28…動き出した歯車

紫音が蒼鷹となってからは、どんな仕事も一緒にしてる

組の抗争は、何が起こるか分からない

時には重傷者も出るから《テロメア(生体コントロール)》で治したり、治癒能力を使う


そしてある日、運命の歯車が動き出した


「鷹、蒼鷹。少し遠いが、この組を偵察してきてくれ」


少しって、県外じゃん


「ここって県外じゃないですか」


紫音が代弁してくれる


「桜井組は関東でトップだ

    だから、関東内での組関係の事は概ね把握してる必要がある。

    この組…裏河組は今まで悪い話は無い、だから定期連絡だけで済ましてきたんだが、

    最近、妙でな」

「妙?」

「ある時から連絡が途絶えて、組員がこっちに数人来てる時があった」

「何かの集まり?」

「いや、動きを見る限り、集まりにしては、おかしい」

「偵察後は?」

「何も無ければ、それでいい。だが、少しでも反乱の傾向があれば、最悪…潰せ」

「はい」

「…っ」

 

 

紫音side

楼さんの威圧感で戸惑う中

姉さんは最初から何も聞かず、二つ返事で返した

話はどんどん進み、翌日には偵察に行く事に


翌日


「そろそろ行くよ?」


家で《テレポート》を使う前


「姉さん」

「何?」

「今回の仕事、姉さんはずっと黙ってたけど、

    仕事なら…楼さんの命令なら、何も聞かず、何も言わずに行動する。

    いつも、そうなの?」

「…つまり、汚い仕事でも命令なら躊躇せずにやるのかって事?

    それが、殺しでも…」

「…っ」


《殺し》

口では簡単に言えるけど、人の命を奪うのは決して許されない

例え…どんなに憎んでても

もし、仕事であれば、姉さんは躊躇わずやるのか

楼さんが言ってた《潰せ》

あれは、それを意味するんじゃ…

俺が俯き悶々と考え込んでると、姉さんは溜息を吐き


「安心して。楼が言ったのは、そういう事じゃないから

    前にも言った通り、私は多くの人を殺してる

    奴等に言われてって言えば、言い訳にしかならない

    殺さずに済む別の方法があったかもしれない

    今でも、命を奪った人々の事は考える

    楼は、それを分かってくれてるから、私に殺しの仕事はさせない」

「じゃ、じゃあ…潰せってのは?」

「解散」

「また組を作ったら?」

「作らないよ」

「…何でそんな断言出来るの」

「解散させる時に言う言葉があるの」


姉さんは挑戦的な笑みを浮かべ


「その時は、また潰しに来るって」


そういえば

最近倉庫に行ってなくて、蓮からメールが沢山来る

朔と春也は用事だと送れば、然程来ない

蓮は「雫と一緒にいるのか」って

姉さんと俺、2人とも行ってないからな

それには触れずに家庭の用事とだけ

嘘はついてない

けど、桜井組に行くのは蓮と会う可能性がある

最初の頃は、行く度にソワソワしてたけど

ネックレスの力で気付かれないと分かってからは平然としてる

ってか、堂々としろって言われた

 

 

紫音が仕事の内容に納得出来たとこで移動する

だけどその仕事が、私が恐れていた事に繋がるとは

 

気づいた時には遅かった


裏河組の近くの屋根まで行き、いつもの様に探りを入れようとした時だ

…おかしい

何も見えないし、情報が分からない

こんな事は初めて


「?  どうしたの?」

「…もう少し近づく」

「え、あ…分かった」


屋根から降り、裏河組の塀まで近く

塀に手をつき、情報を読み取ろうとしたら

ガシッ


「!?」


何かに手を掴まれる感覚


“見つけた”


頭に直接聞こえる声

この声はっ…!


「鷹?」


ハッと我に返る

紫音まで気付かれる訳にはいかないっ

紫音の手を掴み、瞬きすれば家に戻ってる


「もう、いいよね?」


紫音がフードを外し、心配そうに見てくる

 

 

紫音side

姉さんがこんなに取り乱すなんて

一体、何が


「ゴメン、紫音。今日はもう休む」

「え…う、うん」


姉さんは何も話さず部屋に行った


その夜

自室にいると

コンッコンッ


「いいよ」


返事したのに

姉さんは入ってこない


「?」


不思議に思い、ドアまで近づきドアノブを掴む


「待って紫音、開けないで」

「姉さん、どうしたの」

「…」


返事は返ってこない


「開けるよ?」

「駄目、このまま…聞いて。今から楼に会ってくる」

「…え」


このタイミングで楼さんに会いに行くって…

俺はドアを開ける

姉さんは俯いたまま、1歩下がる


「姉さん?」


俺が手を伸ばすと


「触っちゃ駄目」

「え…」

「私に触っちゃ、駄目」

「どういう事」

「…」


姉さんは俯き、答えようとしない

なら…


「…俺も行く」

「え…」

「何と言おうが、一緒に行く。」


姉さんの目をジッと見て、引くつもりは無いと訴える

どれ位経ったか

姉さんは溜息を吐き


「分かった。ただし、条件がある」