10…少しだけの真実(1)

和士side

さっきの暴走で、体が悲鳴を上げた

紫音にベッドに寝かせる様伝え、リビングに戻る

ソファに座ると紫音が向かいに座る


「俺には説明してくれるよね?」

「ああ、でも条件がある」

「何」

「絶対に誰にも言うな。勿論、蓮にもだ」

「!?  和士さんは分かってるよね?蓮が姉さんを好きだって」

「だからこそ、黙ってなきゃいけない。今の栞にも、蓮にも言っちゃいけねぇんだ」

「…」

「栞が誘拐されてから、9年後位に俺が見つけた。

    病院で検査して、落ち着いて話を聞けば、普通の生活を…世界を知らずに生きてきてた

    検査の結果、記憶喪失だと分かった。

    但し…蓮に関する記憶だけな」

「何で、蓮だけ…」

「さぁな。でも記憶が無い状態で、栞として蓮に会わせる訳にはいかねぇ

    お互いの為に、分かるだろ?」

「そう…だね。蓮が知れば、悲しみや辛さが増すだけだ」


紫音は唇を噛み締める


「俺はあの事件で、色んな奴に色んな事を言われてきた。

    だから、何で俺がこんな目にって

    それでも引き取ってくれた親戚が良い人達で

    だけど姉さんは…っ!」


両手を膝の上で握り締め、肩を震わす


「和士さん」

「何だ」

「姉さんは、蓮と会ってから一度も笑ってない。

    いや、表情を一切変えないって方が合ってる。

    前に俺にだけ…笑ってって頼んだら、ほんの少しだけ笑ってくれた」

「それは、蓮以外にも人は居たか?」

「うん、倉庫でだったから」

「紫音はともかく、他人が居るとこで、今の栞が笑う事は無ぇだろうな

    お前に笑ったってのも、感情の笑うじゃなく、ただ口角を上げただけだ」


紫音は目を見開いてショックを受けてる


「…何で、笑ってくれないの」

「詳しい事は知らねぇが、俺が聞いた時は『どうやって笑うんだっけ』って言ったな」

「!?」

「俺も笑ってくれる様に試行錯誤して、失敗して…聞いたんだ

    『どうして笑ってくれない?何で無表情のままなんだ』って、そう言ったらな?

    『関わりたくないから』って…」

「…っ」

「心を閉ざして、感情を消して…自分や周りを傷付けずに済む様にしてるのかもな」

「そんな…」

「悪いな、こんな話」

「大丈夫、俺が頼んだんだ。姉さんを誘拐した奴等は捕まってる?」

「いや…栞は逃げてきたらしい。だから、今は俺や楼が護ってる

    自分が関わった人間には危害が及ぶ、そう考えてるから誰にも関わろうとしないんだ」

「今までの行動は、そういう事か…。」

 

 

紫音side

1人で何もかも背負い込んで、誰にも関わらず…苦しんでる

俺は、姉さんを護りたい

どんな危険な目にあっても、もう…姉さんの側を離れたくない、俺が姉さんを護る

 


「和士さん」

 

 

和士side

紫音は俺に目を合わせ


「これからは、俺も姉さんを護る。」

「危険な目に合うかもしれないぞ」

「覚悟は決めた」

「…」


良い目だ


「ならこれから頼むな、紫音。今井には俺から言っとく」

「うん」

「楼にも会っておけ。栞の事情を知る人間として」

「楼さんに?普段滅多に会えないのにどうやって…」

「心配するな、栞がやってくれる」

「姉さんが?連絡取れるの?」

「まあ、栞に任せておけ」

「分かった」