6…仕事

仮組員として栞に付いて、この数日間

今のところ、栞は妹として動いてる

そしてケイの言ってた通り、外出が多い

初日に俺が免許を持ってるって言ったから、俺が運転しての車移動が殆どだ

勿論車は防弾…なんかじゃなく、普通の自動車

栞が護衛を引き受けたから、兄貴が用意した防弾ガラスのを断ったらしい

それ以外にも、軍人かってぐらいの装備が別邸にあったが

ケイが1つでも使ってるのを見てない

だけど、疑問には思わない

栞が護衛してんだからな

ケイもある程度の警戒はしてるが、それだけだ

栞はケイや俺をシールドで覆い、かつ銃弾を消してる

日本で銃弾ってのもアレだが、相手は海外からの敵

ついでに言うと、クライアントには日本人もいる

街中や一般人関係無くサイレンサーで問答無用に撃ってくる

栞は銃弾を一発だけ消さずに《サイコメトリー》で相手を特定すると

車内や、ある時は路地裏で《テレポート》して

敵を気絶させて別邸の地下部屋に拘束してる

その度にケイは栞の頭を撫で


「お疲れさん」


労いの言葉を掛ける

 

 

今のところ、妹として護衛をしてる筈だが…、引っかかる事が

車から降りて目的地に行くまで、いつも栞はケイと手を繋いでる

初めて見た時は思わず


『何で手なんか繋いでんだよ』


外での組員としての言葉遣いなんか忘れて、目の前の光景に苛立った

一方でケイはキョトンとして


『? 何かいけない?』

『…零』


栞の厳しい目が向けられる

…っ、分かってる…

ケイにとっては単なるスキンシップだ


『いえ、すみません。行きましょう』


栞が俺以外の男と手を繋いでるのもイラつくが

ケイが向ける笑顔、差し出す手に

作りモノじゃない笑みで返し、躊躇無く手を繋ぐ栞

数日しか経ってないのに

ケイが、どれだけ栞にとって近い人なのかを思い知らされた


ある日

初めてクライアントが別邸に来た

今回は外人だから、ずっと英語が飛び交い

栞は妹で秘書の設定でケイの隣に座ってる

俺は隣の部屋で待機って言われたから、聞き耳を立ててる


すると


「ところで、隣の彼女に良い人はいるかね?」


ピクッと思わず動く


「どういう意味でしょうか?」


ケイの声に動揺は無い


「もし良ければ、紹介したい者がいるんだが」


扉の隙間からそっと覗くと


「折角のご好意ですが…」


ケイが栞の肩を抱き寄せ


「彼女は、俺の婚約者です」

「!?」


思わず声が出そうになるのをグッと堪える

クライアントは栞に目を向け


「本当かね?」

「はい、私は彼の婚約者です」

「!?」


嘘でも、栞の口から…ケイの婚約者だと

ギリッ…と歯を噛み締める


「そうか

 君ともっと良い関係を築きたいと考えていたが

 またの機会にしよう」


それからは別の話になり、何事も無く終わった


2人がクライアントを見送り、応接室に戻ってきた

俺はケイに近寄る


「おいケイ」

「ん?」


俺の苛立った声にも平然と返す

その態度が気に入らなくて、ケイに掴み掛かった


「蓮!」


栞が珍しく声を荒げる


「栞、構わない」


ケイが俺と目を合わせる


「何で俺に嘘を言った」

「何の事だ?」

「とぼけんなっ!

 あのクライアントには、栞には妹になってもらうって言ってただろうがっ!

 それが何でテメェの婚約者になってんだよっ!」

「蓮!訳を聞いて!ちゃんとした理由が「栞も知ってたのか…」」


知らなかったのは、俺だけ?


「栞も、最初から妹じゃなく、婚約者として隣にいたってのか?」

「違う…っ!ちゃんと話を「最初からじゃない」」


ケイはあくまで冷静に、俺を見る


「栞には妹として、いてもらってたよ」


掴み掛かってる俺の手をゆっくり解く


「でも、婚約者になってもらうのも俺だけ、最初から考えてた

 栞にも話してなかったが、流石…、瞬時に対応してくれた」

「…、どういう事だよ」

「一応伝えておくべきだったね。とりあえず、落ち着こうか」


ケイに促され、ソファに座る「さっきも言った様に、栞には妹としていてもらってた

 …けど、あのクライアントから栞がある思考を読み取ったから

 急遽婚約者に変えたんだ」

「ある思考?」

「内側から俺を潰そうとしてたんだ」

「!」

「ついでに日本でドラッグを広めようとしたり、

 より高性能の武器を日本で作ろうとしてた」

「日本で、武器を作るって…」

「ここは平和な国だからね、きっと武器の製造をしてたって気付かれない

 だが道具を持ち込むのが至難だ

 どんなに部品を上手く隠し、運びこもうと考えても無理だろう

 そこで、俺だ

 言ったろ?俺は有名人だって

 それは表と、裏社会で共通してる

 そして…、そんな有名人の俺は、桜井組の影…鷹と通じてると噂されてる」

「!」

「実際通じてるしな」


ケイはニヤッと口角を上げ


「ここまで話せば、大体の想像が出来るか?」


ケイと栞…鷹の繋がり、あのクライアントの考え…

武器を


「栞の力を使って、運びこもうとした…?」

「正解」


ちょっと待て

って事は


「栞の力を知ってる奴がいるって事か…!?」


いや、実際にいる

さっきまで対峙してたアイツがそうだ

でも何で…


「何で、栞の力を知ってんだ」

「ん〜、それは少し違うな。まあさっきの言い方が悪かったな

 厳密に言うと、鷹の能力を知ってるんじゃなく

 俺が、密かに…確実に、武器を運びこめるルートを持ってるって噂があるんだ

 だから桜井組の鷹を知ってる連中はごまんといるが、あくまで存在を知ってるだけだ

 …で、本題に戻るぞ

 あのクライアントは、俺の近しい者と婚姻関係を結び

 そのルートを手に入れようと考え、かつ俺を潰し会社を乗っ取ろうとした

 だから栞にあんな質問をしたんだ

 で、阻止する為に急遽婚約者に変えた」

「…」

「これで、お前の疑問と不安は消えたか?」

「…ああ」


俺は立ち上がり、ケイに頭を下げた


「思慮不足で、すみませんでした」


依頼人なのに、掴み掛かっちまった


「謝る事はないよ

 誰だって恋人が他人の婚約者だなんて、しかも目の前で言われたら、ねぇ?」


ケイは栞に視線を向ける

同じ様に栞に視線を向けると

栞は俺とケイを見るも、何も言わなかった