囚われの姫 〜自由への道〜

1…始まり(1)

始めに本作の主人公を紹介します

神崎栞(カンザキシオリ)

黒髪の長髪、猫目、左が赤色のオッドアイ

物事にあまり動じません…クールな感じです


それでは、どうぞ

 

ある一軒家の前に1人の男性

家の主がまだ寝てると分かってるから、合鍵で家に入る

寝室まで行き、そっとドアを開ける

ベッドで眠ってる、この家の主...栞

現在A.M5:00

寝てるとこを悪いと思いながら肩に触れ軽く揺する


「栞」

「ん、和士(カズシ)」

「悪いが起きてくれ」

「今何時?」

「5時」

「…今日、何も無かったよね?」

「あ〜、とにかく起きろ」

「何?」

「起きてから話す、リビングで待ってるから」

「ん〜、分かった」

 

私を起こしに来たのは林和士

久八(クヤ)高校の理事長で、白狐という族の初代副長

幼馴染で、小さい頃はよく遊んでくれてた

私を見つけてくれた人で、面倒をみてくれてる


渋々起き上がり欠伸しながらお風呂へ向かう

今日は何も予定は無い筈、折角気持ち良く寝てたのに…

シャワーで眠気を飛ばし、リビングへ

和士はソファーでコーヒーを飲みながら新聞を読んでる

その向かいに座り、用意されてるココアを飲む

温かい

まったりしてると新聞を読み終えた和士が顔を上げる


「栞」

「ん?」

「高校に、行かないか?」

「...」


聞き間違い?

今…何て言った?


「...もう1回言って」

「高校に、行ってほしいんだ」

「高校って、和士の?」

「ああ、俺が理事長をしてる久八高校」


久八高校、生徒の大半が不良でソレを束ねてるのは白狐…暴走族

和士が初代副長を務めてた良い族でも(悪い暴走族は薬や汚い事をしてる奴等)

今更、学校に行く必要ある?

私は今まで、学校に行った事が無い…いや、行けなかった

なのに


「今更、学校に行けって?」


視線を落とす

今更そんな所に行ったって、何になるの


「お前に普通の生活を送ってほしいんだ、今の白狐も良い奴等だ」

「…」

「アイツ等なら、裏切らない。仲間を見捨てない、お前を…受け入れてくれる」

「…っ」


目を見開き、視線を上げる


「栞、アイツ等なら大丈夫だ」

「…」


俯いて、目を閉じる


事の発端は6歳の時、私は…誘拐された

それから約8年間、色んな事を教え込まれ、やってきたのは、命を奪う事

罪があっても、無くてもだ

当然最初は抵抗した

けど、逆らった罰として受けた苦痛が体に恐怖を植え付け


『お前が殺らないなら、お前が受けた苦痛をお前が見てる前で奴等に与えてやる。

    それが嫌なら、お前の力で楽に死なせてやれよ』


心にも植え付けられた

目の前で何の罪も無い人が、この苦痛を味わいながら…

何も出来ずに死んでいく人達を見てるだけなら、せめて…苦しまずに、私の手で

そうやって今まで、奴等に従った

やっとの思いで逃げ出し

和士に見つけてもらえたのが15歳になる年


逃げ出せても、今でも心は恐怖に支配されてる

沢山の命を奪ってきた私は、穢れてる

これ以上誰かを傷付けずに済むなら、1人でいる方がいい

誰にも関わっちゃいけない

だから和士も、最初は拒絶した

妹の様に思ってくれてても…兄の様に思ってても


ーー闇という名の鳥籠で鎖に繋がれ自由を奪われた鳥

       いつも格子越しに自由に飛んでる鳥をただ、見てるだけーー


『お前は俺達の妹だ。妹を放っとく兄貴がどこにいる』


和士のお陰で、鎖は解けた

でも


ーー長く鎖に繋がれていた鳥は飛び方を忘れた

       そして、いつ襲ってくるか分からない闇の恐怖に怯え

       鳥は鎖が無くても、どうしていいのか分からず、動けないままーー

 

「栞、お前はもう1人じゃない。自由になったんだ」

「…」


ーー闇と光の狭間

       闇に侵食される恐怖と差し出される救いの光

       私なんかが、光を求めていいのか…

       でも、少しだけ…ほんの少しだけ、光へと歩み始めるーー


「…行く」


そう答えると、和士は笑顔で


「よし、じゃあ朝飯食べよう」


...朝ご飯、どうでもよくない?

今までの雰囲気ぶち壊し


「制服はこれな。あとウィッグと眼鏡」


制服等一式が入った紙袋

寝室に戻って中身を確かめる

制服は男子用って、何で?

共学だから、女子のもあるはず

…まあ、いいか

着てみると袖から指先しか出ない

ウィッグの前髪が長めで目が隠れるのに、更に眼鏡って意味ある?

溜息を吐きながら着替えてると肩の傷が目に入る


ーーーー

血を流して倒れてるお母さんとお父さん

お父さんの傍で泣いてる弟…紫音

紫音の側に立つ楼と、男の脇に抱えられた私に駆け寄る1人の影

私に手を差し伸べるのは…

ーーーー


カタン


「…!」


物音で我に返る

ベッドの写真立てが倒れた

家族が幸せだった頃の写真


「紫音…」


紫音とは、あの事件以来会ってない


「…」


ふと疑問に思う事がある

会いたいと思うのは紫音しか思い浮かばないけど

あの時、手を差し伸べてくれた人

その人がどうしても思い出せない


紫音は今年久八高に入り、中学から入ってる白狐の幹部になった

紫音の事は久八高の理事長であり、幼馴染の和士から

高校での写真を頼んだら


『紫音だけでいいのか?』


って聞かれた


『紫音以外にいないでしょ』


そう返したら

辛い、悲しい表情で


『…分かった、紫音の写真な』


何か言いたそうだったけど、結局何も言わなかった

高校生になった紫音の写真を見て、思った

私は母親似で紫音は父親似だ

見た目で姉弟だと分かる人はいないだろう

誘拐目的は、私のある秘密を利用する為だった

いつ見つかるか分からない状況で、神崎栞として動く訳にはいかない

だから高校では紫音に…周囲に気づかせない


本当は姉として会いたいけど

紫音は今、苗字を変えて親戚と一緒に暮らしてる

身内と知られれば、今の生活を失うかもしれない

だから、誰にも《神崎栞》だと知られてはいけない


「紫音…」


ただ、想うだけ…

コンッコンッ


「栞?大丈夫か?」

「…大丈夫」


仕上げにカラコンして寝室を出る

リビングに戻ると男装した私を見て、和士がうんと頷く


「行くか」

「ん」


私は、人生を変える一歩を踏み出した