ。バジリスク…ッ」


次は巨大な蛇だ


「ああ、コイツの毒には気を付けろ。猛毒だ」


魔物は素早くチビに向かう


「危ないぞっ!?避けろっ!!」


周りが叫ぶが

普通に避けても、あの巨体からは無理だ

…さあ、どうする?

魔物が口を開き、チビを飲み込もうとする

バクンッ!ドガンッ!

魔物が口を閉じて床に激突した


「「「…っ」」」


周りが固唾をのむ中、チビは真上に

魔物の後ろに着地すると同時に、魔物が振り向き目を光らせる


「!? まずい!石化するぞ!」


だが、チビには何も起こらず…

そしてまた、何もしてないのに魔物の首をはねた


「(また見えなかった…。いや、違う)」


気になるのは、ソレじゃない…


「? 何で?石化、…してない」

「アレは仮面を着けてても、いや…、大抵の防御をしてても石化するのに

 一体、何で…」


周りの騒めきを他所に


「次が最後だな」


チビは元の位置に戻る


「お前…、何で動けてる」

「どうでもいい、次」


どうでもいいって…


「…はぁ 来い、ヒュドラ


また蛇の魔物だが、コイツは今の奴とは比べものにならねぇ

3つの頭を持ち、息には致死性の毒がある

周りは恐怖で立ち竦んでる

それもそうだ

今までで、コイツに挑もうとした奴はいない

コイツを出すのは、俺なりの慈悲だ


「棄権するなら今の内だぞ?」


流石にギルド内で死人は出したくねぇ

しかも、こんなチビを…


「まさか」


チビは俺の心配を他所に即答しやがった


「…」


…頼むぞ

魔物は口に魔力を溜め込み、チビ目掛けて一気に吐き出す

3つの紫色の光線がチビにぶつかる瞬間、四方八方に分散する

そして、1つの首がはねた

…だが、瞬く間に新しい首が2つ出てくる


「超速再生…」


チビがボソッと呟く

そう、コイツは…、ただ首を落とすんじゃ倒せねぇ


「そういえば、コイツは不死じゃなかったか?」

「え!?じゃあ何処を狙っても無駄じゃねぇかっ!?」


周りの言葉に、ピク…とチビが反応する

……今まで全く動かさなかったのに

片手を魔物に向けると


「なら、再生出来ない様にするまでだ」


瞬間

魔物の首が全てはねる


「だから駄目だって…」


周りが呆れる中


「…え」


思わず、声が漏れた

首が、1つも再生しない


「…え、何で…」

「何で再生しないんだ?」


周りが混乱する中、男2人は平然としてる

今までの試験もそうだ

コイツ等、初めっから焦りや怯え…不安が一切無い

魔物は再生出来ずにフラフラと動き、遂には倒れた


「これで私も合格?」

「…ああ お前も合格だ」

「「「…おお…っ!うおぉおおおおっ!!!!」」」


チビが仲間んとこに戻るが

やっぱり周りみてぇに、はしゃがねぇな

…こりゃあ、何年かに一度のスゲェ奴等が出てきたな

 

 

蓮side

無事に全員受かった

ゼルファに鍛えてもらったお陰だな

肉体を持たない精霊相手には、剣に魔力を纏わせる…魔法剣なんかが効果的だと教わった

紫音は魔力を纏って、風の如く素早く動き

俺も剣に魔力を纏わせた

栞は何もせずに倒してたが…


「栞」

「ん?」

「最初のを倒した時、何したんだ?」

「《サイコキネシス》を飛ばした」

「? あれって、色があったよね?何も見えなかったけど…」

「うん あれは「おい!アンタ等スゲェなっ!?」」


いつの間にか囲まれてる


「アンタ等名前は!?」

「どんな魔法を使ったんだよっ!」

「俺達のパーティーに入らねぇか!?」

 

ミクチャにされそうな時


「お前等大人しくしろぉっ!!!」


試験官の声でピタッと止まる

試験官は俺達に近寄り、ニッと笑う


「称号を与える

 3人共、文句無しの…SSランクだ」

「「「…っうおぉおおおおっ!!??」」


周りが煩ぇ


「後は受付でステータスカードを貰え

 それとチビ

 お前、本当に体に異常は無ぇか?」

「何も」

「へぇ…、大したもんだ」

「…あの」

「ん?」

「そのチビって呼び方、止めてくれませんか」


…うん

それは俺も気になってた

栞は別に背は低くない

俺達が高いから低く見えるだけだ

試験官は顎を摩り


「いや〜、俺にとっちゃあチビだからなぁ?

 これからもヨロシクな?チビっ」

「…」


まあ、とりあえず

ステータスカードを貰えて、俺達はSSランクの冒険者になれた

 

休憩をしようと未だに騒がしいギルドを出て、静かな場所に移動した

 

「で…、栞、どうやって《サイコキネシス》を見えない様にしたんだ?」

「ん〜、なんて言うか…

 この世界で使う魔力は属性があって、使う時はその色が出るでしょ?」

「そうだね。俺なら風属性だから緑色、蓮なら火属性で赤色が出る」

「そう でも私の元々持ってる力は、前の世界で言う《超能力》

 この世界でも同じ様な力を使える人がいても、それはあくまで属性魔法

 私が使うのはどの属性でもない、無属性魔法に分類されるらしいの」

「「無属性魔法…」」

「こっちに来た頃は赤と金が混ざった色が出てたけど

 勉強して無属性って分かったから

 試しに透明をイメージしてたら、出来たの」

「なるほどな…」

「じゃあもう1つ

 最後のって、ただ首を斬るだけじゃ駄目だったみたいだけど

 何で再生しなかったの?」

「あれは、首をはねた直後に氷魔法で切断面を凍らせたの」

「なるほどねぇ」

「そういやぁ、2つ目の魔物の時

 周りが『何で石化しない?』って騒いでたぞ」

「『大抵の防具をしてても石化する』って言ってたね」

「あれは単純に《サイコキネシス》で防いでただけだよ」

「…」

「それだけ?」

「そう 言ったでしょ?

 私の元々の力は無属性、きっと大体の魔物には効果がある」

「…きっと?」

「今まで鍛錬してきたのは属性魔法ばっかりだったから

 魔物に無属性を使ったのは久し振りで…正直賭けだったの」

「「…」」


まあ、結果オーライか


「そろそろ騒ぎも落ち着いてるだろうし

 ギルドに行ってみるか」

「ん」

「そうだね」


その後、予想を裏切られ

ギルドに入った瞬間に騒ぎ立てられ、色んなとこから勧誘を受け

落ち着けたのは大分経った後だった

ギルド(1)

森を出て近くのサノ国

入ってすぐに市場が広がってる

門番に止められないか不安だったけど、そもそも門番が居なかった

市場を歩いてると、果物や肉や魚…色んなモノを売ってる

歩いてる人達もそれなりに多い


「魚まで売られてるって事は…、海に面してるのかな」

「しかもこの人通りだから、きっと検問も時間掛かり過ぎて

 城の周りだけに兵が居るかもしれねぇな」


紫音と蓮の会話を聞きつつ、中心にある城を眺める

城の周りには塀がある

周りに兵士らしき姿は無いから、きっと2人の言う通りだろう


念の為、サノ国に入る前に精霊は体の中に入ってもらった

ちなみにゼルファは自分から入った

元々人間嫌いだけど、昨日の事で更に悪化…

私達家族以外の人間を毛嫌いする様になっちゃった

ラルフも入ってほしかったけど


〔どうか主のお側に!〕


って事で

子犬サイズで肩に乗り、体を髪で隠して顔だけを覗かせてる


服店を探しに歩いてると


「ねえ聞いた!?ジュノの国王が殺されたんですって!」

「聞いた聞いた!なんでも何処からか帰ってきた国王の娘が殺したんでしょ!?」

「それがねぇ!?その娘、偽者だったらしいわよ!?」

「ええ!?」

「国民を騙す為に本当は娘のフリをしたバケモノって話よ!?」

「バケモノッ!?やだ怖い!しかも国王の息子まで酷い目にあったんでしょ!?」

「そうよ!国民が必死になって国から追い出したらしいけど

 今ではその息子が何とか国を納めてるって話!」

「え〜!立派ねぇ〜!」


思わず立ち聞きしてしまった


〔グルルル…ッ〕

「落ち着いてラルフ」


コレが…、サタンが仕組んだシナリオ


私が、お父様を殺し…お兄様を…、

皆を騙した…、バケモノ…


グイッと不意に蓮に肩を抱き寄せられ、路地裏に

紫音が表通りから見えない様に立ち塞がってる


「蓮、紫音も…、大丈夫だよ…」

「何が大丈夫だよ。…レノ」

〔はい〕

「面を外してもいいようにしてくれ」

〔…はい〕

 

 

蓮side

隠闇の面をゆっくりと外すと、栞は俺を見上げる


「? どうしたの?」

「分かってねぇのか?お前は今、泣いてんだぞ?」

「え…」


栞が瞬きする度に溢れていく涙

栞は目元に指を持っていく

指に付いた涙を茫然と見る栞をグッと抱き締める


「蓮、何で…」

「紫音も同じなんだけどな

 面を着けてても

 お前の顔は見えてんだよ、不思議とな」

「…」

「我慢しなくていい、泣きたい時は泣け

 面を着けてても見えてるし

 どんだけ表情や気持ちを隠してても…、俺達には分かるんだから」

「姉さん」


紫音が栞の頭を優しく撫でる


「我慢、しないで?」

「…っ、」


栞が俺の胸に頭を押し付け、震える


「…っう、うぁああああああああああ…っ!」


そういえば、栞がこんなに泣くのを見るのは初めてだ

ふと周りを見ると、風が壁みたいに動いてるのが分かる

紫音を見れば、ニコッと笑顔で


「防音を加えた《ウィンウォール(風壁)》だよ」


いつの間に…

 

 

気持ちが落ち着いた後、改めて服屋を探す

私達が着てるのは、位の高い人が着てる服だから、もっと庶民的な服を

それに、身軽に動けるのがいい

…でも1つ問題が


「そういえば、お金持ってないよね…」

「「あ」」


そう

急にこんな事になったから、普段持ち歩いてるバッグは手元に無い

どうしよう…

すると

少し先の服屋の店頭に、無料って札と大量の服が


「すみません」

「はい!何でしょう?」

「この服は、タダなんですか?」

「はい!売れ残りの在庫処分をしております!

 ウチは色んな衣類関係を扱ってるんで大量に余ってまして!

 いくらでも持ってって下さい!」


これはラッキー

見てみると、確かにバッグや靴…衣類関係が揃ってる

売れ残りだから新品ばかりだし

蓮と紫音は動き易さ重視の服を

私はフード付きのを選んだ


市場を歩いてる中

出回ってる話は、私に関する事だけ

身元を隠すのは私だけで良さそうだ


「栞、ひとまず整理するか?」

「…、そうだね」


近くの食事処に入り、隅のテーブルに


「さてと、まず…私達の敵は悪魔ってとこだね」

「しかもサタンって名乗ってたな…」

「サタン、悪魔の頂点にいる…悪の根源とされる悪魔」

「前に読んだ本には

 《悪魔は天使に強く、天使は精霊に強く、精霊は悪魔に強い》ってあった

 この三竦みの関係で考えれば、数で言えば圧倒的だけど…」

〔確かに、それで考えれば私達に勝機があります〕


レノの声だけ聞こえる


〔ですがサタンとなると…、相手が悪過ぎます〕

「私達がもっと魔力を上手く使いこなす

 かつ…皆の力があれば、どう?」

〔…分かりません。相手がサタンだけだったら話は別ですが

 一緒にいた…アル

 あの者の負の感情は絶大です

 ソレを糧にしている今、勝てるかどうか…〕

「…サタンは、精霊と同じ様にこの世界にいんのか?」


視線が蓮に集まる


「精霊や神獣は主、…つまり、契約者の魔力を糧にしてこの世界にいるんだろ?

 だったら悪魔だって同じじゃねぇか?

 アルから離せれば、糧が無くなればサタンはこの世界から消える

 アルさえ何とかすれば勝てるんじゃねぇか?」

《!》

「その為にはまず、アイツの事を知らないとだけどな

 どんな魔法を使うのか…」


…それだったら


「ゼルファ、何か知らない?」

〔…すまぬ

 長年に渡り、彼奴が我を殺めようとしていたが

 その全てが呪術なのだ

 故にどんな属性魔法を使うのか、何も知らぬ

 だが、前に言った通り…彼奴は不死の呪いがある

 人間と精霊を引き離すには、人間が死に絶えるのが一番早いが

 サタンと不死の男…、まさしく最悪の組み合わせよのぅ〕

「…呪いを解く方法は無いの?」

〔…、解けるかどうかは分からぬが

 神は彼奴に罪という言葉を使っておった

 罪は、いずれ許されるモノ…

 もしかしたら…神なら解けるかもしれぬ〕

「「「…」」」


神…、ゼルファの記憶をよむ内に確かに声だけいたけど…、


「神なんて、どうやって会うんだ?」

「「…」」

〔主〕

「? 何?」

〔我に思い当たる事が…〕

「?」

〔我は神獣…狼神族の末裔です

 神と関わり合った事は無いのですが、狼神族に伝わっていた事があります〕

 

《狼神族は神よりも人間に近い場所に存在する

 故に人間の願いを聞き、神に届けるのが役目

 届ける場所は、人間世界の最も神や我等に近い場所

 それは…、神が最初で最後に作りし神竜が降り立った地》

「…しん、りゅう…、神の竜?」


竜…ドラゴン…、…ゼルファ?


「もしかして、ゼルファが…、神竜…か?」

〔…、我の居た地が、その場所だと?〕

「ゼルファは、その場所に居る前の記憶は無い?」

〔…、分からぬ。気付けばあの地に居た〕

「…とりあえず、手掛かりが手に入った

 ズメイ国があった場所の近くの森が、きっとその場所だ」

「…けど、そもそもズメイ国がどこにあったのか」


確かに…、

ズメイ国はドラゴンによって滅んだ国と歴史書に載ってるだけで地図からは無くなってた


「…そこまで行くのに沢山の魔物がいるだろうし

 それに、きっと国も跨ぐ

 色んな国に入る為に今の俺達には、身分を証明するモノが無い」


…身分を証明するモノ、か


「あのさ、ギルドに登録するってのはどうだ?」

「「ギルド?」」

「登録すれば、色んな国に入れる

 確かSSランクになれば危険エリアも

 名前と実力があれば誰でも登録出来た筈だ

 情報も集めやすいだろうし、体や魔法を鍛えるのにも手っ取り早い

 どうだ?」

「…良いかも」

「蓮、ナイス!」