新たな家族(1)

「…、!」

「この!…っ!」


自分に降り掛かる罵声と、容赦無く痛め付けられる体

何でこんな事になってるか…、仕事が失敗したからだ

まあ仕事が上手くいっても、コイツの機嫌が悪ければ八つ当たりされる

こんな事が俺にとっては当たり前の日常で

こんな奴等でも、いないと俺が生きていけない

だから今日も、いつ終わるか分からない暴力に耐えないといけない


「ったく、あぁ〜っ!!苛つくぜ。おいクソガキ、今日が何の日か分かってるよな?

 さっさと取ってこい」


奴…ドグはそれだけ言うと、目の前から消える

あぁ、やっと終わった

体中に走る痛みを我慢して、ゆっくりと起き上がる

奴の所為で汚れた服、…いや、元から汚れてるか

軽く叩いて、側にある桶の溜まってる水に顔を映す

泥だらけ、殴られたから頬が赤い…、口から血も出てる


「…俺は……、」


俺はいつまで、

ギリッ…と歯を噛み締める

水を飲んで喉を潤すが、俺にはこれだけじゃ足りない

こんなただの水じゃ…っ

早く取ってきて、ドグにアレを貰わないと

アイツに投げ捨てられた布を頭から被り、外に出る

周りを見渡せば、能天気に目の前を歩く人間共


「…ッチ」


俺がこんな思いしてんのに…、お前等はっ…!

ドクンッ!


「…っ、…ぅ…」


怪我とは別の痛みが体に走る


「くそっ…」


早く…っ、早く取ってこねぇと…っ!

 

 

今日は1日、クエストには行かずにのんびり過ごそうと街中を歩く

ここにも大分慣れてきた


「シオリちゃん!良かったらコレ買ってかない?」


最近では屋台の人に、よく声を掛けられる


「うん、買う」

「はいよ!今日は仕事はお休みかい?」

「うん たまにはゆっくりしようかなって」

「うん!休む事は大事だ!

 あ!そうだ!

 今日入荷したてのとびっきりの果物があるんだけど、どうだい?」

「とびっきり?」

「どんな果物なんですか?」


蓮と紫音が問い掛ける


「コレさぁ!」


オバさんが店頭に出してる果物を指差す


「滅多に市場に出ないんだけどね〜、今年はコイツの育つ条件が良くてね!

 珍しくて思わず大量に仕入れちまってさ!

 でもねぇ、値がはるから、なかなか買ってくれるお客さんがいなくてねぇ

 このままじゃ赤字なんだよ!」


確かに、少し高めかな…

まあお金は稼いでるし、大量に買ってもすぐに皆で食べるし

2人を見るとニコッと頷く


「じゃあ、いくつか」

「良ければ全部持っていきなよ!」

「ぜっ!?」

「全部!?」

「他の客を待って、結局残って腐らせるのも嫌だし

 だったら買ってくれるお客さんに全部売る方が、こっちとしては助かるよ!」


結局、珍しい果物…ネオを全部買った


「毎度〜!」


オバさんに手を振って

3人で紙袋一杯に入ったネオを持って歩く


「そういえば、コレはどんな味がすんだろうな?」

「…」

「勢いで買ったけど、どうなんだろうね」

〔美味だぞ〕


隣を歩くラルフ


「ラルフは食べた事あるんだ」

〔はい ネオは様々な気候条件が合わないと育たない希少なモノなのです

 それをこんなに大量に…、食べるのが楽しみです!〕

「お前、栞の魔力だけを糧にしてるんじゃなかったか?」

〔それだけしか要らぬ訳ではない

 主と繋がりを持つ前には、果実を食して生きていたのだからな〕

「丁度昼だし、どこかで食べよっか」

 

 

?side

ドグに取ってこいと言われたのは、今日入荷する珍しい果物…ネオだ

市場ではただの高級品としてしか扱われないが

闇市では、ある特性を理由に破格の値段で取引される

今夜その取引があるから、絶対に手に入れなきゃいけない

でなきゃ今度こそ…っ


市場の中でも一番多くの果物を扱う店に行き

遠くから様子を見ると


「!?」


店頭に出されてる筈のネオが一個も無い


「…っ、何で…」


店の前に出れば


「いらっしゃい」

「オバさん!今日はあのネオが出てる筈だろ!?」

「アレはもう売り切れたよ」

「なっ…、確か大量に仕入れたんだろ!?

 あんな高いのすぐに売れるかよっ!?」

「それが売れたのさぁ、すまないねぇ

 でも何で大量に仕入れたのを知ってんだい?」

「!…、それは…」


下手な事を言う前に急いでその場から離れる


「クソ…ッ、クソッ!」


まさか一個も無いなんてっ…!

事前にドグの仲間が、あの店が大量に仕入れたと情報を掴んでた

そん中から幾つか盗ってもどうせバレねぇ

だからすぐに終わらせて、アレを貰う筈だったのに…っ!

走りながら周囲を見渡し、ネオを買った奴を探す

ドクンッ…ドクンッ…!

体に痛みが走る

早く…っ、早く見つけねぇと!

市場を抜け、色んな場所を行く中

人気の無い休憩所に、3人

男が2人と、狼?の仮面を付けてフードを被ってる…女か?

茂みに隠れ、様子を見ると

奴等の手にはネオが


「! アイツ等か…!」


腰に付けてる短剣を抜くと


「おい さっさと出てこい」

「!?」


ば…っ、バレてる!?

クソッ!しょうがねぇっ!

短剣を握り締めて茂みから出る

 

 

紫音side

人気の無い休憩所に行き、ネオを袋から取り出すと


「…」

「姉さん?」


姉さんがどこかに意識を向けてる

蓮を見れば、横目で茂みを見てる

集中すると、確かに…、小さい気配が1つ

しかも…、こっちに敵意を向けてる


「おい さっさと出てこい」


すると、茂みから短剣を持つ子供が

布で顔を隠してるけど、全身がボロボロで少し震えてる


「何の用だ?」


子供は震えながらも、ジリ…ジリ…と近付いてくる


「…れを、寄越せ」

「あ?」

「ソレをっ…、ネオを寄越せ!」


剣で脅す程、コレは珍しいモノなのか?


「…別にそんな事しなくても、やるよ」


蓮はネオを持ち、子供の元に

腰を下ろし、ネオを差し出す


「ほら」

 

子供はソレをおずおずと受け取ろうとするが、手をギュッと握り


「1個じゃ駄目だ」

「あ?」

「大量にいるんだ!じゃないと奴に殺される!」

「「!?」」

「…」


子供はハッと口を手で塞ぐ


「おい、どういう事だ」


子供は震える手で、また剣を蓮に向ける


「うっ…煩い!いいからもっと寄越せっ!!」


その時、ブワッと強風が

子供が被ってる布が宙に舞う


「「「!?」」」


人間じゃない

青い髪に黄色の目、魚のヒレみたいな耳

顔の所々に鱗が

この子は…