7…姫としての高校生活(3)

蓮side

雫が姫になった


「雫に何かあれば連絡しろ」


春也にそう言ったが、連絡はほぼ無い

手を出す男がいたと初めて連絡が来た時は


「いたって何で過去形だ?」

「神凪が、もう…」


雫はどんな攻撃も簡単に躱し、急所を一撃で狙う

ソレを報告された時は、屋上での事を思い出した

そういやぁ、俺の蹴りを止めたんだったな

雫は強い、この手の奴なら問題無ぇ

問題は女だ

女は群れて、多勢に無勢でしつこい

雫は女には手を出さない様だ

だが、今回は違った


いつもの様に屋上に行っても居なかった

まだ来てないだけか?

昼休みに水沢先生のピアノを聴いてから屋上に行くのが雫の行動パターン

ここに来る前に、ピアノは止まってたが…一回行ってみるか

コンッコンッ


「失礼します」

「こんにちは、桜井君」


水沢先生とはあまり面識が無かったが、

雫を探しに来るから覚えられた

カウセリングなんて受けねぇし、音楽の授業は選択科目だからな

ここにも居ないか


「神凪さんなら、来てませんよ。

     でも、おかしいわね。昼休みにも来なかったし…

     私がいる時は必ず聴きに来てくれてるけど、今日はお休みかしら。」


休みでもないし、ピアノのを聴かずに帰りはしない筈


「もし、来たら引き止めておいてもらえますか?」

「分かりました」

「お願いします」


音楽室を出て、すぐに春也に電話する


『もしもし』

「春也、雫は今どこだ」

『…』


何で答えない


『神凪は、女達とどっか行ってる』

「女達?どこのグループだ」

『宮園って女がリーダーのとこだ』

「宮園…って確か、」


あの女は宮園財閥の娘

周りからチヤホヤされて生きてきた典型的な我が儘娘

気に入らない奴は捕まえて好き勝手やってる


『どんな情報でも、いつか役に立つかもしれない

     知識はどれだけあっても損にはならない』


そう教わり、俺は小さい頃から色んな事を学んできた

学校でも、男女関係無しに朔経由で《一般人以外》の情報は概ね把握してる

どんな奴でも何かの繋がりで、知りたい事を知ってるかもしれない


「それで、今お前はどこに居るんだ」

『…教室』

「教室って、雫はどこに行ってんだよ」

『…ごめん、分からない』

「……何で雫の側にいねぇんだ」

『すぐに済むだろうと思って「連れて行ったのが、宮園と知っててか」…っ』


宮園は他の女と違い、平気で手を出す

大事にならない様見張ってるのも、俺達のやる事…なのに


「そういえば、雫と打ち解けてねぇの、お前だけだな」

『…』


春也は女に対し、かなりの警戒心を抱く


「春也、雫は、今までの女とは違う。」

『…どう違うんだ』

「今に分かるさ」

『報告しなくて悪かった、探すよ』

「おう」


電話を切り、考える

宮園みたいな奴が行く場所、…体育館裏、いや定番過ぎる

頭をガシガシと掻き、考え込んでると

バシャッ…バシャッ

どこからか水が弾ける様な音、しかも連続で

聞こえるのは体育館側の窓から

まさかな…

その窓に近づくと

ガンッ

今度は硬いモノ同士がぶつかった様な音

見れば、女達に両腕を掴まれてる雫の姿


「!?」


思わず一瞬身を乗り出す

踵を返し1階まで走りながら、メンバーに連絡する

途中で合流し体育館裏へ急ぐ


「蓮っごめんっ!俺がっ…俺がっ!」


春也が走りながら謝ってくる


「言い訳は後だ!急ぐぞ!」

 

 

「…!っ!…!」


話し声、いや怒鳴り声が聞こえる


「あ、アンタが悪いんだから!アンタが蓮様に近づこうとしなければ!」

「おい、何をやってる」

「!?あ…あ、あなたは…!?」

「れ、蓮…さ…ま」


宮園は顔をまっ青にして震えながら突っ立ってる


「貴方達、彼女を白狐の姫だと知っての行動ですね?」

「ち、違いますっ!私達はこの女に、立場を分からせようと!」

「聞こえませんでしたか?

    彼女は白狐の姫、姫を傷つけるのは白狐を敵に回すって事ですよ?」

「潰す」

「紫音、あくまで女、ですからね。手は出せませんからね、ここは頭を使いましょうか」


女共は朔と紫音に任せて、倒れてる雫の元へ


「雫!」


雫を抱き抱え、仰向けにする

立てた膝に頭を乗せる


「うっ…」


冷てぇ、全身に水を掛けられたのか。何かで殴られたか、額からの出血が酷い

呼吸も荒い、早くなんとかしねぇと…!

春也は俺の目の前に座り、まっ青になってる


「雫!目ぇ開けろ!」

「神凪!」


辛うじて目を開ける雫


「蓮…、前…原…」

「雫っ…」

「な、んで…」

「話は後だ、出血が多い。体もかなり冷えてる」

「…ふっ」


何で


「何で、笑うんだ」

「ま、え…原、知らね、のに…なって。ここ、に…居るって」

「!?…っ」


春也が顔を逸らす


「…とにかく話は後だ」

「…れ、ん…」

「何だ」

「助、かっ…た…」


目を閉じ、クタッと頭が垂れた


「!?雫っ!」

「神凪!?」


朔と紫音も駆け寄る


「雫さん!?」

「雫っ!」

「朔!病院に電話しろっ!」


…雫っ!


俺は救急車が来るまで、雫をギュッと抱き締めていた