25…大事な人

蓮side

指輪を握り、倉庫へ走る

漸く倉庫近くまで来ると、街頭に照らされる入口にさっきの男…シオンが立ってる


「はぁ…はぁ…、シオン」

「…指輪は?」


指輪を握ってる手を開くと


「その指輪は、蓮が姉さんと着けたいって…姉さんのとペアになってるんだ

 蓮、姉さんは幹部室にいる」


ここに、シオリが

…でも、


「気配が感じねぇ」


シオンは鼻で笑い


「俺と一緒の時以外は、気配を絶ってるから」


そういえばシオンも

恐らくわざと気配を出して、俺に気付かせた

シオリも気配を絶てる

……朔を疑ってた訳じゃねぇが、本人達から聞くと現実味が増す

 

シオンは真剣な表情で


「蓮、姉さんに何を言われても、絶対に諦めるな」

「? どういう事だ」

「姉さんはきっと、自分から遠ざける為にわざと傷付ける言葉を言ってくる」

「…」

「もし力を使われても、指輪を持ってれば…きっと何とかなる

 行け、蓮が護ると誓った…大事な人を取り戻せ」

 

 

蓮side

シオンに見送られ、倉庫に入る

幹部室までの階段を上がる間に、心臓の鼓動が早くなっていく

扉を前に、緊張で手に汗をかく

ここに、シオリが

 

ガチャ…と扉を開ければ

総長が座る椅子を前に立ってる女…シオリが

……物思いに耽って、ドアを開ける音にも俺の気配にも気付いてねぇのか


「遅かったね」


シオリが振り返り、俺を見る


「紫、音…」


シオリは目を見開き、固まってる


「お前が、カンザキ シオリ…か?」

「!」

「そう…なんだな」


一歩動くと


「来ないで!」

「!」

「…こっちに、来ないで。私に、近づかないで」

「どうして」

 

シオリは目を逸らし


「……どうして、その名を?」

「朔や、春也、お前の弟のシオンが教えてくれた」

「!…っ」

「なあ、お前だろ?俺ん中から、お前とシオンの記憶を消したの」

「…知らない」


シオリに近づく


「いや、来ないでっ」


シオリは後ろに下がっていく


「どうして、駄目なんだ」

「…っ、私と貴方は、赤の…他人。

 他人が急に、近づいてきたら、誰だって…嫌でしょ」

「…俺はお前と、恋人だって聞いてんだけどな」

「……そんなの、嘘」

「お前の弟がそう言ってたぜ?お前の弟は、嘘付いてんのか?」

「…っ」


シオリを壁に追い込む

あと、数mで手が届く

その時だ

シオリの左目に何かが浮かぶと俺は宙に浮かび


「!?」


後ろのソファまで飛ばされる


「うわっ!?」


ボスッと背中からソファに落ち、目を瞬く

今、何が

シオリを見ると、泣きそうな表情で


「分かったでしょ?私には特殊な力がある

 私は貴方達、普通の人間と違う…」


『駄目だ、その続きを言わせるな』

 

気付くと俺は、ソファから起き上がり


「バ「ダンッ!」」


シオリの横の壁に手を付く


「な、…何」

「分からねぇ、気付いたら体が動いてた」

「…そっか」


シオリは俯く


「シオリ」


声を掛けても顔を上げない

…だったら

手で顎をクイッと上げる


「朔と話してる中で、記憶を消した理由の憶測があった」

「…」

「お前は、自分の抱え込んでるモンに俺や家族を巻き込まねぇ様に

 消したんじゃねぇかって」

「…っ」

「俺の為を思って、お前自身と、お前の側にいる為に…シオンの記憶を消したんだろ?」

「…、違う」

 

シオリは俺の手を払い退け


「お前の為だと?自惚れるなっ!

 お前なんか嫌いだっ!嫌いだから離れたんだ!!

 記憶を消したのもっ、お前の中に私がいるのが嫌だからだ!!」

「…」

「巻き込まない様にした?そうだよっ!

 お前等普通の人間が側にいると邪魔で仕方ないんだ!!

 私はお前等とは違うっ!!

 人間から怖がられて怯えられる存在なんだよ!!」


シオリは、俺を必死に自分から遠ざけようとする


「私はっ、私は…っ、人間じゃない…っ」

「!」

「バケ…」


唇を塞いで言葉を遮る


「んっ…ん…!」


頭と腰に手を回して、離れようとするのを無理矢理押さえ込む

キスが慣れてねぇのか、どんどん力が抜けてく

暫くして離れると、ガクッとシオリの足が崩れる


「はぁっ…はぁっ…」

「悪い、やり過ぎたか」


息を切らしながら、見上げてきて

頭の横に手を伸ばされ、赤い光が


「はぁ…はぁ…、もう一度、全部消す!」

「!」


パンッと赤い光が弾け、記憶が消えようとする

嫌だ…駄目だ

蹲って、頭を抱える


「もう…二度と会わない。これで本当にさよならだ、蓮」


駄目だ、駄目だ!

シオンやコイツの事を、消させねぇっ!

その瞬間、着けてる指輪が赤く光始める


「!」


消された記憶の全てが一気に頭に流れ込む

衝撃でふらつき、バタ…と倒れる


「…蓮、ゴメンね」


栞が腰を下ろし、俺の髪を撫でる


「でも、蓮の為だか「俺の為?」」

「!?」


栞の手を掴んで見上げる


「な、蓮…、何で…」

「何でって」


起き上がり、栞を押し倒し指輪を見せつける


「コレのお蔭だ」

「…壊すべきだった」

「そう思うんなら何で…」


栞の指先を撫でる


「自分のを壊してねぇんだ。俺との繋がりを断つんなら壊すべきだろ」

「…っ」


栞は顔を逸らす


「…なあ、栞。頼む…」


だんだん目頭が熱くなる

頼むから


「頼むから、戻ってきてくれ…!俺の元にっ、帰ってきてくれ!!」

 

 

顔に何かが落ちてくる

正面を向けば


「!」


蓮の目から涙が


「頼むからっ…帰ってこいよ…っ」

「…っ」


断ち切った筈の、蓮への想いが溢れてくる

顳顬に何かが伝う

 

 

蓮side

「…っ駄目だよ」


栞の目には涙が、顳顬を伝って落ちていく


「蓮、蓮は一度、死んだんだよ?

 生き返らせれたけど、蓮が私の所為で死んだのには変わりない

 もうっ…蓮を、大事な人を失うのは嫌だ…っ」


栞が俺の胸を触る


「思い出したでしょ?ここが何かに貫かれる感覚を

 蓮が死んで、今までにない絶望感を感じた

 私の所為で蓮が死んだ、私の所為で…っ

 私が蓮を殺したの!!」

「っ…」

「これ以上、蓮が傷付くのは見たくない。蓮には幸せな人生を送ってほしい」

「…」

「だからお願い。私の事は綺麗に忘れて、幸せに「俺の幸せは何だと思ってる」」

 


蓮の目には怒りが


「俺の幸せが、お前のいない人生だと?」

 

蓮の拳が顔の横をドンッ!と叩く


「っざけんな!!!勝手に考えて勝手に決めてんじゃねぇよっ!!

 お前がいねぇと幸せになんかなれねぇ!!

 俺は確かに死んだっ、でもなっそれはお前の所為じゃねぇ!!

 俺にもっと力があれば、あんな風に捕まらなかったし

 お前を1人にしなければ、月影なんかに利用されなかった!

 お前の所為じゃねぇ!俺が自分で招いたんだ!

 だからっ…、だからこれ以上…っ」


頰をそっと撫でられ


「自分を傷付けるなっ…、俺は大丈夫だ。

 俺が自業自得で死んじまったのを、お前があんな姿になってまで助けてくれた」

 

上半身を抱え上げられ、グッと抱き締められる


「ありがとな。俺を生き返らせてくれて

 自分を血で汚してまで、助けてくれて…ありがとな」

「…っ」


震える手で蓮の服の裾をギュッと握る

涙で蓮の肩が濡れる


「蓮…っ、蓮っ…!ごめんなさいっ

 あんな危険な事に巻き込んで…っ、ごめんなさいっ」

「俺の自業自得っつってんだろ、お前が気にする必要は無ぇんだ」


蓮は少し離れ、私の頰を撫で涙を拭う


「栞、もう一度言う。俺の側に戻ってこい」

「…っ、…っ」

「ふっ、泣いて言葉が出ねぇか?なら、別の返事の仕方教えてやる」

 

蓮が私の耳に唇を寄せ


「…、…」

「!」


目を合わせると


「それを返事として受け取ってやる」

「…っ」

「早くしねぇと、もっと別の事を要求する」

「!」

 

 

蓮side

栞は顔を赤くし、上目遣いに俺を見る

そして、俺の肩に両手を置き、次第に顔が近くなる

目を瞑った瞬間、唇に柔らかいモノが当たる

それは一瞬で終わり、目を開ければ既に赤くなって目を逸らしてる


「栞」

「…、な、何」


頭を引き寄せ、額をコツンと当てる

栞は目を見開く


「今のじゃ足りねぇ」

「! なっ…」

「キスしろと言ったが、1回だけでいいとは言ってねぇ」

「〜っ!」

「…栞

 俺はこの数年、お前のいない…お前を忘れちまってた生活を送ってきてんだ

 今のだけで、満足すると思ってんのか?」

 

またドサ…と栞を押し倒す


「俺はな、お前が思ってる以上に飢えてんだ

 …栞、お前が欲しい」


チュッと口付け


「あんなんじゃ全然…足りねぇんだよ。栞が戻ってきたって、もっと実感させろ

 それに…」

「?」

「お前の口から、二度と下らねぇ言葉が出てこねぇ様に

 お前が二度と下らねぇ事を考えねぇ様にしてやる」

「…」


栞の目が、僅かに揺れる


「…つっても、きっとお前は、これからも考えちまうんだろうな

 だから…せめて今だけは、俺だけを…俺だけしか考えられねぇ様に

 俺だけを求める言葉しか言えねぇ様にしてやる」

「…っ」

「ついでにお前から、もっと…深いのが欲しいって言わせてやる」

「〜っ!」

「まあ…」


チュッと口付け、啄む


「そんな余裕を無くしてやるけどな?もっと欲しいって顔にさせてやるよ

 今だけは何も考えないで、俺だけを見て…俺だけに集中してろ」

「………」

 

栞が俺の頰に両手を添え、自らキスする


「私も、蓮と離れてるのが寂しかった、苦しくて…辛かった。

 私にも、蓮の元に帰ってきたって実感が欲しい

 蓮しか考えられない様に、…蓮の好きにして?」


栞が涙を流しながら、微笑む

ああ、お前も望んでくれるなら


「お前が望むなら、いくらだってやるよ。…但し、自分で言った言葉……後悔すんなよ?」

 

 

お前がどんな手を使って忘れさせても…俺から離れようとも

必ず思い出す、何度だってお前を捕まえてやる

 


栞、お前が囚われるのは闇じゃねぇ、…俺だ