24…記憶

俺は20歳を過ぎ、春也が酒が飲める歳になった

久し振りに朔と春也に会いに居酒屋へ

ワイワイ騒ぎ、お酒で良い気分になった頃


「ホントは紫音や栞さんも来てほしかったですが、連絡が出来ないですから困りましたね」

「そうだよ!栞はともかく、紫音が携帯を使ってないから近況も分かんねぇしよ〜

 『お掛けになっている番号は、現在使われておりません』って初めて聞いたぜ!」

「お、おい…お前等」

「「何です(だ)?」」

「一体、誰の話をしてんだ?」

「「……は?」」

「シオリとか、シオンって、誰だ?」

「蓮?何を「蓮ったら酒飲み過ぎて記憶が飛んでんのかぁ?」


春也の語尾がおかしい、今さっきまで普通だったのに

ジョッキを見れば空になってる

チビチビ飲んでたのを一気にいって酔いが回ったのか

 

「春也、一気に飲み過ぎです」

「れ〜ん、忘れてんじゃね〜よぉ。栞はお前の彼女でぇ、紫音はぁ、栞の弟だろぉ?」

「!」

「そ〜んな事も忘れてちまってんのかぁ?…zzz」


春也は机に伏して眠った


「はぁ、今日はお開きにしましょうか」

「…朔」

「何ですか?」

「本当に、シオリとシオンって、誰なんだ」

「…、信じられませんが、酒の所為、という訳ではないようですね」

「…」

「場所を変えましょう」


呆然としてる間に朔は後片付けをして、春也を背負い居酒屋を出る

 

俺んちに近い公園に行き、ベンチに座る


「…蓮の話を聞く限り、ご家族も二人の記憶が無い様ですね」

「…」

「神崎 栞、神崎 紫音、…思い出せませんか?」

「…っ」


頭を抱える


「駄目だ、何も思い出せねぇっ」

「…憶測ですが、きっと思い出せないのは意図的ですね」

「!どういう事だよ」

「…栞さんは、生まれつき不思議な力を持っています

 それを使えば、自分の記憶…存在を消すなんて簡単でしょう」

「!?」

「きっと紫音は、姉である栞さんと離れたくなくて

 自分の存在も消させたんでしょうね

 だから、栞さんと…紫音の記憶が無くなってる」

「何で、何で…そんな事」

「……栞さんは、幼い頃に誘拐され酷い事を強要された様です。

 僕達と出会ってからも、なかなか心を開いてくれませんでした

 特に蓮には冷たい態度でしたね

 …でも、それは全部僕達を護る為だったんです

 僕達や蓮が自分の抱える危険なモノに巻き込ませない様にと」

「…」

「蓮に時々言ってた言葉があるそうです

 いつか僕達の前から消える、だから自分の事を話しても無駄だと

 でも貴方は諦めなかった

 そして事は起きた、栞さんを誘拐した2人組が現れて

 再び、貴方の目の前で連れ去られた

 何とか助け出せましたが、栞さんは自分と関わってると危険だと死のうとしていたそうです」

「!?」

「それを蓮が止めました。彼女の抱える闇や不安、全てを受け入れたんです

 そうしてこれまで、常に貴方の側に彼女はいた筈です」

「…」

「僕が話せるのはここまでです」


朔は春也を背負う


「ま、待てっ!俺はどう「僕が出来るのは、ここまでです」」


朔と春也がいなくなり、俺はベンチの前で佇む

 

カンザキ シオリと弟のシオン

シオリは、俺の…大事な人

あんだけ聞いて、何も思い出せねぇ


「くそっ!お前等は誰なんだよ!」

 

ふと、1人の気配が

…朔じゃねぇ、誰だ

……でも不思議と、懐かしさがある気配だ

周りを見渡し


「居るのは分かってんだ。さっさと出てこい」


すると、目の前の暗闇から男が

でも影に隠れて顔が見えねぇ


「お前は、誰だ」


何で、気配だけでこんなに懐かしいって思うんだ


「…」

「答えろっ!」

「…紫音、俺は神崎 紫音」

「シオン、っ!お前がカンザキ シオンか!?」

「…ああ」


カンザキ シオン

俺が忘れてる男で、俺の大事な奴の弟…っ

 

「シオン!顔を見せてくれ!」

「…」

「頼む!!」

「…」


ゆっくりとシオンが歩き出し、月明かりに照らされる


「お前が、シオン」


シオンは辛そうな表情で俺を見る


「シオン、教えてくれ。

 お前の姉、シオリは…、何で、俺の…俺の家族から、お前等の記憶を消したんだ」

「……指輪」

「!」

「ソレを持って、白狐の倉庫に来て。そこで、…待ってる」


シオンがまた暗闇に消えていく

 

「待てシオン!」

「……、ホントは会いに来ちゃ駄目なんだ

 でも、この数年…姉さんの笑顔を一度も見てない

 姉さんとの約束は破るけど、姉さんが幸せになってくれるなら…」

「…シオン」

「これが最初で最後のチャンスだ

 夜が明けば、もう二度と姉さんとは会えない

 もう、ここに戻ってくる気は無い」

「!」

「だから、早く来て。…蓮」


シオンが完全に暗闇に消える


ハッと我に帰り、急いで家に行く

部屋に転ぶ勢いで入り、指輪を取り出し

白狐の倉庫へ走る

 

 

紫音side

この数年、姉さんには表情が無い

元々感情は出ない方だけど、今はまるで…作り物みたいな無表情

俺と話す時には無理に笑顔つくって、大丈夫だよって


蓮達には今までの様な危険が無くなり、普通の生活をしてる

皆には会おうと思えば会えた、初対面のフリでもして

姉さんに駄目って言われてるから、会わずに気付かれない様にコソッと


蓮が指輪を着けてないのに気付いた時は

涙を流しながら目を瞑って俺に凭れ掛かって、震えながら静かに泣いてた

俺はギュッと抱き締めて


何も言わずに、支えてる

 

でも、ある日


「もう様子は見に来ない」

「え?」

「この数年、危険は無かった。もう来なくても皆は大丈夫」

「…なら、せっかくだし倉庫に行かない?

 あそこは思い出が沢山あるし、今の時間なら誰もいない」

「…ん」


白狐の倉庫に行き、姉さんが幹部室のソファでゆっくりしてるのを見る


「姉さん、何か飲み物買ってくるよ」

「いいよ?別に…そんな長居する気も無いし」

「いいから。こっちには二度と来ないんでしょ?

 最後くらいゆっくりしてようよ」

「ん、分かった」


姉さんを幹部室に残し、急いで桜井家に急ぐ

 

インターホンを押し


「はい?どなたですか?」

「蓮の友達です、急ぎの話があってっ、蓮は居ますか?」

「蓮なら友達と飲むって居酒屋に行ってるわ」


くそっ、こんな時にっ


「分かりました、ありがとうございますっ」


居酒屋って


「…っどこだよっ!」


髪を掻き毟ってると、近くの公園から声が

…まさか

公園へ走り、声のする方へ目を向ければ

居た!!

でも、姉さんとの約束を思い出して駆け寄るのを堪える

辺りを見渡し、影に隠れるとこを探す


蓮が朔と昔の話を聞いて、一人になる


「くそっ!お前等は誰なんだよ!」

 

今だ

気配を出し、蓮に気付かせる

蓮は周りを見渡し

 

「居るのは分かってんだ。さっさと出てこい」


顔が影で見えない距離まで暗闇から出る


「お前は、誰だ」

「…」

「答えろっ!」

「…紫音、俺は神崎 紫音」

「シオン、っ!お前がカンザキ シオンか!?」

「…ああ」

「シオン!顔を見せてくれ!」

「…」

「頼む!!」

「…」

 

ゴメン、姉さん


「お前が、シオン

 シオン、教えてくれ。

 お前の姉、シオリは…、何で、俺の…俺の家族から、記憶を消したんだ」

「……指輪」

「!」

「指輪を持って、白狐の倉庫に来て。そこで、待ってる」


暗闇に戻ろうとすると


「待てシオン!」

「……ホントは会いに来ちゃ駄目なんだ

 でも、この数年…姉さんの笑顔は一度も見てない

 姉さんとの約束は破るけど、姉さんが幸せになってくれるなら…」

「…シオン」

「これが最初で最後のチャンスだ

 夜が明けば、もう二度と姉さんとは会えない

 もう、ここに戻ってくる気は無い

「!」


だから…


「だから、早く来て。…蓮」


蓮が家に戻るのを見て、木に凭れ掛かる


「ゴメン、姉さん。我慢出来なかった」

 

でも…


「姉さんの幸せは、俺の幸せでもあるから

 俺を幸せにする為って事で大目にみてよ」


俺は倉庫へ、歩みを進めた