17…自分の気持ち(桜井 蓮)

蓮side

雫の退院日は知ってたが、俺達が行った頃には既に居なかった

会いたいと今井に雫の家を聞いたが


『1人暮らしの女の子の住所を教える訳ないだろ』

 

仕方なく帰路に着いた

それからだ、雫と会えなくなってるのは

紫音にも、あれから会ってない

朔に、暫く倉庫に行かないと連絡が入った

水沢先生のとこにも行くが


「さっきまで居たんだけど、今日もすれ違いね」


いる筈の時間に行くのに、何故か会えない

それが何週間にも続き、気づけば一ヶ月は経ってた

もう、学校にも行く気が無くなって、一日倉庫に居るのが多くなってる

雫に会いてぇ

紫音にも、聞きたい事が


「蓮」

「…」

「蓮」

「…」

「蓮?」

「…んだよ」

「はぁ、やっと返事してくれましたね。ずっと不機嫌になってるもんですから」

「…ッチ」

「こら、舌打ちしない」

「……少し外出てる」

「分かりました」


ピコン


「紫音からの久し振りの着信ですね」

「!」

「…今日は倉庫に顔を出すそうです」

「そうか」


俺は倉庫から出て、周りから死角になる場所の壁に凭れ空を見上げる

くそ、何でこんなモヤモヤしてんだ

雫を考えれば考える程…

コツ…コツ…コツ…

遠くから靴音

この気配は…紫音か

声を掛けようと一歩踏み出したが、目の前の光景で咄嗟に隠れ、気配を消す

紫音と、手を繋いでる雫

どうして、紫音と一緒に…しかも何で手を繋いでる


「…、…」


何を話してる


「蓮達は最近、倉庫に一日居るらしいね。学校に行っても居ない訳だ

    姉さ「ストップ」」

「雫って呼ぶのを忘れないで」

「ゴメン。最近、ずっと言ってなかったから、忘れてた」

「外だけでいいから。…皆に気づかれる訳にはいかない、手も離さないと」

「うん、分かってる。じゃあ行こ、雫」


紫音と雫が倉庫に入って行く


紫音が言い掛けた言葉は何だったんだ

それに、最近ずっと言ってなかったって…

しかも、外だけでいい…

まさかこの一ヶ月、今まで一緒にいたのか!?

呼び方を変えて、手も繋いで…

紫音が、あんなに穏やかな顔で

まるで、昔の紫音に戻ったみてぇだ

一体、どういう事だ


「あ、総長!今紫音さんと神凪さんが来ました!」

「ああ、分かってる」


部屋に入れば


「あ、蓮。久し振り」

「…どうも」


紫音が俺に声を掛け

雫は一瞬目線を合わせ、一言だけ


「おう、久し振りだな」


俺も座り、2人を見る

雫は変わってねぇが、

紫音は…何だろな、穏やかな表情といい、雰囲気が変わってる


「紫音、雫も今まで何してたんだよ?」

「倉庫に来ないって連絡があってから、一ヶ月も経って、少し心配してたんですよ?

    雫さんも、全然会えませんでしたし」

「悪い、実は親戚の方で用があって。」

「そうだったんですか。っていうか…紫音、口数が多くなりましたね。

    雰囲気も前と違いますね」

「それ、俺も思った」

「そうか?」

「ああ。前は人を寄せ付けないって感じだったけど」

「そんなだったか?でもまあ、これが本当の俺だな。」

「そっちの方が良いです。」

「だな!無口ってのもクールでカッコいいと思ってたけど、そういう紫音もいい!」

「サンキュ」


紫音と朔、春也が話してる間、俺はずっと雫を見てる

雫は腕を組んで俯いて目を瞑ったまま動かない


「雫!お前も何やってたんだ?」

「…」

 

春也が声を掛けるが、何も答えない


「雫」


紫音が静かに声を掛け、肩に手を置き顔を覗き見る

!?…近くねぇか

内心、立ち上がりそうになるのをグッと堪える

紫音は口元に人差し指を当て


「寝てる」

「寝てる?」

「雫さんが?」


紫音以外、驚いて雫を見る

俺達の前では、眠たそうにしてる時があっても頑なに眠らなかった

一度、今井に話してみたら


『お前等だって信用してない相手の前で寝れるか?』


信用してない相手…

病院でもそうだが、言われた時はショック受けたな

だから今、目の前で寝てるのにかなり驚いてる


「寝てるけど、俺が離れたらすぐに起きる」

「何で?俺達が信用出来るから寝てるんだろ?」

「…ゴメン、そうじゃない。俺が傍にいるから、辛うじて寝れてるんだ。

    いや、寝れてるって言うより多分、寝ちゃったって感じかな」

「!?」

「どういう事ですか?」

「…これ以上は言えない」


紫音が傍にいるから、寝れてるだと…


「相当疲れてるみたい」

 

疲れてる…


「紫音。何でそこまで、知ってんだ」

「…」

「答えろ」

「…ゴメン」

「!…おいし「止めろ」」

「「「!?」」」


寝てる筈の雫が目を開ける


「前にも言った。関係無ぇ奴に話す必要は無い」

「お前、またそれか…」

「必要以上に俺に関わってくるな。紫音、行こう」

「え、あ…うん。じゃあ」

 

バタン

扉が閉まり、部屋は静寂に包まれる


「少しは心開いてくれたと思ったけど…違うんだな」

「まだ、ダメみたいですね」

「…」


紫音と雫、あの2人の間に何が…


「出てくる」

「分かりました」


気配を消し、数m先の2人を追う

また手を繋いで歩いてる


「アイツ等の前で寝るなんて、気が緩み過ぎた」

「この一ヶ月、毎日俺のサポートをしてくれたんだから。しょうがないよ

    お陰でだいぶ力が付いた」


やっぱり一緒にいたのか

サポート?

力が付いた?

紫音が変わったのは雫が関係してるのか

ふと2人が止まり、俺は角に隠れる


「じゃあ、酒向さんとこに行ってくる」

「やっぱり家に呼べばよくない?」

「資料が沢山あるから、持ってきてもらうのは申し訳ないよ。」

「私がいる」

「力を消耗し過ぎてる、現に蓮達が居るとこで寝ちゃってたでしょ。家で休んでて」

「ん、分かった。じゃあ、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


雫が1人になったから、わざと気配を出し気づかせる

案の定、雫は振り返らずに


「何か用」

「この一ヶ月、紫音と何してたんだ」

「…」

「答えろ」

「言ったよな?俺に関わるなって」

「…俺はな、お前にイラついてる。」

「………は?」

「雫、お前には分からない事が多すぎる。

    何で紫音と手を繋いでた?

    何で紫音だけがお前の何かを知ってる?

    紫音がいるから俺等の前でも寝れるって

    何で、何で紫音ばっかなんだよ…

    あ〜もう、何なんだよっ!」

「…」

「お前を見てるとモヤモヤして、イライラすんだっ!

    何で紫音だけあんな…っ、何でだよ…っ!」

「………訳分かんねぇよ」


雫は項垂れる俺を置いて去っていく


「……俺だって、訳…分かんねぇよ。」