5〜倉庫へ(1)

蓮side

屋上に続く階段まで走ってきた。念の為、気配を消してドアまで歩く

ドアノブを握れば、ガチャ…と僅かにドアが動く、開いてる

雫が居る

静かにドアを開け、屋上に出る

雫はフェンスに凭れて座って寝てる

俺が来ても直ぐには気付かねぇのか

フードと眼鏡は取ってる、手間が省けたな

そっと手を伸ばしウィッグを外す、綺麗な黒髪だ

視線は自然と髪から唇に、桜色の綺麗な唇だ

俺は頰に手を添え指で唇をそっと触ろうとした


「何やってる」

「!?」


いつの間にか起きてる雫

向けられる目は冷たい

頰に添えてる手を払い退けられる


「チッ、お前に気付かなかったとはな」


雫は立ち上がり、パンパンと汚れを払う


「雫」


雫は俺を無視して、フードを被り屋上を出ようとする

パシッ

雫の手首を掴み、グッと引き込む


「わっ」


バランスを崩させ腕の中に

腕を突っ張って離れようとしてるが、抑え込む

っつか女なのに、なんだこの力


「おい、離せ」


折角捕まえたのに離す訳ねぇだろ

暫くすると諦めたのか、疲れたのか抵抗しなくなった


「雫」

「…なんだ」


こんだけ密着して、目を合わせない

なら…


「ちょ…待てっ」


フードを外し、顎を掴んで上に向かせる

眼鏡を外し、ポケットに

雫は左目にカラコンを入れてる

間近だから分かる、これは人工的な黒だ

だが今はあえて、目は触れず

顎から手を離し髪に触る


「綺麗な髪だな」

「…もう、いいだろ。離せ」


倉庫に行きてぇが、この姿の雫を他には見せたくねぇな


「やっぱり、フードと眼鏡しとけ」

「はあ?」

「倉庫行くからな、そこまでは男で来い」

「ちょっと待て」

「何だ?」

「何で俺が倉庫に行かなきゃいけない」

「白狐の姫だから」

「姫になったつもりは無い、なるつもりも無い。」

「俺が姫にすると決めた、そん時からお前は白狐の姫だ」

「勝手な事言ってんじゃねぇ、姫なんか誰がな…っ!」


説き伏せるのを一旦諦め、肩に担ぎ屋上を出る


「おい!離せ!」

「離すと逃げんだろ」

「当たり前だ!」


そんなやり取りをしてる間に駐輪場に着く

雫を下ろし手を握る


「勝手な奴だ」

「どうとでも言え。後ろ、乗れるか」

「乗る乗らない以前に、行くって言ってねぇ」


…仕方ねぇ

雫の腰を掴む


「わっ」


コイツ、軽い


「おいっ」

「もう諦めろ」

「…はぁ」

「危ねぇから、俺の腰に腕回しとけ」

「…」


おずおずと腰に腕が回る

その手を掴み、腹の前で組ませる


「!?」


雫は驚いて手を離そうとするが、俺が強く握ってるから無理だ


「行くぞ」